乙女ゲームのヒロインに転生したんですが、これは推しと結婚させて頂いてもいいってことですか!?

七宮 ゆえ

文字の大きさ
2 / 3

二話

しおりを挟む
 翌朝、支度をジゼルに手伝って貰いながらシルフィーネは欠伸を噛み殺していた。

 何せ昨夜は眠れなかったのだ。そう、一睡もしていないのである。何故なら昨日倒れた自身を介抱して家まで付き添ってくれたのがレオナルドだということを知ってしまったからだ。

 もしかしなくてもイベントで出会っていたかもしれないのはレオナルドなのかもしれないと考え、シルフィーネは気が遠くなるのを感じた。レオナルドが付き添っていてくれたことは素直に嬉しい。気にかけて貰えたという事実だけで天国に行ける思いなのだ。

 ただし相手には気絶した自分を見られたわけで、変な顔をしていなかったかとか自分の目で生のレオナルドを見たかったとか、諸々たらればを考えてしまってもうだめだったのだ。

 そんな寝不足の彼女にジゼルは目敏く気がつくと、寝てないんですか?と少し批難するような目を向けてきた。それに曖昧に笑って答えると、ため息をつかれる。

「本日もおやすみなさっていた方がいいんじゃないですか?」
「大丈夫。今日はもう元気だから心配しないで」

 鏡越しにジゼルを見つめれば、肩を竦められ思わず苦笑いが溢れた。
 ジゼルの髪を梳く櫛に若干の力が入るのを感じる。

「いいですか、シルフィーネ様!無理は禁物です!はい!復唱!無理はしません!」
「無理はしません」
「よろしい」

 全然宜しくなさそうな顔をしながらも手早く髪を結っていくジゼル。そうしてものの数分でいつもの緩く巻かれたハーフアップが完成した。

「いつもありがとう、ジゼル」
「このくらい侍女として当然のことです」

 ふっと笑うジゼルと同じくシルフィーネも笑う。彼女にとって侍女は幼い頃からジゼル1人しかいないのだ。他の使用人が彼女のそばに着くことは無い。幼い頃病弱だった彼女は両親から期待も何もされなかった為最低限身の回りの世話をする侍女を一人だけしか付けず、それ以外は全て無関心を貫き通していたのだった。

 それは今も変わらずである。まあそう言う少し可哀想な設定がゲームヒロインでは定番なのだと昨日思い出して分かっていても、幼い頃に感じた寂しさが無くなることは無いのである。

 本当だったら兄のように父親や母親に愛されていると実感できる世界がどこかにあったのでは無いのだろうかと考えずにはいられない。それこそ幼少期に前世の記憶が戻っていれば、愛される努力を少なからずしたのかもしれない。しかし記憶が戻る前のシルフィーネは活発ではあるもののどこか無気力で、自分の気持ちを押し込めるような子供であったと自分自身で理解していた。

 まあそもそもゲームの仕様上、どんなことをしても両親や兄の関心が向くとは思えないのだけれど、とも思う。

 家族食事をとっても自分が気まずい思いをするだけなので自室で軽く朝食を済ませると、シルフィーネは学校へと向かうのであった。


 ここで私の最推しであるレオナルド・セルギウスについて軽く紹介しておくこととする。

 彼、レオナルドはセルギウス公爵家の嫡男であり眉目秀麗、才色兼備と名高いお方だ。柔らかな物腰で紳士然とした佇まいは世の令嬢を虜にすること間違いなしの男である。さらにはこの国では珍しい黒髪にまるで人形のように縁取られた長く繊細なまつ毛にアクアマリンのような澄んだ水色の瞳。見た瞬間からあ、この人高貴な人だと分かるような麗しいかんばせをスチルで見た時は感嘆のため息が思わず零れてしまった。

 しかしそんな見た目と態度とは裏腹に、実は腹に一物も二物も抱えているような人物でもあるのだ。
 もう、最高ですね。シルフィーネはそう言う表と裏の差がある男が大好きであったのだ。

 しかし彼とは一学年の差がある為、簡単に会えることは少ない。実際ゲームでも彼との友好関係を築いていくには莫大な時間がかかったのである。表では紳士的な対応で数多の乙女を陥落させる男であるが、決してそれらは善意などで行なっていくわけでもなく、寧ろ煩わしいものを抱き込むための対応であるということを既にシルフィーネは知っている。徐々に打ち解けていき素のレオナルドを知ることになっていくと、敬語が抜け落ち所々にタメ語を使われ、茶目っ気のある笑顔を浮かべて見せたり実は少しだけ乱暴な一面があったりと様々なことを知るようになるのだ。

 はぁ、早くそんな風に話せるような関係になりたい……と思いながらシルフィーネはぼんやりと教授の話を聞いていた。

 一学年目は政治や礼儀作法、王国の歴史などといった基礎知識が殆どだ。それらは貴族向けと言うよりも一定の基準を満たして入学してきた平民に合わせたものであり、大抵の貴族の子供たちは家庭教師から学んでいるものがほとんどなのだ。
 具体的な、そう、例えば魔法学や薬草学等というそれぞれの専門分野の科目は一学年後半から取り込まれてくる。

 つまり何が言いたいのかと言うと、そう、既にある知識を繰り返し受けることになるこの授業は思わず別のことを考えてしまうくらいには退屈なのである。

 ちなみにこの王立ティルノア学園は、学園内でのみその身分を問うことがない為貴族と平民に差はあまりない。そのためクラス分けも純粋な学力や武力、魔力によって決まってくるのだ。

 ここで出てくる魔力とは、精霊の祝福を受けたもののことを指す。
 精霊はそれぞれ、地、水、氷、火、風、光、闇に分類されており、その精霊たちから祝福を受けることによって魔力が開花するのだ。
 シルフィーネの魔力は光属性でさすがヒロインというだけあり、一・二位を争う程であった。

 しかしそこでシルフィーネは一つだけゲーム上とは違うものがあった。それは、光属性の他に水属性の祝福を受けていたというものである。これに関しては幼い頃に発覚した当初から侍女のジゼル以外の誰に言うでもなく、シルフィーネ1人の心のうちに留めておいてあるのだった。

 それも今思うと過去の自分を褒めてやりたいと彼女は思う。何せ貴重な光属性で魔力量が多いのに、そこに更にもうひとつの祝福が着いているなんて知られたらもうそれは人体実験の研究対象であるのだ。
 何故なら通常この世界に二つの祝福持ちは一部例外を覗いて存在しないのだから。
 まあその話は今は特に重要では無いので割愛させていただく。

 閑話休題。

 そんなことよりも目下の問題は友人が一人もできていないということである。なぜなら昨日倒れたせいで完全に出遅れてしまったからだ。
 朝来て早々に既にできていたグループという名の派閥に戦々恐々とする。

 このままでは私、一年間ぼっち確定なのでは……?と気が遠くなるのを感じたのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームに転生したモブです!このままだと推しの悪役令嬢が断罪されてしまうのでなんとかしようと思います

ひなクラゲ
恋愛
「結婚してください!」    僕は彼女にプロポーズした    こんな強引な方法しかなかったけど…  でも、このままだと君は無実の罪を着せられて断罪されてしまう  何故わかるかって?  何故ならここは乙女ゲームの世界!  そして君は悪役令嬢  そして僕は…!  ただのモブです

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リリーはクラフト王子殿下が好きだったが クラフト王子殿下には聖女マリナが寄り添っていた そして殿下にリリーは殺される? 転生して2度目の人生ではクラフト王子殿下に関わらないようにするが 何故か関わってしまいその上溺愛されてしまう

え、恩返しが結婚!?エルフの掟では普通なんですか!?

小野
恋愛
うっかり怪我をしたエルフを助けたら恩返しとしてエルフに誘拐されてめちゃくちゃ大事(意味深)されちゃう女の話。

推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。 そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。 そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。 ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。 いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

ヒスババアと呼ばれた私が異世界に行きました

陽花紫
恋愛
夫にヒスババアと呼ばれた瞬間に異世界に召喚されたリカが、乳母のメアリー、従者のウィルとともに幼い王子を立派に育て上げる話。 小説家になろうにも掲載中です。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...