辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

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第7章:未来への学びと絆

第247話「魔力と氷と昼下がり――保存箱の安定運用」

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 王都アルヴェイン北区、ヴィルゲン商会倉庫棟内。

 午後の日差しが高窓から差し込み、倉庫の木床に長い影を落としていた。冷却保存用の魔道箱が整然と並ぶその空間で、エルヴィンたちは転写核を用いた供給装置の設置作業を行っていた。

「接続部、固定完了。……よし、転写核を装置に装填するよ」

 エルヴィンが慎重に魔力転写核を手に取り、保存箱裏の接続口に差し込む。

 カチリ、と金属的な音が響いた。

「魔道文字の制御盤、反応良好です」

 リヴィアが制御台のパネルを確認し、魔力の流れを記録する。

「装置側の魔力流入も安定していますわ」

 カトリーヌが小型の測定器を操作しながら頷いた。

「少なくとも、起動直後に過剰供給が起きる心配はなさそうですわね」

「だな。前に農地でやらかした時みてぇな暴走はなさそうだ」

 レオンが腕を組んで、保存箱の側面に寄りかかる。

 目の前の保存箱は、転写核から供給された魔力で静かに稼働を開始していた。内部の温度はゆっくりと下がり、蒸気がほのかに箱の縁から立ち上る。

「おお……冷えてきた」

 レオンが扉をそっと開き、内部に手を差し入れる。

「やべっ、冷たっ……こりゃあ氷作れるぞ」

「ええ、けれど冷却しすぎないように調整が必要ですわ」

 カトリーヌが微笑みながら制御パネルに視線を戻す。

「装置の仕様では、内部温度が五度を下回らないように設定してる。……けど、保存する品によっては個別調整が要るね」

 エルヴィンがスケッチに手を走らせながら答える。

「例えば香辛料や特殊薬草なんかは、湿度や冷却具合に敏感だし」

「それなら、保存箱ごとに魔道文字で最適な魔力パターンを刻んで、転写核側に送るようにしては?」

 リヴィアが指先で制御盤を指しながら提案する。

「状況に応じたパターン切り替えを自動化すれば、現場での手間も減ります」

「……うん、それ、いいかも!」

 エルヴィンが目を輝かせる。

「魔道文字の連携式に『熱量制御式』を加えて、さらに『対象識別式』で箱ごとに条件分けをすれば……」

「うぉい、また魔道式が増えるのか?」

 レオンが顔をしかめる。

「エルヴィン、設置する方の気持ちもちょっとは考えろよな。現場は全部が理屈通りにいくとは限らねぇぞ」

「そ、そこはまあ、設置説明書にイラストとか入れて……」

「ふふ、ではその説明書のデザイン、私が担当いたしますわ」

 カトリーヌが軽やかに口を挟む。

「使用者に寄り添う心は、技術者にとってとても大切な視点ですわよ」

「……た、頼りにしてます」

 そんなやり取りに、そばで控えていたヴィルゲン商会の副代表エルネストも小さく笑みを浮かべていた。

「なるほど。君たちはただの技術屋ではなく、ちゃんと“現場を想定する目”を持っているんだな」

「ありがとうございます」

 エルヴィンは照れくさそうに頷く。

 と、その時だった。

 保存箱の一つが突如「ピッ」と警告音を鳴らした。

「えっ?……魔力流入が止まりました」

 リヴィアが計器に目を落とす。

「こっちの転写核、過負荷検知が出てますわ」

 カトリーヌが報告する。

「……制御が間に合わなかったみたいですわね」

 エルヴィンはすぐに接続を解除し、保存箱の内部を確認した。

「やっぱり……冷えすぎて霜が張ってる。制御式の応答速度が遅れたんだ……」

「でも、同じ設計の他の箱は平気だろ?」

 レオンが眉をひそめる。

「うん。つまり、この保存箱だけ魔力伝導率が他より高いんだ。木材の加工差か、魔力伝導線の素材にばらつきがあったのかもしれない」

「ならば、あらかじめ検査して個体ごとのデータを取っておけばいいのでは?」

 リヴィアが淡々と提案する。

「魔力応答速度を個体ごとに数値化し、初期設定でそれに合わせるんです」

「うん、その通りだよ。設計時は理論値で統一してたけど、現場では実測値を重視すべきだよね」

 エルヴィンは手帳に大きく「魔力応答個体差、初期検査必須」と書き込んだ。

「そっちの保存箱、再起動させてみるぞ」

 レオンが新しい転写核を取り付け、慎重に魔力を通す。

 今度は警告音は鳴らず、内部温度も安定しているようだった。

「大丈夫そうですね」

 リヴィアが微笑み、安堵の息を吐いた。

「やっぱり試験って大事だな」

 エルヴィンは大きく頷く。

「設計図の上じゃ見えないことが、いっぱいあるんだ」

 傍らでその様子を見ていたエルネストが一歩前に出た。

「エルヴィン君、正直ここまでやるとは思わなかった。……だが、今ならはっきり言える。この試験は成功だ」

「本当ですか?」

「ああ。設置後の微調整も君たちのサポートがあれば十分対応できるし、なにより、保存箱が“静かに動いている”という事実が心強い。商会の物流部門でもきっと役立つだろう」

「ありがとうございます!」

 エルヴィンは素直な笑顔を浮かべる。

 夕暮れの倉庫棟。
 冷たい空気と温かな魔力が交差する中、少年たちの技術はまた一歩、王都の日常へと浸透していくのだった。
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