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刀は友達
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大輔が目覚めると、傍らには煋蘭が座していた。
「煋蘭ちゃん」
大輔が布団から起き上がると、
「具合はどうだ?」
と煋蘭が尋ねた。
「煋蘭ちゃん、俺、生きてるよね?」
と逆に尋ねた。
「当り前だ」
「でも、俺、すげー刺されてたよ? 生きてるのが不思議なぐらいだ」
と大輔が言うと、
「お前はあれくらいでは死なぬ。ただ、危険な状態ではあった」
と煋蘭は表情を曇らせて、
「守りきれずに済まなかった」
と大輔に頭を下げて詫びた。
「煋蘭ちゃん、やめてよ。あれは俺が悪い。敵に背を向けたんだからな」
「そうだな。気を散らすなと何度言ったら分かるのだ? 例え相棒が倒れても、決して敵に隙を見せるな、愚か者」
煋蘭はそう言って、大輔を諫めた。
「ごめん、気を付けるよ。ただ、あの時は、煋蘭ちゃんが目の前でやられてさ、煋蘭ちゃんの事が心配でさ、それしか頭になくて、つい……」
大輔が言うと、
「言い訳は聞かぬ。結局、無様な結果となった。それが事実だろう? 援軍が無ければ、我ら二人はあの場で命を落としていただろう」
と煋蘭は静かに諭した。大輔はその言葉にただ無言で反省していると、
「朝の鍛錬に行くぞ」
と煋蘭が言葉をかけて立ち上がった。そして、
「怪我をしたからといって、手加減はせぬからな」
と付け加えた。
煋蘭が先に庭に立ち、式神が煋蘭になぎなたを渡す。
「お前は刀を持て」
煋蘭がそう言うと、式神が大輔に刀を手渡した。
「え? いいの?」
大輔が嬉しそうに言うと、
「お前は刀の扱い方を覚えねばならない。妖に隙を与えるな」
と煋蘭は言って、
「気を使えるようにはなったが、その気を刀に込めて使う方法を身につけろ。お前は石に気を込めて使っていたが、刀を使う時はそれだけではだめだ。刀は生き物、気を込めるというより、宿らせるのだ。その刀は今からお前と一心同体。しっかりお前の精神を宿らせよ」
とその神髄を伝えた。
「おう! 刀に俺の精神を宿らせるんだな? やってみよう」
大輔はそう言って、刀を両手に持って精神を集中しようとしたが、
「違うぞ」
と煋蘭が一言言う。
「え?」
大輔は訳が分からず戸惑った。
「先ずは、鞘から刀を抜け。鞘は式神に持たせておけ」
煋蘭が言うと、大輔は素直に従った。
「刀を構えよ。いいか、刀は道具ではない。お前自身と思え」
煋蘭はなぎなたの剣先を大輔に向けて言った。
「おう!」
大輔も切っ先を煋蘭に向けて構えた。その瞬間、煋蘭のなぎなたが大輔の刀を払った。ものの見事に刀は晴天の空に向かって舞い、きらりと陽の光を照り返しながら落下し、地に刺さった。
「これがお前自身の精神の弱さだ。簡単に薙ぎ払われる無様さを恥と思え。もう一度、その刀を握れ。そして離すな」
煋蘭に言われて、大輔は再び刀を握ると、またもや同じ結果に。何度繰り返しても、刀は簡単に大輔の手から離れてしまった。
「今日はこれまでだ」
煋蘭は一言言って、大輔に背を向けて、
「その刀はお前自身だ。決して離すな。常に所持していろ」
と付け加えた。
大輔は刀を鞘に戻して、自室へ行き座って刀を目の前に置いた。
「どうしたら刀を離さずにいられるんだ? 煋蘭ちゃんの力に負けているから刀が払われるのか? だったら、筋トレが必要か?」
大輔は独り言を言いながら考えていると、
「大輔君、調子はどうかね?」
煋蘭の父、武則がそう声をかけた。障子が開け放たれていて、大輔の様子が部屋の外から見えていて、
「元気そうで良かった」
と微笑んだ。それから、
「難しい顔をして、考え事かな?」
と尋ねた。大輔の独り言も、心の声も武則には聞こえているはずだった。大輔が何に悩んでいるかもお見通しなのだろうと大輔は思い、
「お義父さん、俺、悩んでます。教えてください」
と素直に教えを乞う。
「うん、いいよ」
そう言って、武則は大輔の部屋へ入り、刀を挟んで大輔と対面した。
「刀に精神を宿らせるのには時間がかかる。今すぐには出来ないよ。お友達だってそうでしょ? 出会ったその日に全てを許し合える仲にはなれない。それと同じだよ」
武則がそう諭すと、
「そうか! そうだよな。分かった気がする。ボールは友達ってやつと同じだな」
と大輔が言う。武則は怪訝な表情を浮かべながらも、大輔なりの解釈なのだろうと受け流した。
「煋蘭は言葉足らずだけど、君を大切に想っているし、君を強くするために毎日鍛錬を続けている。そして、絆を深めるためにあの子なりに努力をしているんだよ。それを分かってあげて欲しい。というか、大輔君も分かっているよね。煋蘭の想いを」
と武則は言って、
「それじゃあ、刀と友達になれるよう頑張ってね」
と言葉を残して部屋をあとにした。
そこへ、煋蘭が膳を持ってやって来た。
「朝食だ。しっかり食べて英気を養え。傷は癒えたが、お前の霊力は回復していない」
そう言って、大輔の前に膳を置いた。
「煋蘭ちゃん、いつもありがとう」
大輔が礼を言うと、
「礼には及ばぬ」
と素っ気なく言い、部屋をあとにしようとした煋蘭に、
「ねえ、煋蘭ちゃん。昨日の俺の怪我って、煋蘭ちゃんが治癒してくれたの?」
と大輔が問うと、
「私ではない。お前の治癒をしたのは祖父だ」
と答えた。
「え? 煋蘭ちゃんのおじいちゃん?」
「そうだ」
「俺、おじいちゃんにまだ、会ったことなかったな」
「夕べ会った。お前は気を失っていたがな」
「俺、あんなに血が出ていたけど、それも治癒で治るの?」
「多少なら霊力で造血も可能だが、あれだけの出血では輸血が必要だった」
「え? じゃあ、おじいちゃんの血を貰っちゃったの?」
「輸血は私の血だ」
「え? 煋蘭ちゃん、こんなに細いのに、俺に血を分けちゃったら大変じゃないか!」
大輔はその事実に動揺し、
「今すぐ血を返すよ!」
などと、訳の分からぬことを言った。
「お前はどこまで阿呆なのだ? お前の目の前にいるこの私が弱く見えるのか? お前に血を分けたとて、私は倒れはせぬ。一晩で回復している。お前の様な貧弱と一緒にするな」
と煋蘭は言葉を返し、
「ゆっくり休め」
と言葉を残して部屋を出て行った。
「結局、煋蘭ちゃんは優しいな」
と大輔は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「煋蘭ちゃん」
大輔が布団から起き上がると、
「具合はどうだ?」
と煋蘭が尋ねた。
「煋蘭ちゃん、俺、生きてるよね?」
と逆に尋ねた。
「当り前だ」
「でも、俺、すげー刺されてたよ? 生きてるのが不思議なぐらいだ」
と大輔が言うと、
「お前はあれくらいでは死なぬ。ただ、危険な状態ではあった」
と煋蘭は表情を曇らせて、
「守りきれずに済まなかった」
と大輔に頭を下げて詫びた。
「煋蘭ちゃん、やめてよ。あれは俺が悪い。敵に背を向けたんだからな」
「そうだな。気を散らすなと何度言ったら分かるのだ? 例え相棒が倒れても、決して敵に隙を見せるな、愚か者」
煋蘭はそう言って、大輔を諫めた。
「ごめん、気を付けるよ。ただ、あの時は、煋蘭ちゃんが目の前でやられてさ、煋蘭ちゃんの事が心配でさ、それしか頭になくて、つい……」
大輔が言うと、
「言い訳は聞かぬ。結局、無様な結果となった。それが事実だろう? 援軍が無ければ、我ら二人はあの場で命を落としていただろう」
と煋蘭は静かに諭した。大輔はその言葉にただ無言で反省していると、
「朝の鍛錬に行くぞ」
と煋蘭が言葉をかけて立ち上がった。そして、
「怪我をしたからといって、手加減はせぬからな」
と付け加えた。
煋蘭が先に庭に立ち、式神が煋蘭になぎなたを渡す。
「お前は刀を持て」
煋蘭がそう言うと、式神が大輔に刀を手渡した。
「え? いいの?」
大輔が嬉しそうに言うと、
「お前は刀の扱い方を覚えねばならない。妖に隙を与えるな」
と煋蘭は言って、
「気を使えるようにはなったが、その気を刀に込めて使う方法を身につけろ。お前は石に気を込めて使っていたが、刀を使う時はそれだけではだめだ。刀は生き物、気を込めるというより、宿らせるのだ。その刀は今からお前と一心同体。しっかりお前の精神を宿らせよ」
とその神髄を伝えた。
「おう! 刀に俺の精神を宿らせるんだな? やってみよう」
大輔はそう言って、刀を両手に持って精神を集中しようとしたが、
「違うぞ」
と煋蘭が一言言う。
「え?」
大輔は訳が分からず戸惑った。
「先ずは、鞘から刀を抜け。鞘は式神に持たせておけ」
煋蘭が言うと、大輔は素直に従った。
「刀を構えよ。いいか、刀は道具ではない。お前自身と思え」
煋蘭はなぎなたの剣先を大輔に向けて言った。
「おう!」
大輔も切っ先を煋蘭に向けて構えた。その瞬間、煋蘭のなぎなたが大輔の刀を払った。ものの見事に刀は晴天の空に向かって舞い、きらりと陽の光を照り返しながら落下し、地に刺さった。
「これがお前自身の精神の弱さだ。簡単に薙ぎ払われる無様さを恥と思え。もう一度、その刀を握れ。そして離すな」
煋蘭に言われて、大輔は再び刀を握ると、またもや同じ結果に。何度繰り返しても、刀は簡単に大輔の手から離れてしまった。
「今日はこれまでだ」
煋蘭は一言言って、大輔に背を向けて、
「その刀はお前自身だ。決して離すな。常に所持していろ」
と付け加えた。
大輔は刀を鞘に戻して、自室へ行き座って刀を目の前に置いた。
「どうしたら刀を離さずにいられるんだ? 煋蘭ちゃんの力に負けているから刀が払われるのか? だったら、筋トレが必要か?」
大輔は独り言を言いながら考えていると、
「大輔君、調子はどうかね?」
煋蘭の父、武則がそう声をかけた。障子が開け放たれていて、大輔の様子が部屋の外から見えていて、
「元気そうで良かった」
と微笑んだ。それから、
「難しい顔をして、考え事かな?」
と尋ねた。大輔の独り言も、心の声も武則には聞こえているはずだった。大輔が何に悩んでいるかもお見通しなのだろうと大輔は思い、
「お義父さん、俺、悩んでます。教えてください」
と素直に教えを乞う。
「うん、いいよ」
そう言って、武則は大輔の部屋へ入り、刀を挟んで大輔と対面した。
「刀に精神を宿らせるのには時間がかかる。今すぐには出来ないよ。お友達だってそうでしょ? 出会ったその日に全てを許し合える仲にはなれない。それと同じだよ」
武則がそう諭すと、
「そうか! そうだよな。分かった気がする。ボールは友達ってやつと同じだな」
と大輔が言う。武則は怪訝な表情を浮かべながらも、大輔なりの解釈なのだろうと受け流した。
「煋蘭は言葉足らずだけど、君を大切に想っているし、君を強くするために毎日鍛錬を続けている。そして、絆を深めるためにあの子なりに努力をしているんだよ。それを分かってあげて欲しい。というか、大輔君も分かっているよね。煋蘭の想いを」
と武則は言って、
「それじゃあ、刀と友達になれるよう頑張ってね」
と言葉を残して部屋をあとにした。
そこへ、煋蘭が膳を持ってやって来た。
「朝食だ。しっかり食べて英気を養え。傷は癒えたが、お前の霊力は回復していない」
そう言って、大輔の前に膳を置いた。
「煋蘭ちゃん、いつもありがとう」
大輔が礼を言うと、
「礼には及ばぬ」
と素っ気なく言い、部屋をあとにしようとした煋蘭に、
「ねえ、煋蘭ちゃん。昨日の俺の怪我って、煋蘭ちゃんが治癒してくれたの?」
と大輔が問うと、
「私ではない。お前の治癒をしたのは祖父だ」
と答えた。
「え? 煋蘭ちゃんのおじいちゃん?」
「そうだ」
「俺、おじいちゃんにまだ、会ったことなかったな」
「夕べ会った。お前は気を失っていたがな」
「俺、あんなに血が出ていたけど、それも治癒で治るの?」
「多少なら霊力で造血も可能だが、あれだけの出血では輸血が必要だった」
「え? じゃあ、おじいちゃんの血を貰っちゃったの?」
「輸血は私の血だ」
「え? 煋蘭ちゃん、こんなに細いのに、俺に血を分けちゃったら大変じゃないか!」
大輔はその事実に動揺し、
「今すぐ血を返すよ!」
などと、訳の分からぬことを言った。
「お前はどこまで阿呆なのだ? お前の目の前にいるこの私が弱く見えるのか? お前に血を分けたとて、私は倒れはせぬ。一晩で回復している。お前の様な貧弱と一緒にするな」
と煋蘭は言葉を返し、
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