妖祓師

☆白兎☆

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妖退治

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 その日の夜、煋蘭は大輔を連れて、妖退治に出かけた。

「俺、まだ、妖退治なんて出来ないぞ」

「無論だ。お前は見学に過ぎない」



 煋蘭の兄、皇瑞光すめらぎずいこうは、すでに数件の妖退治を終えていた。それでも、まだ終わらなかった。

「兄上、お待たせ致しました」

「遅い!」

 瑞光は煋蘭を振り返って言った。

「そいつか、お前が見つけてきた奴は」

「はい。まだ使えませんが、能力はあります」

「今日も妖の数が多い。猫の手でも借りないよりはましだ。そいつにも妖を退治させろ」

「ちょっと、そんな無茶な事言うなよ。俺、妖なんて見た事もないぜ」



 そんな会話をしている間に妖が現れた。

「結界を張ります」

 瑞光の相棒、水瀬春奈みなせはるなが結界を張った。



 妖の数は三体。二体は小物だが、一体は身体も大きく強そうだ。

「煋蘭、こいつは私がやる。他の二体をお前たちでやれ」

「御意」

 煋蘭は即座に動き、一体を瞬時に滅した。もう一体の小物は素早く逃げた。大輔の目の前に来た妖は、鋭い爪で大輔に襲い掛かった。

 大輔はとっさに妖を拳で叩き潰した。



 その時すでに瑞光は、大物を滅していた。

「終わったな。煋蘭、帰るぞ」



「ちょっと。俺、妖を倒したんだ。誰か褒めてくれてもいいだろう?」

「調子に乗るな」

 煋蘭が冷たく言い放ったが、その言葉に大輔は今までにない温かみを感じた。




 屋敷に戻ると、煋蘭は汗を流しに風呂へ向かった。

 大輔が自室に向かおうと廊下を歩いていると、

「お前、名は何という?」

 瑞光が大輔に尋ねた。

「兵藤大輔。あんたは煋蘭ちゃんの兄貴か?」

「ああ、瑞光だ。これは、水瀬春奈。私の伴侶となる者だ」

「おお、そうなんだ。いつ結婚するんだ?」

「一月後だ」

「羨ましいな。こんな可愛い子」

 水瀬春奈は、小柄で控えめ眼鏡女子。瑞光の後ろに半分隠れるように立っている。

(なんか、小動物みたいでかわいい)

「お前、私の伴侶を厭らしい目で見るな。殺すぞ」

「あっ、悪い。心の声がダダ洩れで」

(煋蘭ちゃんの殺すぞは、兄貴の口癖か)

「お前、心を読まれないようにしろ。煋蘭の前では特にな。ここにはお前みたいな下種な男はいない。煋蘭の機嫌を損ねるなよ」



 瑞光と水瀬春奈は、敷地内にある別邸に住んでいると言った。



「お帰りなさい、大輔君」

 煋蘭の父と廊下で会った。

「ただいま戻りました。まだ起きていたんですね」

「そうだよ。僕らも現役だからね。因みに、義父も現役だよ」



 煋蘭の父、皇武則すめらぎたけのりは婿で、妻の杏華きょうかとは、はとこだという。

「なるほどね。みんな皇の血を引く者なんですね。瑞光さんの婚約者の春奈さんも皇の血を引いているんですか?」

「そうだよ。春奈ちゃんは杏華の姉の子で、二人はいとこ同士なんだ」

「え? いとこ同士って、結婚できるんでしたっけ?」

「親族同士の結婚は、四親等以上だから、一番血が濃い結婚がいとこだよ」

「皇の血を絶やさないためなんですね」

「そういう事だよ。どうだね、君も皇の血を引いているんだ。相当薄いが、能力は高い。まだ眠っている力もある。煋蘭の婿になる気はないかね?」

 突然の申し出に、大輔は言葉も出なかった。あんなに厭らしい思考をみんなに読まれて、下種な男とさげすまれているとばかり思っていた。

「いいんですか? 俺で」

「妖退治として、能力は一番重要だからね。それに煋蘭も、君を気に入っているようだから」

「そんなことはないでしょう。あんなに怒って、何度も殺すって言われているんですよ」

 武則は薄く笑って、

「今日は初めて妖を退治したんだってね。煋蘭が教えてくれたよ。君も疲れたでしょう。お風呂に入って休むといい」

 と言った。



 大輔は部屋へ戻り、着替えを持って風呂に行った。



 旅館の風呂のように広い脱衣所で大輔は裸になり、浴室の引き戸を開けると、一瞬、湯気が視界を遮った。

 広い浴槽に目をやると、真正面でこちらを向いて湯に浸かる煋蘭がいた。

「あっ、悪い。入っているとは知らなかったんだ」

 大輔は思わず目を覆った。見てはいないことをアピールするためだ。

「構わぬ」

(え? 俺、どうしたらいいの? 煋蘭ちゃんが見ている前で身体を洗うことになるけど……)

「何をしている。さっさと身体を洗え」

「お、おう……」

 大輔は煋蘭に見られていることを意識しながら身体を洗った。

(やべぇ、見られてると思うと、なんか意識しちまうじゃないか。だめだ、落ち着け。煋蘭ちゃん俺なんかに興味ないし、まったく意識もされていないんだ。心を静めよう)

 なんとか収まり、身体を洗い終わると、浴槽の隅の方で湯船に浸かった。



 その時、煋蘭はすっと立ち上がり、

「先に出る。ゆっくり浸かるといい」

 そう言って、身体を隠すことなく颯爽と出て行った。

(なんて凛々しいお姿なんだ。すらりとした手足。この綺麗で華奢な身体から、あの怪力は想像できない)



 大輔は一人でゆったりと身体を伸ばして浸かった。

「はぁ~。今日は激動の一日だったな。寝て覚めたら夢だった、なんてことないだろうか?」

 汗を流してすっきりした大輔は風呂から上がり、脱衣所で身体を拭いていると、煋蘭の両親が入って来た。あわてて下着を穿き、

「すぐに出ます」

 と急いで寝間着を着て脱衣所を出た。

「あ~、びっくりした」

(脱衣所も風呂も広いから、順番は気にせずに入れるのだろうが、男女構わず入るとは。煋蘭ちゃんがまったく気にするそぶりもなかったのは、これがここでは普通だからか)



 大輔は自分の部屋へ入ると、押し入れから布団を出して敷いた。

「今時、布団とは古風だな。ここにいるとタイムスリップした気になる」

 一度着た寝間着を脱いで、下着だけで布団に入ると、すぐに寝息を立て始めた。
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