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第1章 カインとアリア
第3話 お姉ちゃんも一緒に修行してみていい?
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魔族の襲撃を返り討ちにしてから数日。
「くそ、俺らしくもない……!」
俺は苛立ちをそのまま声に出してしまった。
もちろんアリアの件だ。
不可抗力とはいえ、俺が魔族を撃退してしまったため、アリアの勇者覚醒の機会を奪ってしまった。
となれば機会はこちらで用意するしかない。代替案は簡単だ。俺が村人を虐殺するさまを見せつけるのだ。アリアが覚醒するのに十分な悲しみを与えられるだろう。
そう考えていたのだが……。
「おやおやカインちゃん、今日も訓練かい? これ持っておいき」
「カイン、この前はありがとう! 子供なのにすごいよな、勇者ってのは! よーし、肉持ってけ肉! 鍛えるんなら肉を食え!」
村を歩けば、このように感謝されつつ果物やパン、干し肉などを手渡されてしまう。
「ふ、ふん……。ありがたくもらっておいてやる」
村を守ってくれる勇者などと勘違いして媚びているのだろう。
まあ、強さを評価されるのは悪い気分ではない。
だがそのせいで、前世で数多くの臣下が慕ってくれていたことを思い出してしまう。彼らと村人が重なってしまい、どうにも殺す気になれないのだ。
異常事態だ。魔族の同胞でもないやつらに、こんな気持ちになるなど。
その原因には心当たりがある。
今日の訓練は、それを解消するための瞑想だ。
森の中、適当な岩の上に座り、目を瞑って集中しようとする。
「ねえねえカイン? それはなんの修行?」
付いてきていたアリアに問われる。
無視だ、無視。
「お昼寝? もしかして昨日、また夜更かしてた?」
くそ、しつこいな。仕方ない。
「違う。瞑想だ、瞑想」
ちなみに夜更かしはした。
「めーそー?」
「精神的な自己向上を目的に、静かに己の心に向き合う修行だ」
「よく分かんないけど、強くなれるの?」
「精神力の向上は魔力の向上に繋がる。それに、迷いがなくなれば戦いで隙を見せることも少なくなる」
「へー、すごい! カイン物知り! そんなの誰に教わったの?」
「本に書いてあった」
ということにしておく。まさか前世の記憶だと言えるわけがない。
「そっかー。じゃあじゃあカイン、お姉ちゃんも一緒に修行してみていい?」
「ふん、好きにしろよ」
「はーい。えへへー、カインと修行♪ お揃い修行~♪ あ、カイン、ちょっと詰めて、隣に座るから」
鼻歌交じりにアリアは俺の隣に座って目を閉じる。
やれやれ。これで静かになる。
俺は再びまぶたを閉じて精神を集中する。
……が、数分もしないうちに、また心を乱されることになる。
アリアが俺の肩に寄りかかってきたのだ。
「おい、アリア……」
「……すー、すー」
「寝てる……」
とか思ったら、アリアはそのまま、こてん、と俺の膝の上に頭を落とした。
ふわり、といい匂いが漂う。
アリアはむにゃむにゃとご満悦といった笑みを浮かべる。
「まったく……こいつは、人の気も知らないで……」
ため息をつきつつ、アリアの桃色がかった金髪を梳くように撫でる。
穏やかな気持ちで、自然に微笑みがこぼれる。
すぐハッとして、アリアから手を離す。
やはり俺は異常だ。どうかしている。
でなければ、宿敵となるはずのアリアを、か、か、可愛いなどと思うわけがない!
改めて認識する。アリアに対するこの感情も、村人らを殺す気になれないのも、この体が原因だ。
アリアの善良な弟たるカインの肉体が、この俺――魔王ゾールの精神に影響を与えているに違いない!
俺はきつく目を閉ざす。
集中だ。集中するのだ!
魔王ゾールとしての精神を高め、カインの影響を振り払うのだ!
「んふー……カイン……」
「くうっ?」
アリアの吐息が膝に当たり、くすぐったいような感触に身悶えしてしまう。
集中できない!
お、おのれ、アリアめえ! 子供時代でさえ俺の野望を邪魔しようというのか~!
――結局。
「ふわぁ……あれ? わたし、眠っちゃってた?」
「……割と最初からな」
「えへへー、ごめん、瞑想って難しいんだね」
「ああ、難しい修行だ……」
本当に難しかった。俺も上手くいかなかった。
どうやら肉体の影響は、思っていたより大きいらしい。
これを抑え込むには、長期的な精神修行が必要だ。
となると、しばらくアリアや村人に手を出すことはできそうにない。
アリアの勇者覚醒には、べつの計画を考えねばなるまい。今はまだ思いつかないが……。
アリアは少し残念そうにため息をつく。
「う~ん、できるかなって思ったんだけどなぁ。やっぱりカインと違って、わたし、才能ないんだね。強くなんかなれないみたい」
「そんなことはない!」
俺はアリアの両肩を掴んで、強く言い切る。
「アリアは誰より強くなれる! 俺とは違う、本物の勇者になって、魔王のひとりやふたり倒せるくらいになる!」
「そ、それは大袈裟だよお~」
「大袈裟じゃない。事実だ。俺が知ってる!」
「……カイン」
アリアはきょとんと、まばたきを数回。宝石みたいな紫の瞳で俺を見つめる。
やがて柔らかく微笑む。
「……ありがと。カインが信じてくれるなら、お姉ちゃんも、カインの真似して少しだけ頑張ってみようかな」
その笑顔に、鼓動が狂わされる。
くっ、無自覚ながら俺の精神に打撃を与えるとは。さすが未来の勇者。恐ろしい女よ……。
「でも今日はここまで。暗くなる前に帰らないと」
「ならひとりで帰れ。俺はもう少しやる」
今日はアリアのせいでまったく修行にならなかったのだ。少しは取り戻したい。
……のだが、アリアに手を繋がれてしまう。
「ダメ。いくら強くても、心配しちゃうんだから。ね? お姉ちゃんのためにも、一緒に帰ってよ」
「むぅ……」
俺はなぜだか逆らえず、アリアの手に引かれて帰路につくのだった。
「くそ、俺らしくもない……!」
俺は苛立ちをそのまま声に出してしまった。
もちろんアリアの件だ。
不可抗力とはいえ、俺が魔族を撃退してしまったため、アリアの勇者覚醒の機会を奪ってしまった。
となれば機会はこちらで用意するしかない。代替案は簡単だ。俺が村人を虐殺するさまを見せつけるのだ。アリアが覚醒するのに十分な悲しみを与えられるだろう。
そう考えていたのだが……。
「おやおやカインちゃん、今日も訓練かい? これ持っておいき」
「カイン、この前はありがとう! 子供なのにすごいよな、勇者ってのは! よーし、肉持ってけ肉! 鍛えるんなら肉を食え!」
村を歩けば、このように感謝されつつ果物やパン、干し肉などを手渡されてしまう。
「ふ、ふん……。ありがたくもらっておいてやる」
村を守ってくれる勇者などと勘違いして媚びているのだろう。
まあ、強さを評価されるのは悪い気分ではない。
だがそのせいで、前世で数多くの臣下が慕ってくれていたことを思い出してしまう。彼らと村人が重なってしまい、どうにも殺す気になれないのだ。
異常事態だ。魔族の同胞でもないやつらに、こんな気持ちになるなど。
その原因には心当たりがある。
今日の訓練は、それを解消するための瞑想だ。
森の中、適当な岩の上に座り、目を瞑って集中しようとする。
「ねえねえカイン? それはなんの修行?」
付いてきていたアリアに問われる。
無視だ、無視。
「お昼寝? もしかして昨日、また夜更かしてた?」
くそ、しつこいな。仕方ない。
「違う。瞑想だ、瞑想」
ちなみに夜更かしはした。
「めーそー?」
「精神的な自己向上を目的に、静かに己の心に向き合う修行だ」
「よく分かんないけど、強くなれるの?」
「精神力の向上は魔力の向上に繋がる。それに、迷いがなくなれば戦いで隙を見せることも少なくなる」
「へー、すごい! カイン物知り! そんなの誰に教わったの?」
「本に書いてあった」
ということにしておく。まさか前世の記憶だと言えるわけがない。
「そっかー。じゃあじゃあカイン、お姉ちゃんも一緒に修行してみていい?」
「ふん、好きにしろよ」
「はーい。えへへー、カインと修行♪ お揃い修行~♪ あ、カイン、ちょっと詰めて、隣に座るから」
鼻歌交じりにアリアは俺の隣に座って目を閉じる。
やれやれ。これで静かになる。
俺は再びまぶたを閉じて精神を集中する。
……が、数分もしないうちに、また心を乱されることになる。
アリアが俺の肩に寄りかかってきたのだ。
「おい、アリア……」
「……すー、すー」
「寝てる……」
とか思ったら、アリアはそのまま、こてん、と俺の膝の上に頭を落とした。
ふわり、といい匂いが漂う。
アリアはむにゃむにゃとご満悦といった笑みを浮かべる。
「まったく……こいつは、人の気も知らないで……」
ため息をつきつつ、アリアの桃色がかった金髪を梳くように撫でる。
穏やかな気持ちで、自然に微笑みがこぼれる。
すぐハッとして、アリアから手を離す。
やはり俺は異常だ。どうかしている。
でなければ、宿敵となるはずのアリアを、か、か、可愛いなどと思うわけがない!
改めて認識する。アリアに対するこの感情も、村人らを殺す気になれないのも、この体が原因だ。
アリアの善良な弟たるカインの肉体が、この俺――魔王ゾールの精神に影響を与えているに違いない!
俺はきつく目を閉ざす。
集中だ。集中するのだ!
魔王ゾールとしての精神を高め、カインの影響を振り払うのだ!
「んふー……カイン……」
「くうっ?」
アリアの吐息が膝に当たり、くすぐったいような感触に身悶えしてしまう。
集中できない!
お、おのれ、アリアめえ! 子供時代でさえ俺の野望を邪魔しようというのか~!
――結局。
「ふわぁ……あれ? わたし、眠っちゃってた?」
「……割と最初からな」
「えへへー、ごめん、瞑想って難しいんだね」
「ああ、難しい修行だ……」
本当に難しかった。俺も上手くいかなかった。
どうやら肉体の影響は、思っていたより大きいらしい。
これを抑え込むには、長期的な精神修行が必要だ。
となると、しばらくアリアや村人に手を出すことはできそうにない。
アリアの勇者覚醒には、べつの計画を考えねばなるまい。今はまだ思いつかないが……。
アリアは少し残念そうにため息をつく。
「う~ん、できるかなって思ったんだけどなぁ。やっぱりカインと違って、わたし、才能ないんだね。強くなんかなれないみたい」
「そんなことはない!」
俺はアリアの両肩を掴んで、強く言い切る。
「アリアは誰より強くなれる! 俺とは違う、本物の勇者になって、魔王のひとりやふたり倒せるくらいになる!」
「そ、それは大袈裟だよお~」
「大袈裟じゃない。事実だ。俺が知ってる!」
「……カイン」
アリアはきょとんと、まばたきを数回。宝石みたいな紫の瞳で俺を見つめる。
やがて柔らかく微笑む。
「……ありがと。カインが信じてくれるなら、お姉ちゃんも、カインの真似して少しだけ頑張ってみようかな」
その笑顔に、鼓動が狂わされる。
くっ、無自覚ながら俺の精神に打撃を与えるとは。さすが未来の勇者。恐ろしい女よ……。
「でも今日はここまで。暗くなる前に帰らないと」
「ならひとりで帰れ。俺はもう少しやる」
今日はアリアのせいでまったく修行にならなかったのだ。少しは取り戻したい。
……のだが、アリアに手を繋がれてしまう。
「ダメ。いくら強くても、心配しちゃうんだから。ね? お姉ちゃんのためにも、一緒に帰ってよ」
「むぅ……」
俺はなぜだか逆らえず、アリアの手に引かれて帰路につくのだった。
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