上 下
35 / 51
第3章 試験の後の試練

第29話 後悔させてやる

しおりを挟む
「D-1教室のミスティだな? ちょっと来てもらうぞ」

「えっ、ちょっ、むぐぅっ!?」

 その日の放課後、俺はさっそく行動を開始した。

 女子寮に帰ろうとするミスティなる生徒を背後から取り押さえ、口を塞ぎ、人気ひとけのない学舎裏に拉致したのである。

 学舎裏に連れてきたところで解放してやる。

「あの、えっ、なに? なんなの?」

 すでに待機していたアリア、レナ、グレンの前で、ミスティは混乱している。

「ごめん、ミスティちゃん! うちのカインが手荒な真似しちゃったみたいで! ただちょっと手伝って欲しいだけなの!」

「えええ、アリアちゃん? というか、みんなSとかAのエリートな子ばっかりじゃない。どういうことなの? ねえ、どういうことなの?」

 俺たちは手短に、俺やアリアが退学の危機であることと、それを庇ったエミリー教師がクビを言い渡されたことを説明した。

「そこで逆に教頭のほうをぶっ潰し、それらの処分を撤回してやりたいんだ」

「それで、なんであたしに?」

「アリアからは学園随一の情報通と聞いていてな。教頭をやり込めるような情報はないか?」

「って、言われても……」

「入学からほんのわずかな間に、学園中の生徒の大まかな情報を把握してたそうじゃないか。どんな手品か知らないが、それだけのことができるんなら、当然、教師陣のことも調べているんだろう?」

「いやその、あたし、興味あることしか調べないし。そんなスキャンダルなんて……」

「なんでもいい。手がかりさえあれば、あとは俺たちが掘り起こす。なにかないか?」

「えーっと……あるかないかでいったら……ある、かも?」

「ほう、どんな情報だ?」

 しかしそこでミスティは、一旦口を閉じて、俺たちを見渡した。

「これ話したら、失敗したときあたしも道連れにならない?」

「リスクが怖いか。ならリスク以上のリターンを約束してやる。望むものを言ってみろ」

「無事に卒業すること」

「手伝いたくないという意味か」

「いやだって、こんな拉致されて危ないことに協力しろって言われても……。あたし、これでもノーって言える女だし……!」

「お願いミスティちゃん! 例の、あのリードくんと上手くいくように手伝うから!」

 アリアからの懇願に、ミスティの耳がぴくりと動いた。

「あの、私も手伝います! リードさんが誰だか教えてくれれば、さり気なくミスティさんをアピールしておきますから!」

 レナも続く。ミスティの耳が、ぴくぴくとさらに動く。

「なあ、リードって……もしかしてD-2教室のリード・ケフレンか?」

「そうそう。ミスティちゃんが気になってる男の子」

「へえ、そうなのか。あいつも隅に置けねえな。リード・ケフレンなら、俺の昔からの友達だよ。ミスティ、あんたが手伝ってくれるなら直接紹介してやってもいい。なんなら、ふたりきりのお茶会でもセッティングしてやるが」

 ミスティはいよいよ目を輝かせた。が、すぐ目を逸らす。

「の……の……」

 やはりノーか?

 そうなると最後の手段で、魔法で口を割らせることになるが……。

「の……乗ったぁあ! 絶対だよ、絶対ですからね、グレンさん! リードくんとのセッティング、マジのマジのマジでお願いしますよっ!」

「お、おお。任せろ」

「いつですか? いつ頃お願いできますか!?」

 目をきらきらさせながらグレンに迫るミスティである。

 俺はその首根っこを引っ掴んで、グレンから引き離す。

「わわわ、カインくん、なにすんのっ」

「報酬は働いてからと相場が決まってる。まずは情報をよこせ」

「あっ、そうだったっけ」

 ミスティは上機嫌に口を開いた。

「教頭先生、どうやら不倫してるらしいんだよねぇ~……」

「不倫か。相手はわかるか?」

「あんまり学園には来ないから特定はできてないんだけど、王都の貴族の御婦人だってことは間違いないと思う。教頭先生、その人にたくさん貢いでるって噂だよ」

「なるほど。それは面白いな。そのセンを追ってみるか」

「あと追加情報。ここ毎年、学園の設備補修費の減りが早いんだって。定期的にメンテナンスが必要だからって話だけど、そう簡単に壊れないって触れ込みとは矛盾してる気がしない? しかも減りが早くなったのが、教頭先生の不倫疑惑が出た頃と一致してるんだよねぇ」

 俺は素直に感心した。

「やるな、ミスティ。その情報収集能力が、試験に活かされてないのがもったいないな」

「ここを測ってくれる試験がないからね~。ま、逆に目立たないから調べやすいのもあるんだけど」

「貴重な情報提供感謝する。あとは俺たちの仕事だ」

 俺は学舎を見上げ、教頭の執務室を睨みつける。

 俺は言ったことはやるぞ、ベスタ教頭。

「ふふふ、後悔させてやる」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アレキサンドライトの憂鬱。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21,763pt お気に入り:1,965

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:285

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:463

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,244pt お気に入り:1,355

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,113pt お気に入り:2,188

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:63

処理中です...