転生したら悪役令嬢になっていましたが、婚約者が推しなので全力でフラグをへし折ろうかと思います！（改稿版）

一章

16.事情説明、よろしくお願いします

　そして次の日。
　朝食を食べ終えた私は一旦自室へと戻り、それからお父様の執務室へと足を運んだ。
　扉をノックしてから中へと入る。

「お父様、訊きたいことがあるのですけれど、今少しだけ時間を貰ってもいいでしょうか？」
「勿論だよ。それにしても、リリーが私の執務室に来るなんて珍しいね。どうかしたのかい？」

　私の質問にお父様は朗らかに笑って頷いてくれた。
　私は一度大きく深呼吸をしてから、早速本題へと入る。

「あの、ノアくんのことなのですけれど……」
「ノアがどうかしたのかい？」

　お父様は訝しげに首を捻った。

「どうして、お父様はノアくんのことを引き取ったのですか？」

　その言葉にお父様は眉を寄せた。
　あ、もしかしてこれ訊いたらいけないやつだった……？
　眉間に皺を寄せてお父様は何かを考えるように虚空を見つめている。
　まってまって！ごめんなさい、聴いた私が間違いでした！！
　若干威圧してるからその顔やめて、お父様！！
　怖いから！！子供に見せてもいい顔じゃないから！！
　ビクッと肩を揺らした私に気が付いたらお父様は、次いで慌てて取り繕うように笑みを浮かべた。
　……手遅れだけれども。

「今のお話は無かったことに———」
「リリー、ごめん私が悪かった！突然無言になったりして悪かったから！だからそんなに泣きそうな顔をしないでくれないか！？」

　お父様も悲しくなるから！！と必死に弁解するお父様。
　そんなに焦らなくてもいいのに。
　それにしても、私そんなに泣きそうな表情してたっけ？
　どちらかと言うとお父様の様子にビクついただけなんだけれど。なにか不味いこと訊いちゃったかな？ってほんのちょっぴり後悔しただけなんだけれど。
　ごめんねお父様、なんだか勘違いさせちゃったみたい。
　まあ、訊いちゃ駄目という訳では無いみたいだし、変な事言っちゃったのかと焦ったけれどお父様のその様子を見てほんの少しだけほっとしたよ。

「それで、どうしてノアを引き取ったのかについてだったかな？」

　お父様の言葉に「はい」と私は頷いた。

「うーん……まあ、そうだな。……リリーはエルドラル子爵の名前くらいは聞いたことあるかな？」

　エルドラル子爵。それは隣国の貴族の家名。
　何故ここでエルドラル子爵の名前が出てくるのか疑問に思いながらも私は頷いた。

「一応、名前だけなら……」

　首を傾げつつそう答えた私にお父様は「そうか」と小さく呟いた。

「エルドラル子爵とノアくんは、何か関係があるんですか？」

　私の疑問にお父様が頷く。

「ああ。……元々ノアは、エルドラル子爵の息子だったんだ」

　曰く、ノアはエルドラル子爵のお手付きを喰らってしまったメイドの産んだ子供だったらしい。
　子爵は産まれたノアを庶子として邸へと置いていたらしいのだが、どうやら子爵は相当な屑人間だった模様です。
　ノアを息子として接するのではなく、云わば奴隷の様に接していたらしい。因みにノアを産んだメイドさんは子爵によって解雇されたとか。
　子爵は相当な自分本意の人間だったらしく、またその奥方も捻じ曲がった性格をしていたらしい。
　他の女性を孕ませた子爵に対しては殆ど興味など無かった様だが、その子供であるノアには辛辣に当たっていたとかいなかったとか。
　要は虐待である。

「……最低、ですね」

　こみ上げてくる怒りを鎮めつつ、私は絞るような声でそう吐き捨てた。
　だって、今でもまだノアは五歳の幼子なのだ。つまりはそれよりももっと小さい頃から、ノアは虐待をされ続けたということ。それは決して許されることなんかじゃない。
　腸が煮えくり返る思いをしつつ、私はだからか、と納得もしていた。
　だから、ノアは私と顔を合わせた時もどこかよそよそしく、怯えたような瞳をしていたのだろう。
　こんなんじゃ、ヤンデレにもなる訳だ。
　だってゲーム時には悪役令嬢リリーローズだって義弟ノアを虐めていたのだ。そこをヒロインルーナに優しくされたら誰だってその人に執着するだろう。

　———なんって面倒くさい性格になるようなことをさせてるのよ、自己中心人物達元両親！！

　いえ、ね？最終的にヤンデレにさせたのは悪役令嬢リリーローズだろうけどさ！？でもその事の発端を作ったのはお前らだろ絶対！！！

「リ、リリー？」

　あら、嫌だ。私顔に出てたかな？
　恐る恐ると言ったように私に声を掛けてくるお父様に視線を向けて、私は普段通りの笑顔を浮かべた。
　ほほほ、何かありましたか、お父様？
　お父様は気不味気に私から視線をそうっと外した。
　そしてゴホンっと軽く咳払いをする。

「まあ、つまりはそういう訳だ。だから私はノアをこの家に連れてきたんだ」