妖祓師

☆白兎☆

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人型の妖

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 その夜、煋蘭と大輔が妖退治を始めると、その結界の中には無数の妖の気配があった。

「これは、どういう事だ?」

 煋蘭がいつになく動揺した。

「いくら下級の妖でも、これは多すぎじゃないか?」

 大輔が言うと、

「おかしい。調査員の情報と違う」

 煋蘭は援軍の要請の為、式神を二体、結界の外へ出した。

「援軍が来るまでは、我ら二人だけだ。気合を入れてやれ」

 煋蘭はそう言うと、なぎなたを振るって、片っ端から妖を薙ぎ払っていく。一振りで五体、二振りで十体。次々と斃していくが、全く数が減る様子はない。どこからか湧いてくるように妖が現れる。大輔は小石を拾い、気を込めて投げつけて妖を斃していく。ほとんどの妖は妖力が弱く、簡単に斃れていくが、それでも、数の多さが半端なかった。

(何者かが妖を送り込んでいるようだ)

 煋蘭は思念で大輔に伝えた。

(それじゃ、その何者かって奴を見つければいいんだな?)

 大輔が聞くと、

(そうだ、こ奴らは私がやる。お前は強い妖気の者を見つけて私に知らせろ)

 と煋蘭が答え、

(一人で戦うなよ)

 と付け加えた。

(おう、分かった)

 大輔は精神を集中させると、妖気を捕らえた。

(居たぜ)

 大輔がその妖気を辿っていくと、そこには人の姿があった。しかし、その者が放つ気は、妖のそれだった。見ると、その人型の妖は若い男性で容姿端麗、その立ち姿は美しくもあった。

(こいつ、妖のくせに、人の姿をしているのか?)

 その妖は大輔に視線を向けた。妖のとの距離は十数メートルある。しかし、瞬時に移動できれば距離などあっても無意味だった。他の下級の妖とは比べものにならないほど強い妖気を持つ妖と大輔は互いに見合い、どちらも全く動かず、相手の出方を窺っていた。そこへ、なぎなたを振り、妖を薙ぎ払いながら煋蘭がやって来た。

「お前だな。妖を送り込んでいたのは」

 煋蘭は人型の妖に向かって言った。

「そうだ。あれはお前たち妖祓師あやかしはらいしをおびき寄せる餌だ。まずは下級の者から殺そうと思って。引っかかったのは相当な雑魚だったが、それでも放っては置けないからね。妖の敵は駆除せねば」

 人型の妖はそう言って、冷たい視線で煋蘭を見る。

「お前が我ら妖祓師を駆除するだと? おかしなことを。妖は人の闇から生まれ、人の手によって消滅するのが運命さだめ。我ら妖祓師がお前たちを駆除する!」

 煋蘭はそう言って、なぎなたを振って、人型の妖へ向かって行った。

「愚かだな。相手の力量も分からぬのに無謀にも向かって来るとは」

 人型の妖はそう言って、腕を一振りすると強い風が吹き、煋蘭は後方へ吹き飛ばされた。

「煋蘭ちゃん!」

 大輔が駆け寄ろうとすると、その背中から腹まで刀が突き抜けた。

「敵を前にしておきながら、背を向けるとは」

 妖は同情するかのような悲壮な表情を浮かべて言う。背中を刺された大輔は、その場に前のめりに倒れた。煋蘭は地面に強く打ち付けられ、その痛みに苦痛の表情を浮かべていた。

「ほら、逃げないと死んじゃうよ?」

 妖は大輔の身体を刀で何度も刺していく。

「やめろ!」

 煋蘭はなんとか、立ち上がり、再びなぎなたを手に妖へ向かって行った。しかし、また同じように吹き飛ばされて地に打ち付けられた。



「よく耐えたな」

 突然そう言って現れたのは、煋蘭の兄の瑞光ずいこう。そして、パートナーの水瀬春奈みなせはるなだった。

「二人を連れて帰りなさい。あとは私と瑞光様で片付けます」

 式神は水瀬春奈の命令に従って、煋蘭と大輔を連れて屋敷へ向かった。

「ほう、今度は強そうな奴が来たな」

 と妖は口元に笑みを浮かべたが、その笑みは一瞬のうちに消滅したのだった。瑞光の祓いは目にも留まらぬ速さで振るう刀。斬られた事さえも、相手に気付かせない。それが彼の凄技だった。斃した妖は皆消えていくが、確かにそこに妖がいたという残渣は消えない。

「随分と多くの妖がいたようだな。それをあの二人で斃した事は褒めてやろう」

 瑞光はそう言って、口元に笑みを浮かべた。



 式神たちが二人を屋敷へ運び込むと、

「これは酷くやられたものだな」

 と玄関口で皇真琴すめらぎまことが出迎え、

「大輔は儂の所へ連れて来い。煋蘭、お前は自分で治せ」

 そう言って、廊下を歩いて自室へ入った。そこには布団が敷かれていて、式神が大輔を寝かせると、真琴は大輔の身体に手を翳して霊力を送り込み、傷を治癒していく。

「よくこれで死ななかったな」

 刺し傷は無数にあり、それらを全て治癒したが、かなりの出血量だった。

「輸血が必要だな」

 真琴は思念を送って、すでに医師を呼んでいた。といっても、この医師は、皇東家すめらぎとうけに仕える専属の医師で、ここに住んでいるため、ものの数分でやって来た。

「これはまた酷いね。それで、誰の血を使う?」

 医師が聞くと、

「私のを」

 と煋蘭が真琴の部屋の前まで来て言った。

「入れ」

 真琴が言うと、

「失礼します」

 と言って、煋蘭が部屋へ入って来た。強い妖の攻撃で傷付き、怪我の治癒の為に霊力を使った煋蘭は歩くのもやっとという程の状態だった。

「では頼んだぞ。儂は他の部屋で休む」

 そう言って、真琴は部屋を出て行った。

「じゃあ、早速始めるよ。煋蘭ちゃん」

 医師はそう言って、二人をカテーテルで繋ぎ、直接輸血を開始した。
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