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5話
しおりを挟む「あの馬鹿王子なんて絶対に許さないんですから!!わたくしの可愛い可愛いレティを無理矢理婚約者の位置に付けたくせにまるで見世物のようにあんなことをするなんて……!!レティへの、挽いては我がシャルワール公爵家への冒涜だわ!即刻死刑にするべきです!!」
「……あの、姉様。取り敢えず少し落ち着きましょう?ね?きっと父様達もそろそろ陛下との会談を終えて戻ってくる頃でしょうし、玄関ホールに突っ立ったままでは出迎えの準備をする使用人達の邪魔になってしまうわ」
「そんなこと今はどうでも良いし父様も母様もわたくしの気持ちを分かってくれるわ!!」
屋敷に戻るなり避ける間もなく抱きつかれ、その状態で延々と嘆かれつつ果てにはレオナード暗殺計画まで企てようとしているシャルロッテ姉様に、私は困り果てていた。
なんとか宥めようとするものの、あっという間に自分の世界へと旅立ってしまった姉様を正気に戻させるのは容易なことではない。
そこで私は少しでも落ち着いて貰えるように姉様の背を撫でつつ、その少し後ろで微笑ましいものを見るかの如く柔らかな眼差しを向けている人物へと視線を向ける。
「義兄様、そこで微笑ましそうに眺めていないで何とかしてください」
姉様の旦那様でしょう?と恨めがまじく見つめると、ランス義兄様は一層笑みを深くして肩を竦めてみせた。
彼は、ランスロット・オルシェノア。オルシェノア公爵家の現当主であり、姉様の夫である。
姉様は三年前から既にオルシェノア家に嫁いでいるのだが、多分今日の私とレオナードを見て急いでシャルワール邸に寄っていたのだと思う。
「その状態のシャルをどうにかするのはちょっと骨が折れるかな。それに、シャルはレティのこととなると誰の話も聞かなくなるし」
「だからそれを何とかしてくださいって言ったのですけど……」
「うん、無理かな」
あっさりと首を横に振ったランス義兄様に、私は込み上げてくる溜息を素直に吐きた。それから微妙な表情を浮かべつつ、姉様を見下ろす。
「義兄様は、姉様にとことん甘いというか、なんというか……少し諌めるくらいはしてもいいと思うんですよね……」
「普段だったらこんなに爆発することなんてないし良き公爵夫人として振舞ってくれるから、全く諌める必要なんて無いんだけどね。まあでも、それだけ妹である君のことが可愛いんだよ。何せシャルは自他共に認める妹至上主義なんだから。それこそ私が焼けてしまうほどに」
「……」
「それに、今回の件についてはシャルだけじゃなくて私だって何も感じていないわけじゃないんだよ?」
黙り込んだ私に、更に追い討ちをかけるように告げた義兄様の表情は、やはり先程と変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。——しかし、その瞳は全く笑っていないのだが。
義兄様と深く関わりを持っていない人は、決して気が付くことの無い程のささやかなもの。けれども、よく知っている人物達からすれば、その瞳は義兄様の心の内を流暢に語っていた。
「シャルの唯一の大事な妹で、私にとってもシャルの次に大切な義妹であるレティが公の場で無実の罪で糾弾されそうになり、婚約だって大袈裟にして破棄をされた。そんなこと、貴族令嬢にとっては醜聞以外の何物でもない。そんな扱いを受けて私もシャルも黙っていられるはずがないだろう?それに、第二王子殿下は我が最愛なるシャルロッテをここまで取り乱させたんだ。勿論許せる訳が無い」
「……ランス義兄様はいっそ清々しい程にぶれませんよね、姉様第一なところが」
義兄様の言葉に、私はまた一つ溜息を零す。
その言葉は私への対応に苛立っているというよりは、姉様を取り乱させたという事実の一環として腹を立てているようにしか思えない。というか、実際にそうなのである。
私が呆れ半分、感心半分に告げれば、義兄様は「当たり前だろう?」とそれはそれは蕩けるような甘い笑みを浮かべて姉様へと視線を移した。
「私はシャルを愛しているんだから」
「……それ、私じゃなくてシャルロッテ姉様が正気に戻った時に言って下さい。というか、そう言うのだったらなんでもっと早くにきちんと姉様と話し合わなかったのですか……」
「それは……痛いところをついてくるね、レティ」「傍から見て入れば、既に姉様も義兄様も両想いでしたから。まあ、姉様の場合は罪悪感の所為で中々自覚出来なかったというのもあるのでしょうけど」
私がこう言うのも、この姉夫婦はほんの少し前まですれ違ってばかりいたのだ。それなりに複雑な理由が伴ってのことではあるのだけれど。
まあでも、ようやくお互いがお互いを想っていたことを知ることが出来たらしく、以前よりも更に夫婦仲が良くなったのだけれど。ランス義兄様の溺愛ぶりは、社交界でとても有名な話だ。
若干罰の悪そうな表情を浮かべている義兄様に、私は肩を竦めてみせる。
と、その時、外から微かな物音が聞こえてきた。
「きっと母様達が帰ってきたのね」
「そうみたいだ」
私が呟くと、義兄様が同意した。
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