妖祓師

☆白兎☆

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鍛錬

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「起きろ」

 大輔の布団がはがされた。

「なんだ⁈」

 驚いて目が覚めた大輔は、目の前に立つ煋蘭をしばらく見つめた。

(そうか、夢じゃなかったんだな)

 煋蘭も大輔をじっと見ていたが、動く気配のない大輔に焦れたようだ。

「早く着替えろ。庭で待っている。朝の鍛錬だ」

 そう言って部屋を出て行った。

「急にそんなこと言われても、俺、寝起きだぞ」

(寝起き? あっ……)

 大輔は股間に目をやる。

「煋蘭ちゃん、これ見えてた?……」



 服を着て庭に出ると、煋蘭が待ち構えていた。

「遅いぞ!」

「これでも急いだんだ。そう、怒るなよ」

 へらへらしている大輔に、問答無用の重い蹴りが繰り出された。大輔もこのパターンに慣れて躱すことが出来たが、その後の拳による一撃は鳩尾に深くめり込んだ。

「ぐはっ」

 強い痛みに耐えられず、前のめりに倒れた。

「お前、何も身に付かないのか? 攻撃を躱すことが出来なければ、防御を覚えよ」

 痛みと苦しみで声も出ない大輔を、冷ややかな目で見下ろす煋蘭。

(惨すぎるよ。俺、昨日突然連れて来られたばかりだよ。戦う術なんて身に着くはずがないだろう。煋蘭ちゃん強すぎだってば。これじゃ、俺、妖退治の前に死んじゃうよ)

 大輔が心の声でそう訴えると、

「ならば、防御の仕方を教えよう。さあ、立て」

 と言う。大輔は何とか声を絞り出して、

「俺、まだ痛くて立てないんだけど?」

 と言うと、

「甘えるな」

 と冷淡な言葉が返って来た。

(煋蘭ちゃん、手厳しいなぁ。修行が厳しいのは分かるけど、一方的に攻撃してくるのは勘弁して欲しいよ)

「お前が無防備すぎる。妖はお前に手加減などしない。修行でも気を抜くな」

 煋蘭が正論で大輔を一喝した。これには何も言い返せない大輔だった。

「煋蘭ちゃん、修行の前に治癒が必要なんだけど? どうしたら治癒の力を使えるの? 昨日は自分で治癒できたんだけど、どうやったのか俺にはよく分からなかった」

 そう大輔が聞くと、

「そこに座れ」

 大輔が言われた通り座ると、

「目を閉じて集中しろ。精神を研ぎ澄ませて余計な事は考えるな。身体の気を巡らせろ」

 と煋蘭は指示を与えた。しかし、普段から雑念だらけの大輔に、余計な事を考えずにいる事は難しかった。気を巡らせるという事も分からない。何をどうしたらいいか分からず、考えを巡らせていると、

「雑念は捨てろ。無になれ。気を巡らせろ」

 煋蘭は再び指示を出したが、大輔の雑念が消えることはなかった。

「もういい。お前には早かったようだ。私が治癒する。じっとしていろ」

 煋蘭はそう言って屈み、大輔の鳩尾に手を翳して気を送ると、暫くして痛みが引いていった。

「煋蘭ちゃん、人の傷の治癒も出来るの? 凄いな」

 大輔が褒めると、

「黙れ、無能が」

 煋蘭が悪態をついて立ち上がり、大輔を冷ややかに見下ろした。

「治癒には力を消耗するのだ。お前、弱いことが罪だと自覚しろ」

 厳しくそう言ったあと、

「防御の方法を教えるから、しっかりと身につけよ。さあ、立て」

 と早速修行を開始した。

「分かったよ。煋蘭ちゃん、傷を癒してくれてありがとう。修行、頑張るからさ、もうちょっと愛想よく頼むよ」

 大輔がヘラヘラと笑って言うと、煋蘭は不機嫌そうに睨み、

「愛想など無意味だ」

 と吐き捨てるように言った。

「防御には気を使う。敵の攻撃を受ける時、それを気で受け止める。相手の動きをよく見ろ。私がお前に拳を当てるから、それを手で受け止めろ。お前は受け止める掌に気を集めるのだ」

 煋蘭が言うと、

「煋蘭ちゃん、その気って何? どうやって集めるの?」

 と大輔が質問する。

「お前は自分の中に流れる気を感じないのか?」

「感じたことなんてないよ。気ってどんな感じよ?」

「血液と同じだ。身体中に流れている温かいものだ」

「血液ねぇ。そう言うのをイメージすればいいって事だな?」

 大輔が気を感じ取る為にイメージしながら集中すると、温かいものが身体を流れているの感じ取る事が出来た。

「おおっ! こういう事か! 分かるぞ! これが気って奴なんだな?」

 大輔が嬉しそうに言うと、

「それが気だ」

 少し呆れたように、そして安堵したように煋蘭は一つ息を吐いた。潜在能力がある事は分かっていたが、妖祓師あやかしはらいしの知識も霊力の使い方も分からない素人の大輔を一人前にするにはまだまだ時間がかかりそうだった。



「その気を防御にも攻撃にも使うのだ。お前は攻撃を覚える前に防御を覚えろ。私の攻撃を防御してみろ」

 煋蘭はそう言って、早速、実戦に入った。まずは横から蹴りを入れる。先ほど食らった鳩尾を狙った蹴りに、大輔はあの痛みを思い出して飛びのいた。

「逃げるな! 受け止めよ!」

 煋蘭は更に連続の攻撃を仕掛ける。右の蹴り、左の蹴り、右の拳に左の拳。痛みを知っている大輔には、攻撃を受ける恐怖に勝てず、ただただ、攻撃を躱して逃げた。

「煋蘭ちゃん、これは怖すぎだよ。逃げるなと言われても、痛いのは嫌だから、身体が勝手に逃げちゃうんだよ」

「これでは修行にならぬ」

 煋蘭は攻撃を止めて、息を一つ吐くと、

「では、私が攻撃する前に構えよ。まずはここへ蹴りを入れる」

 そう言って伸ばした右足の甲を大輔の左わき腹へ触れた。

「そこに気を集中しろ、行くぞ」

 そう言うと煋蘭は思い切り蹴りを入れた。もちろん、反射的に大輔は飛びのいて避ける。

「逃げるな! 次、逃げたら確実に当てていくぞ」

 そう言って、また同じ場所を狙って蹴りを入れるが、やはり大輔は怖くて飛びのいてしまった。そして、宣告通り、煋蘭の次の蹴りが反対側の脇腹へとめり込み、大輔は勢いよく飛ばされて意識を失った。
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