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一章
30.エメルリーズ領の現状2
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王都からエルメリーズ領までは、馬車を使って四日程かかる。その為、その道中でミルフィはとある領地によることにした。
暫く馬車の中で揺られてから、ミルフィ達は辻馬車から降りる。
「ここは……アルザール領、か?」
「そうよ。ここは王家の……いえ、今はわたしの直轄地なの」
王都から少しだけ西へと進んだところにアルザール領はある。そこは王都から近いということもあり、そこそこ活気に満ち溢れた領地であった。
辻馬車から降りたアルベルトは街の様子、そして人の多さに素直に驚く。
「賑わってるんだな」
「まあ、そうね。治安は良いと思うわよ」
ミルフィの言う通り、この領地には所謂スラム街と呼ばれるところが存在しなかった。普通ならどんなに裕福な領地でも、ほんの少しはあるというのに、だ。
アルベルトは街を行き交う人々を眺め、その表情が生き生きとしていることに気が付いた。
(……凄い。前にも一度来た時はあったが、その時はこれほどまでに活気溢れてはいなかった。スラムだっ
て、いくら王家直轄地だったとはいえ少数だったがたしかに存在していたはずだ)
数年前にアルベルトは、アルザール領を騎士として訪れていた。その時にもたしかに繁盛していたが、これ程までではなかったと記憶している。
(殿下がこの領地の経営に携わってから変わったのか?)
「アルベルト?」
考え込むアルベルトの顔を、ミルフィは訝しげに覗き込んだ。
「いや、……数年前に来た時とは随分と街の様子が変わったなと思ったんだ」
その言葉にああ、とどこか納得したような顔付きでミルフィが頷く。
「つい二年前にこの領地を陛下から任せられたのよ。貴方がここに来た時はたしか四年前だったはずだから、……まだ新人だった頃のことね」
「そんな情報どこから……」
「それくらい誰にだって分かることじゃない」
当たり前だと言いたげな表情を向けられ、アルベルトはこれだから王族は、と溜め息をつきたくなった。
そもそもその頃のアルベルトはミルフィのことを〝王女〟としては知っていたが、〝ミルフィ〟については知ることなど無かった。それは、ミルフィだって同様だろうとアルベルトは思っている。
そんな時期の情報など普通ならば知るはずが無いのだ。
それなのにそのことを当然のように話すミルフィに半分感心し、半分呆れてしまう。
と、アルベルトは少しだけ脱線した思考を元に戻そうと咳払いをした。
「……それで、二年間だけでここまで治安が良くなるものなのか?」
「え?ええ、まあ。そもそも元々の治安だってそれほど悪くは無かったのよ?そこにほんの少しだけわたしが思い付いた政策をプラスしただけだから、それ程大したことはしていないけれどね」
そう言って曖昧に笑った。
(前回で培った知識とカイのあの奇天烈な発想が無ければ、わたしにも絶対に思い付かなかった政策なんだけれどね……)
だからこそ、その政策をアルベルトに明かすなんてことが出来る筈がない。話したら絶対にどうしたらそんなことが可能なのかを問われるに決まっているからだ。
「そんなことよりもさっさと行くわよ」
これ以上なにかを訊かれないためにも、ミルフィはこの場をさっさと移動してしまおうとアルベルトの返事を待たずに歩き始めた。
何か言いたげな視線を後ろから感じたが、それに気が付かない振りをしてミルフィは歩みを進めて行ってしまう。
アルベルトは、どこかはぐらかされた感が拭えなかったが、ミルフィを見失う訳にもいかずにその後を少し遅れて追いかけて行った。
「取り敢えずはわたしの代理を務めてくれている人の元へと行きましょうか。今日のところはそこで一泊していくから」
「代理って、誰のことだ?」
「それは会ってからのお楽しみってことで」
きっと貴方も知っている人だから、とミルフィが楽しそうに告げる。
知っている人?と首を傾げて考えるアルベルトを見て、ミルフィは悪戯っ子のような笑みを浮かべて笑った。
それから数分歩いたところに、一際大きな建物があった。
ここか?とアルベルトが尋ねる。
それにミルフィが頷き、そして扉に付いている蝶番に手をかけた。
暫く馬車の中で揺られてから、ミルフィ達は辻馬車から降りる。
「ここは……アルザール領、か?」
「そうよ。ここは王家の……いえ、今はわたしの直轄地なの」
王都から少しだけ西へと進んだところにアルザール領はある。そこは王都から近いということもあり、そこそこ活気に満ち溢れた領地であった。
辻馬車から降りたアルベルトは街の様子、そして人の多さに素直に驚く。
「賑わってるんだな」
「まあ、そうね。治安は良いと思うわよ」
ミルフィの言う通り、この領地には所謂スラム街と呼ばれるところが存在しなかった。普通ならどんなに裕福な領地でも、ほんの少しはあるというのに、だ。
アルベルトは街を行き交う人々を眺め、その表情が生き生きとしていることに気が付いた。
(……凄い。前にも一度来た時はあったが、その時はこれほどまでに活気溢れてはいなかった。スラムだっ
て、いくら王家直轄地だったとはいえ少数だったがたしかに存在していたはずだ)
数年前にアルベルトは、アルザール領を騎士として訪れていた。その時にもたしかに繁盛していたが、これ程までではなかったと記憶している。
(殿下がこの領地の経営に携わってから変わったのか?)
「アルベルト?」
考え込むアルベルトの顔を、ミルフィは訝しげに覗き込んだ。
「いや、……数年前に来た時とは随分と街の様子が変わったなと思ったんだ」
その言葉にああ、とどこか納得したような顔付きでミルフィが頷く。
「つい二年前にこの領地を陛下から任せられたのよ。貴方がここに来た時はたしか四年前だったはずだから、……まだ新人だった頃のことね」
「そんな情報どこから……」
「それくらい誰にだって分かることじゃない」
当たり前だと言いたげな表情を向けられ、アルベルトはこれだから王族は、と溜め息をつきたくなった。
そもそもその頃のアルベルトはミルフィのことを〝王女〟としては知っていたが、〝ミルフィ〟については知ることなど無かった。それは、ミルフィだって同様だろうとアルベルトは思っている。
そんな時期の情報など普通ならば知るはずが無いのだ。
それなのにそのことを当然のように話すミルフィに半分感心し、半分呆れてしまう。
と、アルベルトは少しだけ脱線した思考を元に戻そうと咳払いをした。
「……それで、二年間だけでここまで治安が良くなるものなのか?」
「え?ええ、まあ。そもそも元々の治安だってそれほど悪くは無かったのよ?そこにほんの少しだけわたしが思い付いた政策をプラスしただけだから、それ程大したことはしていないけれどね」
そう言って曖昧に笑った。
(前回で培った知識とカイのあの奇天烈な発想が無ければ、わたしにも絶対に思い付かなかった政策なんだけれどね……)
だからこそ、その政策をアルベルトに明かすなんてことが出来る筈がない。話したら絶対にどうしたらそんなことが可能なのかを問われるに決まっているからだ。
「そんなことよりもさっさと行くわよ」
これ以上なにかを訊かれないためにも、ミルフィはこの場をさっさと移動してしまおうとアルベルトの返事を待たずに歩き始めた。
何か言いたげな視線を後ろから感じたが、それに気が付かない振りをしてミルフィは歩みを進めて行ってしまう。
アルベルトは、どこかはぐらかされた感が拭えなかったが、ミルフィを見失う訳にもいかずにその後を少し遅れて追いかけて行った。
「取り敢えずはわたしの代理を務めてくれている人の元へと行きましょうか。今日のところはそこで一泊していくから」
「代理って、誰のことだ?」
「それは会ってからのお楽しみってことで」
きっと貴方も知っている人だから、とミルフィが楽しそうに告げる。
知っている人?と首を傾げて考えるアルベルトを見て、ミルフィは悪戯っ子のような笑みを浮かべて笑った。
それから数分歩いたところに、一際大きな建物があった。
ここか?とアルベルトが尋ねる。
それにミルフィが頷き、そして扉に付いている蝶番に手をかけた。
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