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7話
しおりを挟む「それで、父様達は陛下とどういった内容の話をされていたのですか?」
このまま私が黙ったままだと、確実に姉様と義兄様によって瞬く間にこの場が二人のことを罵る場と化してしまうと、紅茶をこくりと一口含んだ私はそう言って父様に続きを促した。
「そこまで大した話はしていない。ただ、その場で私から陛下へレティーシアとレオナード殿下の婚約を解消させるように脅し……提案をしてきただけだ。陛下は物事を理解出来る方だから最終的には頷いてくれた」
「大分陛下が渋ったのですけれどね。けれども、私達だって引くわけにはいきませんもの」
父様の言葉に、軽く補足するかのように母様も口を開く。
陛下が私をレオナードの婚約者とした理由は、単純で、それこそ王位継承権の問題などで傀儡にされやすそうなレオナードを誰にも利用されないように見張るためと、少しでも第二王子派の動きを牽制出来るようにとした婚約なのだから母様の補足通りに渋るのは当然といえよう。
私は二人の言葉に納得する。
それにしても、父様ったら陛下を脅したんですね……途中で言い替えましたけれど誤魔化しきれてませんよ。
流石は陛下の幼馴染兼側近である。陛下に対して父様くらい強気に出れる人は他にいないだろう。
「それから、レティーシアとの婚約を解消するにあたって、殿下の王位継承権も剥奪することとなった。すぐ近くで殿下を制御出来る人物がいなくなることから、下手をすれば第二王子派である貴族の操り人形とかする可能性があるというのが裏の本音だ」
「それが妥当な案でしょうね」
「それでは、レオナード殿下への処罰はそれだけなのですか?」
「いや、それだけではないだろう。だがその他の処罰をこの短時間で決めることは流石に難しかった」
姉様が不満気に唇を尖らせていると、父様は厳しい表示のまま僅かに首を横へ振った。
「そもそも、ここまで早く話を進められたのは全てセルシウス殿下のお陰だ。二人の婚約破棄を渋る陛下を最終的に頷かせたのは彼だし、最もな理由を挙げて継承権を剥奪させたのも彼なのだからな」
殿下はきっと将来良き国王となるだろうと父様が言うと、母様もそれに同調するかのように頷く。
私も、父様の言う通り殿下は良き国王となると思う。何よりも、考え方が合理的で理性的だ。国の為ならば、時には無情な判断を取らざるを得ない場合もあるだろうが、きっと彼ならなんの躊躇いもなくそれらを是とする人であろうから。
それが、彼という人物なのだから。
そして、私は父様の話を聞いてようやく納得することが出来た。
「ああ、なるほど。だから殿下は私とレオナード様との婚約が正式に解消されることを誰よりも早く私に伝えることが出来たのね……」
「レティ?それ、どういうことかしら?」
「え?」
「だから、セルシウス殿下が誰よりも早くレティに婚約を解消することを伝えたってことよ!あなた、いつの間に殿下とお話したの!?」
姉様の質問がいまいちよくわからずに首を傾げれば、若干興奮気味に姉様がそう息巻く。
どうやら思ったことをそのまま呟いてしまったらしい。
「私がそろそろ帰ろうとした少し前くらいに、丁度殿下が伝えに来てくれたのよ」
「まあ……!なら、殿下は態々それを伝える為だけにレティの元へ戻ったということ?」
「え、ええ……たぶん?」
何をそんなに目を輝かせる必要があるのか分からない私は、そんな姉様の気迫に押されて僅かに身を引いてしまう。
しかし、そんな私の反応など気にした様子もなく、姉様は口元に手を当てて「まあ、まあ……!」とそれはそれは無邪気な子供のようにはしゃいでいた。
「……あの、姉様?」
「レティったら、いつの間に殿下と昔のように仲良くなったのかしら。一言くらい言ってくれれば良かったのに」
「はい!?」
思わず私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
姉様、絶対に誤解をしている気がする。
私は微妙に眉を寄せながら、恐らく殿下と私のことを勘違いをしているであろう姉様に向けて言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「……あのですね、姉様。私とセルシウス殿下は昔のように仲良くしている訳ではないですからね?そもそも、私が〝セレス様〟の幼馴染である〝レティ〟だということは彼が知る由もないことですから」
「そうなの?」
私の言葉に姉様は不思議そうに目を瞬かせて首を傾げる。その様子に私は苦笑しながらも頷いてみせた。
「でも、レティはもうレオナード殿下の婚約者ではないのだから、セルシウス殿下に昔のことを話しても良いのではなくて?」
「それは、そうかもしれないですけれど……」
それでも尚不思議そうに言葉を重ねる姉様に、私は曖昧に言葉を濁して眉を下げる。
確かに姉様の言う通り、私が〝レティ〟ということを話してももう問題は無いだろう。けれども、私は私がセレス様の幼馴染だった〝レティ〟であるとは、知られたくないのだ。どうしようもないただの我儘であることは自覚しているけれど、けれども、私はどうしても彼にそのことを明かす気は無いのである。
「あなたの事だから、殿下に話したくない理由があるのでしょうね」
それ以上何も言えずに目を伏せていると、僅かに息を吐きながら母様が優しい声音で言った。
黙ったまま私が頷くと、姉様が「そう」と小さく呟き、その後は誰もそのことに触れることは無かった。
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