辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

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第7章:未来への学びと絆

第218話「揺れる旧市街、隠された境界」

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 王都アルヴェイン旧市街――。

 かつて栄華を誇った街並みの名残を残しながらも、今では老朽化した建物や、時代から取り残された石畳が広がる場所。城壁の内側にありながら、開発の波から外れたこの一帯は、魔力供給の恩恵を十分に受けられていない区域のひとつだった。

「……ここが、旧市街か。」

 エルヴィン・シュトラウスは、ゆっくりと通りを見回しながら呟いた。

 建物の壁にはひびが入り、魔道灯は昼間だというのに点滅していた。通りを歩く住民たちの顔にも、どこか疲れの色が見える。子供たちの笑い声すら、小さく聞こえた。

「思っていた以上に、老朽化が進んでいますわね。」

 カトリーヌが眉をひそめながら、周囲の状況を確認する。軒先にぶら下がる魔道ランプの明かりは不安定で、まるで風に吹かれて今にも消えそうだ。

「……魔力の供給圧、明らかに不安定ですね。」

 リヴィアが携帯型の測定器を取り出し、データを記録しながら静かに呟く。

「なあ、あの壁、魔道導線が露出してねぇか?」

 レオンが指差した先には、建物の壁面に無造作に張り巡らされた古い魔道管が走っていた。本来ならば地中に埋設されているはずの供給線だが、ここでは一部が露出し、金属の継ぎ目から微かに魔力の揺らぎが漏れていた。

「これ、相当古いタイプの配線だね。たぶん、王都の初期インフラ時代のものだ……。」

 エルヴィンは壁に手を当て、感触を確かめるように軽く魔力を流す。途端に、ヒリッとした抵抗感が指先に返ってきた。

「魔力伝導率も落ちてるし……何より、魔力の流れに"引っかかり"がある。」

「それって……?」

「魔力が滞留してる。流れきれない魔力が、管の中で澱んでるんだ。放っておけば、魔道具が誤作動を起こす原因になる。」

「このままだと、夜間の暖房すらまともに使えないですわね。」

 カトリーヌがため息をつきながら、周囲の家々を見回すと、ちょうど通りかかった老婦人が、彼女たちの会話に気づき声をかけてきた。

「……あんたたち、魔道関係の者かい?」

 やや背を丸めた老婦人は、日焼けした手でスカーフを押さえながら尋ねた。表情には不安と、かすかな希望が混ざっていた。

「ええ。私たちは王立魔道研究所の協力を受けて、魔力供給の改善に取り組んでいます。」

 エルヴィンが丁寧に頭を下げると、老婦人はホッとしたように笑みを浮かべた。

「それはありがたいねぇ……このあたり、もうずっと前から、夜になると魔道灯が消えちまって、困っててねぇ。」

「ご不便をおかけしてすみません。原因を調査し、改善方法を探ってまいります。」

 リヴィアが頭を下げると、老婦人はそっと手を振りながら通りを去っていった。

「……この地区には、まだ手を入れられていない場所が多いみたいだな。」

 レオンが周囲を見渡しながら呟く。

「でも、だからこそやる価値がある。」

 エルヴィンの瞳には、確かな決意が宿っていた。

「まずは旧市街の魔力供給ルートを把握して、どこから改善できるかを洗い出そう。配線の再設計も必要かもしれない。」

「私が地図を作成します。魔力の流れも同時に可視化してみましょう。」

 リヴィアが静かに頷く。

「私は、地区の人々の声を集めておきますわ。暮らしの中でどんな不便があるのか、聞いておいた方がいいですものね。」

 カトリーヌが通りの住民たちに視線を向けた。

「俺は地下の導線を調べてみるか。こういうの、意外と面白ぇんだよな!」

 レオンが工具を肩に背負い、にやりと笑った。

 こうして、エルヴィンたちは旧市街に眠る“魔力の境界”を探るべく、動き始めた。
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