どうか、私のことを思い出さないで下さい

七宮 ゆえ

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6話

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 両親を出迎えるために、どうにか未だに引っ付いて離してくれない姉様を無理矢理引き離して義兄様に預けると、正面を向いてドレスに皺がついていないかを確認する。幾ら両親といえども、出迎える時に身支度の整っていない状態でいるのは私的には嫌なのだ。
 そして待つこと数分。扉の向こう側でカラカラと轢かれていた馬車がゆっくりと止まったのが分かった。
 私が家令であるオスカーへと目配せをすれば、心得た様子でオスカーはそっと玄関の扉を開けた。

「父様、母様、お帰りをお待ちし———」
「レティちゃん!!!」


 襲撃、再びである。


 私の言葉を遮り、勢いよく飛びついてきた母様に対して、私は思わず遠い目をしてしまう。
 こうなるだろうとは思っていたけれど。姉様は絶対に母様に似たのだから、姉様の取る行動は母様の取る行動と殆ど同じになることくらい予想済みである。

「心配したのよ!あの脳みそスカスカのレオナード殿下ったらよりにもよって公衆の面前で婚約破棄をするなんて!!しかも、やってもいないことをやられたと言い張る脳内お花畑な男爵令嬢までいますし!レティちゃんにあんな態度を取るなんて、ぜっったいに許せませんわ!!」

 言っていることまでやはり姉様と同じである。

「あの、お母様落ち着いて下さい。取り敢えず部屋に移動しませんか?全員が玄関ホールで立ったままなのはどうかと思いますし……」
「ああ、それが良い。アリア、レティーシアを離してあげなさい」

 私が母様を見下ろしながら眉を下げてそう提案をすると、すかさず父様が頷いて同意を示してくれた。
 ちなみに、アリアは母様の名前であるアリアローゼの愛称である。
 父様が近付いてきてそっと母様の腰に手を当てると、母様は名残惜しそうにほんの少しだけ私を抱き締めていた腕に力を込め、それからすっと離れていった。
 そして二人は、姉様と義兄様の方へと視線を向ける。

「夜遅くに突然訪ねて来てしまい申し訳ございません、義父上ちちうえ
「いや、シャルロッテが駄々を捏ねたのだろう。こちらこそ娘の我儘に付き合わせてしまって悪いね、ランスロット」
「まあ!酷いわ父様。わたくしはただレティのことが心配で堪らなくてオルシェノア邸へ戻る前に実家に寄ったのに、それを我儘だと言うなんて!」

 心外だとばかりに目を大きく見開かせながら頬を膨らませる姉様に、父様は僅かに苦笑を漏らした。







 それから程なくして応接間へと移動をした私達は、各々がテーブルを囲んで適当な場所に腰を下ろしていた。

「さて、まずは何があったのかというところから始めるべきなのかもしれないが、まあ、全員大まかな状況は把握しているであろう。何せ今夜の夜会にはここにいる全員が出席していたのだから」

 メイドに紅茶を用意させてから人払いを済ませると、まず初めに父様がそう口火を切った。
 その表情は苦々しそうに歪められている。

「レティーシアの婚約者であった第二王子のレオナード殿下は、余程の理由が無いにも関わらず、陛下に話すことも無く自己判断だけで公の場である夜会で、まるで見せしめのように婚約破棄を言い渡し、それに留まらずあろうことか公爵家の娘であるレティーシアを無実の罪で糾弾しようとした。それも、たかが男爵令嬢を伴って、だ。そのことから、今回の件はレティーシアだけではなく貴族の中で序列最高位に位置する我がシャルワール公爵家への侮辱と言っても過言ではないと陛下は判断された」
「でしょうね」

 父様の言葉に、義兄様も険しい表情で頷く。

「そもそも、男爵令嬢を虐めたということが事実だとしても、普通ならば公爵令嬢であるレティーシアを罰することは不可能だろうに。男爵家と公爵家のどちらを取るかと言われれば、誰もが公爵家を選ぶことなど一目瞭然なのだから」
「しかも実際のところレティは何もしていないのだから、男爵令嬢である彼女はもう終わったも同然ですわよね。たしか、ユリアさんの家はフォルエスタ男爵家でしたわよね?可哀想に、彼の男爵家もユリアさん同様お終いですわ。とはいっても娘共々地の果てに堕ちるつもりは無いでしょうけれど。確実に切られますわよね、庶子であるのだから尚更に」

 義兄様の言葉の後に、今度は姉様が続いた。
 それにしたって姉様、その見た目と温厚そうな性格とは裏腹に意外にも腹に黒いものを飼ってますよね。うふふっとお淑やかに笑うシャルロッテ姉様の姿はとても可憐だが、どうしてか先程から悪寒しかしてこない。
 私はそっと姉様から視線を外してカップを持ち上げた。
 その怒りは私に向かっているものでは無いということは無論分かってはいるのだが、それでも恐ろしいと感じてしまうのは最早どうしようもないことだと思いたい。
 というか、きっと見た目と中身が伴っていないのはうちの女系の遺伝だとしか考えられない。私も見た目だけはお淑やかな令嬢の姿をしているだろうけれど、その実自分で言うのもなんだが結構良い性格をしていると思う。姉様も今説明した通り、母様は天然が入ってはいるけれどまあ姉様と似たり寄ったりというところである。
 ……遺伝って怖い。

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