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第7章:未来への学びと絆
第250話「次なる一歩、王都住宅街計画始動」
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王都アルヴェイン、商業ギルド本部・第二会議室。
装飾を抑えた重厚な木製の扉を開けて中に入ると、すでにロベルト・ガルヴァンが席に着いていた。その隣にはギルドの書記官たちも数名並び、記録用の帳簿や魔道記録板が並んでいる。
「ふむ、ようこそ。例の“転写核”による供給実験、なかなかの成果だったと聞いているよ」
ロベルトは眼鏡の奥から微笑みを浮かべた。
「はい。青蓮市場での試験導入、それにヴィルゲン商会での初期稼働、どちらも魔力供給に関する問題は一度も発生していません。供給安定率は97.2%。特に夜間の需要変動に対する自動調整機能が評価されています」
エルヴィンは準備してきた報告書をテーブルに並べながら答える。
カトリーヌが続けて説明を加える。
「市場では灯りや冷却装置の連動に、商会では魔道会計端末や保管庫の維持装置への供給が行われました。どちらも商業活動に直結する魔道具であるため、安定性と反応速度が重要になりますわ」
「その点も、事前に設定された魔道文字パターンで魔力の優先順位を制御することで、現場からの要望に即した対応ができました」
リヴィアが手元のグラフを示しながら補足する。
ロベルトは目を細めて資料に目を通し、静かにうなずいた。
「うむ……非常に好ましい。数字の上でも、実地の評判から見ても、文句なしだ」
彼は指を組み、少しだけ姿勢を正した。
「では、予定通り、商業区での導入範囲を拡大しよう。次の導入候補としては、君たちが提示していた“セントラル通り”の二番街区が良いだろう。商店と住居が混在しており、データも取りやすいはずだ」
「ありがとうございます」
エルヴィンは深く礼をした。
ロベルトは、そのまま少しだけ声を落として言葉を続けた。
「それと……この成果は、王宮だけでなく他の貴族にも徐々に伝わり始めている。昨日の定例会議でも、転写核という言葉がいくつかの口から出てきた。君たちの開発したものは、もはや“学術的実験”ではない。“実用技術”だ」
「……それだけのものに、なったんですね」
エルヴィンの声は、小さな驚きと静かな覚悟が混じっていた。
「そして、次の段階として、住宅街での導入計画に入ると聞いているが――具体的には?」
「はい。王都西部の“シュレイン地区”から開始したいと考えています」
エルヴィンは地図を広げ、シュレイン地区を指差した。
「ここは、古い魔道具を使い続けている家庭が多く、魔力結晶に頼っているところが多い地域です。とくに夜間の魔力切れによる事故や、暖房装置の停止といった生活上の問題が報告されているんです」
「それで、まずはどう動くつもりだ?」
「僕たちのシステムを使って、一部通りをモデル地区として導入します。その地区の住民と連携して、魔道具の動作環境や魔力消費傾向を観察・調整し、次第に範囲を広げていきたいと考えています」
「ふむ、地道だが堅実な進め方だ」
ロベルトは頷きながら、窓の外に視線を移した。
「わかった。都市管理局への連絡はこちらでも支援しよう。……ただし、これは“住宅街”だ。商業とは違い、“生活”そのものに触れる分、住民の理解を得るのに時間がかかるかもしれん。焦るなよ」
「もちろんです。だからこそ、まずは信頼を築くところから始めます」
エルヴィンはまっすぐロベルトを見返した。
「それともうひとつ、少しずつですが……学院にも顔を出し始めました」
エルヴィンは苦笑しながら言い添える。
「主任講師のヘルムート先生に、盛大に絞られたところで……」
「ほう……学院も忘れていたわけではなかったか」
ロベルトがくすっと笑う。
「いいだろう。君たちのような若者が、街と学びの両方に向き合おうとしている姿勢は、私たち年長者にとっても希望だ」
会議は和やかな空気の中で終わり、ギルドの役員たちもそれぞれに書類の確認や転写核システムへの対応を始めていた。
◇
その帰り道、夕暮れが王都の建物をオレンジ色に染める中、エルヴィンたちはシュレイン地区へと足を伸ばしていた。
「こうして見ると、本当に昔ながらの家が多いわね」
カトリーヌが瓦屋根の家々を見上げながら言った。
「うん。でも、裏を返せば、改善の余地がたくさんあるってことでもある」
エルヴィンは歩きながら周囲の家を一軒一軒観察する。
「なあエルヴィン、住民の人たちに説明するのって、誰がやんの?」
レオンが聞くと、エルヴィンは少し困ったように笑った。
「……順番に、みんなでやろうか。せっかくだし、挨拶回りも兼ねてさ」
「えぇっ!」
レオンが露骨に嫌そうな声を上げ、リヴィアとカトリーヌが思わず笑い出す。
「こういう地道なところからだよ。新しい魔道技術って、街の人たちの暮らしと一緒にあるべきだから」
そう言って歩を進めるエルヴィンの姿に、夕日が優しく差し込んでいた――。
装飾を抑えた重厚な木製の扉を開けて中に入ると、すでにロベルト・ガルヴァンが席に着いていた。その隣にはギルドの書記官たちも数名並び、記録用の帳簿や魔道記録板が並んでいる。
「ふむ、ようこそ。例の“転写核”による供給実験、なかなかの成果だったと聞いているよ」
ロベルトは眼鏡の奥から微笑みを浮かべた。
「はい。青蓮市場での試験導入、それにヴィルゲン商会での初期稼働、どちらも魔力供給に関する問題は一度も発生していません。供給安定率は97.2%。特に夜間の需要変動に対する自動調整機能が評価されています」
エルヴィンは準備してきた報告書をテーブルに並べながら答える。
カトリーヌが続けて説明を加える。
「市場では灯りや冷却装置の連動に、商会では魔道会計端末や保管庫の維持装置への供給が行われました。どちらも商業活動に直結する魔道具であるため、安定性と反応速度が重要になりますわ」
「その点も、事前に設定された魔道文字パターンで魔力の優先順位を制御することで、現場からの要望に即した対応ができました」
リヴィアが手元のグラフを示しながら補足する。
ロベルトは目を細めて資料に目を通し、静かにうなずいた。
「うむ……非常に好ましい。数字の上でも、実地の評判から見ても、文句なしだ」
彼は指を組み、少しだけ姿勢を正した。
「では、予定通り、商業区での導入範囲を拡大しよう。次の導入候補としては、君たちが提示していた“セントラル通り”の二番街区が良いだろう。商店と住居が混在しており、データも取りやすいはずだ」
「ありがとうございます」
エルヴィンは深く礼をした。
ロベルトは、そのまま少しだけ声を落として言葉を続けた。
「それと……この成果は、王宮だけでなく他の貴族にも徐々に伝わり始めている。昨日の定例会議でも、転写核という言葉がいくつかの口から出てきた。君たちの開発したものは、もはや“学術的実験”ではない。“実用技術”だ」
「……それだけのものに、なったんですね」
エルヴィンの声は、小さな驚きと静かな覚悟が混じっていた。
「そして、次の段階として、住宅街での導入計画に入ると聞いているが――具体的には?」
「はい。王都西部の“シュレイン地区”から開始したいと考えています」
エルヴィンは地図を広げ、シュレイン地区を指差した。
「ここは、古い魔道具を使い続けている家庭が多く、魔力結晶に頼っているところが多い地域です。とくに夜間の魔力切れによる事故や、暖房装置の停止といった生活上の問題が報告されているんです」
「それで、まずはどう動くつもりだ?」
「僕たちのシステムを使って、一部通りをモデル地区として導入します。その地区の住民と連携して、魔道具の動作環境や魔力消費傾向を観察・調整し、次第に範囲を広げていきたいと考えています」
「ふむ、地道だが堅実な進め方だ」
ロベルトは頷きながら、窓の外に視線を移した。
「わかった。都市管理局への連絡はこちらでも支援しよう。……ただし、これは“住宅街”だ。商業とは違い、“生活”そのものに触れる分、住民の理解を得るのに時間がかかるかもしれん。焦るなよ」
「もちろんです。だからこそ、まずは信頼を築くところから始めます」
エルヴィンはまっすぐロベルトを見返した。
「それともうひとつ、少しずつですが……学院にも顔を出し始めました」
エルヴィンは苦笑しながら言い添える。
「主任講師のヘルムート先生に、盛大に絞られたところで……」
「ほう……学院も忘れていたわけではなかったか」
ロベルトがくすっと笑う。
「いいだろう。君たちのような若者が、街と学びの両方に向き合おうとしている姿勢は、私たち年長者にとっても希望だ」
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◇
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「なあエルヴィン、住民の人たちに説明するのって、誰がやんの?」
レオンが聞くと、エルヴィンは少し困ったように笑った。
「……順番に、みんなでやろうか。せっかくだし、挨拶回りも兼ねてさ」
「えぇっ!」
レオンが露骨に嫌そうな声を上げ、リヴィアとカトリーヌが思わず笑い出す。
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