最強のラスボスが逆行転生したら宿敵の美少女勇者の弟だった件

内田ヨシキ

文字の大きさ
2 / 51
第1章 カインとアリア

第2話 違う、勇者は俺じゃない……

しおりを挟む
「俺の獲物アリアに手を出すな!」

 村を襲っていた魔族どもが一斉に俺に注目した。

 気にせず、地面に横たわったアリアをちらりと見やる。呼吸はしているが、動かない。

「ちっ、気絶してるか」

 これでは、俺が死ぬところを見せて勇者覚醒を促すどころではない。放っておいたら肝心のアリアが喰われてしまう。

「仕方ない。アリア、この俺が守ってやる!」

 俺はアリアの肩にそっと触れ、治療魔法で傷を治す。

 先ほど吹き飛ばした魔族が、よろよろと立ち上がる。

「珍しい。強いガキだ。いい餌だな」

 舌舐めずりをしてから、笑うように牙を剥く。

 青白い肌。頭には一対のつの。鋭い牙と爪。ゼートリック系魔族の特徴だ。

 そういえば今の時期は、この俺――魔王ゾールに先んじて、南の魔王ゼートリック4世がこの国を侵攻していた頃だ。

 やつらは、他者を喰らってその力を得るという卑しい能力を持つ。

「舌舐めずりとはな。食欲が過ぎて力の差もわからないか」

「そう言うお前は、数の差がわからねえようだなあ」

 わらわらと魔族が集結してくる。喰らえば力になる相手を、集団で貪ろうというのだ。まったくもって品がない。

「ひひひ! ズタズタに切り裂いて骨までしゃぶってやるぜ!」

 愚かにも、魔族は勢いよく飛びかかってくる。

「カイン逃げろ! お前だけでも!」

 今の叫びは父親か。

 バカが! 大事な獲物アリアを奪われてたまるか!

 魔族は爪の斬撃を繰り出してくる。

 命中の寸前、俺はそいつの腕を左手で掴んで止めた。

「ぐっ? は、放せ! なんだこのパワーは!?」

 魔力だ。基本的な身体強化魔法だ。

 俺の肉体は人間の8歳児相当の強さしかないが、魔力を操れば、並の魔族など比較にならない身体能力を発揮できる。

 魔族の腕を握り潰す。

「あぎゃああ!?」

「ふん。乞食の如き下級魔族ども、光栄に思え。魔王ゾールが遊んでやる」

 悲鳴を上げるその顎下に、右手の人差し指を突き立てる。

「まずは、俺の獲物アリアを傷つけたお前。死ね」

 指先から圧縮した魔力を高速で射出。

 パァンッ! と破裂音と共に魔族の頭が弾け飛ぶ。その体は地面に倒れる前に塵となって崩壊していく。

 他の魔族たちは一斉に動揺を見せる。

 それでもなお食欲が勝るのか、あるいは、身を守るためか。次々と襲いかかってくる。

 対し俺は、圧縮魔力で蜂の巣にしてやったり、または魔力の刃で首をねたりと、粛々と塵にしていく。

「その程度か、クズども。少しは俺を楽しませろ!」

 転生したときには、肉体の強さも、培った魔力もすべて失ってしまっていた。

 だが知識と経験は残っていた。それらをもって、転生してからずっと魔力を鍛えてきたのだ。

 いずれ再び勇者アリアと対峙し、今度こそ勝利するために。

 今はまだ、当時の力には遠く及ばない。魔力量も少なく、初歩的な魔法で戦うしかない。

 だというのに、やつらは束になってもこのザマだ。

「もう終わりか……。ふん、今の力の実戦テストにはなったか」

 俺は強化した拳で、最後の魔族の腹を穿つ。

「ぐあ、あ――」

 魔族は断末魔の叫びを上げながら、塵となって風に流されていく。

 一気に静寂が訪れる。

 今度は村人たちが俺を見ている。怯えた目で。

 頭にきていたとはいえ、派手にやりすぎたか。

 わずか8歳の子供が、たったひとりで魔族を蹂躙したのだ。恐怖は当然の反応だ。

「魔族は、カインを狙ってきたんじゃないのか……」

「カインがいたんじゃ、また襲われるっていうのか?」

 怯えた村人がひそひそ話す声も聞こえる。

 この流れは知っている。

 俺の知る歴史では、勇者に覚醒したアリアは魔族を撃退したが、生き残った村人からその力を恐れられた。

 誰に庇われることもなく、アリアは村を追放されたという。

 その役が、俺に代わってしまったわけだ。

 村を離れるのは構わないが……どうせなら、アリアの覚醒を見届けてからにしたかった。

 アリアに視線を向けると、彼女はもう目が覚めていた。ぼんやりとした様子で、俺を見上げている。

「カイン……。見てたよ。カインが、やっつけてくれたんだよね……?」

「……ああ」

 アリアの顔から感情が読み取れない。いや、きっと怯えている。

 それでいい。魔王は人間に怯えられるものだ。

 でも、この胸が締め付けられるような、かすかな苦しさはなんだ?

 魔力を使った反動ではないはずだが……。

「すごい、ね……」

「ん?」

「すっごいねー! カイン、すごいよぉー!」

 アリアは急に元気になって、跳ねるように俺に抱きついてきた。

 いい匂いがする。やたら発育のいい胸の柔らかさに、びっくりしてしまう。

 アリアは俺の後頭部をわしゃわしゃと激しく撫でる。

「すごいねー、すごいよー。カインは、勇者様の力に覚醒してたんだね! うちの家系だもんね! 森には修行しに行ってたんだね? なんで黙ってたの? 言ってくれたら怒らなかったのにぃー!」

「いや、待てアリア」

「えー、待たない! だってカインはすごいんだもん! お姉ちゃんは、鼻高々だよー! みんなも見たよね! カイン、すごいんだよ~! 勇者様だよぉ! みんなを守ってくれたんだって!」

 アリアは俺を離さないまま、村のみんなに声を上げる。

 身振り手振りで喜びの感情を振りまく。

 そんな様子に、怯えていた連中さえ笑みを浮かべるようになっていく。

「そういえば、アーネスト家の先祖は勇者様だったっけ」

「その力で守ってくれたわけか」

「勇者の覚醒か! これは村をあげて祝わなきゃならねえぞ!」

 村中から感謝と祝福の声が届く。どんどん盛り上がっていく。

 反して、俺はどんどん居心地が悪くなっていく。

「や、やめろ。違う、勇者は俺じゃない……」

「ん~? カイン、照れてるの? もう、可愛いなぁ!」

「う、ううう、うるさい!」

 こんな展開、不本意だ! 俺に相応しくない!

 しかし、なぜだろう。

 先ほど感じた胸のかすかな苦しさは、もうどこにもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...