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一章
39.敵でもなく、味方でもない
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ミルフィが孤児院の中で密かに相手の動向を伺っているあいだに、フェリクス達が外側から情報を探り、持ってくる手筈になっていた。はずだった。
(これは、……想定外だったわね……)
ミルフィは内心で目を丸くしながら自身の盲点に苦笑した。そして、今自分の目の前にいる人物へと意識を向ける。
「お久しぶりね、ミリアちゃん」
そう言って悠然と微笑んでいるセシリアを、ミルフィ自身も落ち着いた様子で穏やかに頷いた。
「ええ。本当にお久しぶりですね、セシリアさん」
「しっかりと馴染んでいるみたいで、なによりね。ところでアルさんは?」
今はもうアルベルトでいいのかしら?と小首を傾げながら含み笑いをするセシリアに、ミルフィは溜め息をついた。
「今はまだ、私は『ミリア』で彼は『アル』よ。……アルとは今別行動をとっているのよ」
「あら、残念ね」とセシリアは微塵も残念がる素振りを見せずに、それどころか何処か面白いものを見るかのように目を細める。
「それで、セシリアさんはどうしてここに?」
いい加減に本題に入らせてもらおうとミルフィは無理矢理話題を変える。このままだと全く話が進まない。
「そうねぇ、……貴方達が掴もうとしている情報の提供をしに来た、と言えばいいかしら?」
「あら、そう」
あっさりと返事をしたミルフィを、セシリアは意外そうに見つめた。
「本気で提供しに来たって信じるの?」
もしかしたら私は何か別の目的で来たのかもしれないのよ?と告げるセシリアに、ミルフィは表情を変えることなく言い放つ。
「ええ。だって貴方はお兄様の〝忠犬 〟なのでしょう?」
「……ふふっ。無駄なお喋りは時間の無駄よね」
そんなミルフィの様子に心底楽しそうに声を弾ませるセシリア。
「それなら早速本題に入ってしまいましょうか。時間は有限だものね。ミリアちゃんが知りたがっている情報だけは教えてあげる。次は五日後、場所はここよりも深い森の奥にある今は使われていない協会の、地下よ。移動は三日後、参加者は、……まあ、これは言わなくても分かるわよね?」
「ローネイン公爵……レオンハルト派の貴族の一部とお金に余裕はあるけれど位の低い貴族数名。バーデミクス男爵は判りやすい例ね」
「あとは帝国側の人間。珍しい子供……一番多いのは〝加護〟持ちの子供ね。力のある子供は帝国側に優先的に仕入れされる」
「〝兵器創り〟の一環かしらね?いずれにせよ、録なことをしていないのね」
「裏側にいる人間の中に録でない人間なんていないわよ」
確かに、とミルフィは肯定する。
全く面倒な話である。ミルフィは後片付け等を此方に丸投げしたレオンハルトを軽く恨んだ。
「情報は以上よ。当日は私もそちらにいるけれど、どうするかはミリアちゃん達次第。煮るなり焼くなり好きにしていいのよ?」
手助けをする気は無いと暗に告げるセシリアに、ミルフィはでしょうねと頷く。
セシリアはレオンハルト個人に忠誠を誓っているのだ。王家にでも、ミルフィにでも無い。
今回ここまで此方に協力したのはレオンハルトたってのことだ。命令されていないところまでミルフィ達を手助けするなんて優しいことをする筈がない。
セシリアは敵ではないにしろ、味方でも無いのだ。
「そうね……好きにさせて貰うわ」
最初から最後まで微笑みを保ったまま表情一つ変えなかったミルフィを、セシリアは興味深そうにその一挙一動を観察していた。
(ミリアちゃん、間諜の才能もありそうね。これがレオンハルト殿下の〝駒〟であったのなら、どんなに心強い味方だったのだろうと思うけれど。……まあ、味方ではないにしろ、敵でもないことに今は感謝するべきかしら?)
セシリアはセシリアでミルフィをそう評した。
しかし、そんなことを知る筈も無いミルフィは見られていることに気が付きながらも、それを無視する形を取った。
「セシリアさん、今日はそれだけの為にここに来たんですか?セシリアさんも大変ですねぇ」
「ええ。そしてミリアちゃんに伝えたらすぐに旦那様の元へ戻らないと。今日はちょっとしたおつかいで来ただけだもの。それに、長くここにいたらテオさんが妙に勘繰りそうですし?」
「わたし達は普通に〝世間話〟をしていただけですし、勘繰られると言っても大したことはないじゃないですかぁ」
嫌ですねぇ、と二人は笑いながら他愛のない会話を繰り広げた。しかし、二人の意識はお互いに向いておらず、扉の外へ向けられていた。
それから暫くして。
「……もういいかしら」
「そうね。それじゃあ今度こそお開きにしましょうか」
微かにしていた人の気配が微塵も感じ取れなくなった頃、二人はほんの少しだけ緊張で強ばらせていた表情を緩めた。
ミルフィ達は途中からテオに話を聞かれていたことに気が付いていた。だからこそ、〝世間話〟を二人の間で繰り広げていたのである。
「それじゃあ、わたしはこれからすることがあるから失礼させてもらうわ」
「私ももうそろそろでお暇するわ。少しだけテオさんと話してからね」
ほんの少しの含みを持たせた言葉に、ミルフィは一瞬だけ眉を寄せた。
「……まあいいわ。それではまた、別の機会にお会いしましょう」
「ええ、別の機会に、ね」
そうして二人は同時に席から立ち上がった。
(これは、……想定外だったわね……)
ミルフィは内心で目を丸くしながら自身の盲点に苦笑した。そして、今自分の目の前にいる人物へと意識を向ける。
「お久しぶりね、ミリアちゃん」
そう言って悠然と微笑んでいるセシリアを、ミルフィ自身も落ち着いた様子で穏やかに頷いた。
「ええ。本当にお久しぶりですね、セシリアさん」
「しっかりと馴染んでいるみたいで、なによりね。ところでアルさんは?」
今はもうアルベルトでいいのかしら?と小首を傾げながら含み笑いをするセシリアに、ミルフィは溜め息をついた。
「今はまだ、私は『ミリア』で彼は『アル』よ。……アルとは今別行動をとっているのよ」
「あら、残念ね」とセシリアは微塵も残念がる素振りを見せずに、それどころか何処か面白いものを見るかのように目を細める。
「それで、セシリアさんはどうしてここに?」
いい加減に本題に入らせてもらおうとミルフィは無理矢理話題を変える。このままだと全く話が進まない。
「そうねぇ、……貴方達が掴もうとしている情報の提供をしに来た、と言えばいいかしら?」
「あら、そう」
あっさりと返事をしたミルフィを、セシリアは意外そうに見つめた。
「本気で提供しに来たって信じるの?」
もしかしたら私は何か別の目的で来たのかもしれないのよ?と告げるセシリアに、ミルフィは表情を変えることなく言い放つ。
「ええ。だって貴方はお兄様の〝忠犬 〟なのでしょう?」
「……ふふっ。無駄なお喋りは時間の無駄よね」
そんなミルフィの様子に心底楽しそうに声を弾ませるセシリア。
「それなら早速本題に入ってしまいましょうか。時間は有限だものね。ミリアちゃんが知りたがっている情報だけは教えてあげる。次は五日後、場所はここよりも深い森の奥にある今は使われていない協会の、地下よ。移動は三日後、参加者は、……まあ、これは言わなくても分かるわよね?」
「ローネイン公爵……レオンハルト派の貴族の一部とお金に余裕はあるけれど位の低い貴族数名。バーデミクス男爵は判りやすい例ね」
「あとは帝国側の人間。珍しい子供……一番多いのは〝加護〟持ちの子供ね。力のある子供は帝国側に優先的に仕入れされる」
「〝兵器創り〟の一環かしらね?いずれにせよ、録なことをしていないのね」
「裏側にいる人間の中に録でない人間なんていないわよ」
確かに、とミルフィは肯定する。
全く面倒な話である。ミルフィは後片付け等を此方に丸投げしたレオンハルトを軽く恨んだ。
「情報は以上よ。当日は私もそちらにいるけれど、どうするかはミリアちゃん達次第。煮るなり焼くなり好きにしていいのよ?」
手助けをする気は無いと暗に告げるセシリアに、ミルフィはでしょうねと頷く。
セシリアはレオンハルト個人に忠誠を誓っているのだ。王家にでも、ミルフィにでも無い。
今回ここまで此方に協力したのはレオンハルトたってのことだ。命令されていないところまでミルフィ達を手助けするなんて優しいことをする筈がない。
セシリアは敵ではないにしろ、味方でも無いのだ。
「そうね……好きにさせて貰うわ」
最初から最後まで微笑みを保ったまま表情一つ変えなかったミルフィを、セシリアは興味深そうにその一挙一動を観察していた。
(ミリアちゃん、間諜の才能もありそうね。これがレオンハルト殿下の〝駒〟であったのなら、どんなに心強い味方だったのだろうと思うけれど。……まあ、味方ではないにしろ、敵でもないことに今は感謝するべきかしら?)
セシリアはセシリアでミルフィをそう評した。
しかし、そんなことを知る筈も無いミルフィは見られていることに気が付きながらも、それを無視する形を取った。
「セシリアさん、今日はそれだけの為にここに来たんですか?セシリアさんも大変ですねぇ」
「ええ。そしてミリアちゃんに伝えたらすぐに旦那様の元へ戻らないと。今日はちょっとしたおつかいで来ただけだもの。それに、長くここにいたらテオさんが妙に勘繰りそうですし?」
「わたし達は普通に〝世間話〟をしていただけですし、勘繰られると言っても大したことはないじゃないですかぁ」
嫌ですねぇ、と二人は笑いながら他愛のない会話を繰り広げた。しかし、二人の意識はお互いに向いておらず、扉の外へ向けられていた。
それから暫くして。
「……もういいかしら」
「そうね。それじゃあ今度こそお開きにしましょうか」
微かにしていた人の気配が微塵も感じ取れなくなった頃、二人はほんの少しだけ緊張で強ばらせていた表情を緩めた。
ミルフィ達は途中からテオに話を聞かれていたことに気が付いていた。だからこそ、〝世間話〟を二人の間で繰り広げていたのである。
「それじゃあ、わたしはこれからすることがあるから失礼させてもらうわ」
「私ももうそろそろでお暇するわ。少しだけテオさんと話してからね」
ほんの少しの含みを持たせた言葉に、ミルフィは一瞬だけ眉を寄せた。
「……まあいいわ。それではまた、別の機会にお会いしましょう」
「ええ、別の機会に、ね」
そうして二人は同時に席から立ち上がった。
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