妖祓師

☆白兎☆

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刀は友達

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 大輔が目覚めると、傍らには煋蘭が座していた。

「煋蘭ちゃん」

 大輔が布団から起き上がると、

「具合はどうだ?」

 と煋蘭が尋ねた。

「煋蘭ちゃん、俺、生きてるよね?」

 と逆に尋ねた。

「当り前だ」

「でも、俺、すげー刺されてたよ? 生きてるのが不思議なぐらいだ」

 と大輔が言うと、

「お前はあれくらいでは死なぬ。ただ、危険な状態ではあった」

 と煋蘭は表情を曇らせて、

「守りきれずに済まなかった」

 と大輔に頭を下げて詫びた。

「煋蘭ちゃん、やめてよ。あれは俺が悪い。敵に背を向けたんだからな」

「そうだな。気を散らすなと何度言ったら分かるのだ? 例え相棒が倒れても、決して敵に隙を見せるな、愚か者」

 煋蘭はそう言って、大輔を諫めた。

「ごめん、気を付けるよ。ただ、あの時は、煋蘭ちゃんが目の前でやられてさ、煋蘭ちゃんの事が心配でさ、それしか頭になくて、つい……」

 大輔が言うと、

「言い訳は聞かぬ。結局、無様な結果となった。それが事実だろう? 援軍が無ければ、我ら二人はあの場で命を落としていただろう」

 と煋蘭は静かに諭した。大輔はその言葉にただ無言で反省していると、

「朝の鍛錬に行くぞ」

 と煋蘭が言葉をかけて立ち上がった。そして、

「怪我をしたからといって、手加減はせぬからな」

 と付け加えた。



 煋蘭が先に庭に立ち、式神が煋蘭になぎなたを渡す。

「お前は刀を持て」

 煋蘭がそう言うと、式神が大輔に刀を手渡した。

「え? いいの?」

 大輔が嬉しそうに言うと、

「お前は刀の扱い方を覚えねばならない。妖に隙を与えるな」

 と煋蘭は言って、

「気を使えるようにはなったが、その気を刀に込めて使う方法を身につけろ。お前は石に気を込めて使っていたが、刀を使う時はそれだけではだめだ。刀は生き物、気を込めるというより、宿らせるのだ。その刀は今からお前と一心同体。しっかりお前の精神を宿らせよ」

 とその神髄を伝えた。

「おう! 刀に俺の精神を宿らせるんだな? やってみよう」

 大輔はそう言って、刀を両手に持って精神を集中しようとしたが、

「違うぞ」

 と煋蘭が一言言う。

「え?」

 大輔は訳が分からず戸惑った。

「先ずは、鞘から刀を抜け。鞘は式神に持たせておけ」

 煋蘭が言うと、大輔は素直に従った。

「刀を構えよ。いいか、刀は道具ではない。お前自身と思え」

 煋蘭はなぎなたの剣先を大輔に向けて言った。

「おう!」

 大輔も切っ先を煋蘭に向けて構えた。その瞬間、煋蘭のなぎなたが大輔の刀を払った。ものの見事に刀は晴天の空に向かって舞い、きらりと陽の光を照り返しながら落下し、地に刺さった。

「これがお前自身の精神の弱さだ。簡単に薙ぎ払われる無様さを恥と思え。もう一度、その刀を握れ。そして離すな」

 煋蘭に言われて、大輔は再び刀を握ると、またもや同じ結果に。何度繰り返しても、刀は簡単に大輔の手から離れてしまった。

「今日はこれまでだ」

 煋蘭は一言言って、大輔に背を向けて、

「その刀はお前自身だ。決して離すな。常に所持していろ」

 と付け加えた。



 大輔は刀を鞘に戻して、自室へ行き座って刀を目の前に置いた。

「どうしたら刀を離さずにいられるんだ? 煋蘭ちゃんの力に負けているから刀が払われるのか? だったら、筋トレが必要か?」

 大輔は独り言を言いながら考えていると、

「大輔君、調子はどうかね?」

 煋蘭の父、武則がそう声をかけた。障子が開け放たれていて、大輔の様子が部屋の外から見えていて、

「元気そうで良かった」

 と微笑んだ。それから、

「難しい顔をして、考え事かな?」

 と尋ねた。大輔の独り言も、心の声も武則には聞こえているはずだった。大輔が何に悩んでいるかもお見通しなのだろうと大輔は思い、

「お義父さん、俺、悩んでます。教えてください」

 と素直に教えを乞う。

「うん、いいよ」

 そう言って、武則は大輔の部屋へ入り、刀を挟んで大輔と対面した。

「刀に精神を宿らせるのには時間がかかる。今すぐには出来ないよ。お友達だってそうでしょ? 出会ったその日に全てを許し合える仲にはなれない。それと同じだよ」

 武則がそう諭すと、

「そうか! そうだよな。分かった気がする。ボールは友達ってやつと同じだな」

 と大輔が言う。武則は怪訝な表情を浮かべながらも、大輔なりの解釈なのだろうと受け流した。

「煋蘭は言葉足らずだけど、君を大切に想っているし、君を強くするために毎日鍛錬を続けている。そして、絆を深めるためにあの子なりに努力をしているんだよ。それを分かってあげて欲しい。というか、大輔君も分かっているよね。煋蘭の想いを」

 と武則は言って、

「それじゃあ、刀と友達になれるよう頑張ってね」

 と言葉を残して部屋をあとにした。



 そこへ、煋蘭が膳を持ってやって来た。

「朝食だ。しっかり食べて英気を養え。傷は癒えたが、お前の霊力は回復していない」

 そう言って、大輔の前に膳を置いた。

「煋蘭ちゃん、いつもありがとう」

 大輔が礼を言うと、

「礼には及ばぬ」

 と素っ気なく言い、部屋をあとにしようとした煋蘭に、

「ねえ、煋蘭ちゃん。昨日の俺の怪我って、煋蘭ちゃんが治癒してくれたの?」

 と大輔が問うと、

「私ではない。お前の治癒をしたのは祖父だ」

 と答えた。

「え? 煋蘭ちゃんのおじいちゃん?」

「そうだ」

「俺、おじいちゃんにまだ、会ったことなかったな」

「夕べ会った。お前は気を失っていたがな」

「俺、あんなに血が出ていたけど、それも治癒で治るの?」

「多少なら霊力で造血も可能だが、あれだけの出血では輸血が必要だった」

「え? じゃあ、おじいちゃんの血を貰っちゃったの?」

「輸血は私の血だ」

「え? 煋蘭ちゃん、こんなに細いのに、俺に血を分けちゃったら大変じゃないか!」

 大輔はその事実に動揺し、

「今すぐ血を返すよ!」

 などと、訳の分からぬことを言った。

「お前はどこまで阿呆なのだ? お前の目の前にいるこの私が弱く見えるのか? お前に血を分けたとて、私は倒れはせぬ。一晩で回復している。お前の様な貧弱と一緒にするな」

 と煋蘭は言葉を返し、

「ゆっくり休め」

 と言葉を残して部屋を出て行った。

「結局、煋蘭ちゃんは優しいな」

 と大輔は嬉しそうに笑みを浮かべた。
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