辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

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第7章:未来への学びと絆

第246話「日常に潜む魔力の課題――ヴィルゲン商会の現場へ」

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 王都アルヴェイン北区、ヴィルゲン商会の倉庫棟。

 表向きには洗練された商品が並ぶ店舗だが、その裏では無数の魔道具が日々調整・管理されている。調理用の魔道鍋、魔力冷蔵箱、空気清浄装置など、どれも王都の生活を支える品々ばかりだ。

「へぇ……こりゃあすごいな」

 倉庫に足を踏み入れたレオンが、天井近くまで積まれた木箱と、その中から微かに漏れる魔力の光に目を丸くする。

「魔力を活用した生活用具の種類、多いですね」

 リヴィアが頷く。

「調理から保存、空調や掃除まで……庶民にも広く普及しています」

「ええ。ヴィルゲン商会では、これらを王都内の小売業者に卸すだけでなく、個別の点検や修理も行っているのですわ」

 カトリーヌが資料を確認しながら言う。

 その案内役を務めるのは、グレイ・ヴィルゲンの息子であり、商会の副代表でもある青年、エルネスト・ヴィルゲンだった。淡い茶髪を後ろで束ね、商人らしい整った身なりと鋭い視線を持つ青年だ。

「こちらが冷却保存用の魔道箱です。現在は魔力結晶による稼働で、ひとつにつき結晶一個で約三日持ちます」

 エルネストはひとつの魔道箱を開け、中の構造を見せながら説明した。

「なるほど、確かに効率が悪いわけじゃないけど……」

 エルヴィンは箱の裏面にある魔力結晶の接続口を見つめる。

「この接続部、転写核との適合性も高そうだね」

「ええ。ただし、稼働中に魔力量が不安定になると、冷却効果が一気に下がる可能性があります。特に夏場の運用には細心の注意が必要でして」

「ということは……転写核を使うなら、供給の安定性だけでなく、瞬間的な魔力変動にも耐えるように調整しなきゃだね」

 エルヴィンが頷くと、カトリーヌがメモを取りながら口を挟む。

「周囲の気温や庫内の開閉状況に応じて、魔力供給量を微調整する必要がありますわね。魔力センサーと制御バルブの連携も強化するべきかと」

「それに、こういった機器って、設置されてる場所もバラバラだよな」

 レオンが棚の奥を覗きながら言う。

「厨房の隅だったり、地下の冷蔵庫部屋だったり、同じように魔力送っても反応にズレが出そうだぜ」

「ええ、実際それが課題になっています。従来の魔力結晶なら個体ごとに調整できましたが、供給システムになると、一括管理する分、局所的な誤差への対応が求められる」

「そのあたりの微調整……魔道文字による個別制御で対応できそうだ」

 エルヴィンがスケッチブックを取り出し、即座に回路案を描き始めた。

「魔道文字を機器ごとに刻み、個体認識と使用状況を監視する術式にする……か」

 リヴィアが覗き込み、淡く目を見開く。

「それなら、魔力の流れに無理がなくなる。しかも、機器同士の干渉も防げますね」

 その時、背後からエルネストが声をかけてきた。

「君たち、面白い発想をするな。……正直、最初は若造たちの机上の空論かと思っていたが、これなら確かに、商会の現場に新風を吹き込めそうだ」

「ありがとうございます」

 エルヴィンは素直に頭を下げた。

「では、まずはこの倉庫内で管理している十台の保存箱を対象に、転写核による供給試験を行ってみましょう」

 エルネストが提案すると、周囲のスタッフも興味津々といった様子で集まってくる。

「必要な部品や接続器具はこちらで用意できます」

 リヴィアが素早くメモを取り、準備の手順を整理する。

「よーし、やる気出てきたな!」

 レオンが笑い、袖をまくった。

「ふふ、ならば私もサポートに徹しますわ」

 カトリーヌが整った笑みを浮かべ、早速魔力測定器を組み立て始めた。

 王都北区、ヴィルゲン商会。
 ここに、もう一つの魔力供給の拠点が誕生しようとしていた。

 少年たちの技術が、生活の中に静かに、しかし確かな形で広がっていく――。
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