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1章

満員電車(彩香視点)

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ー彩香視点ー

自分で言うのもなんだけど、私は相当モテる。
町を歩けば大抵の男性は振り向くし、今でも毎週男子に告白される。

そんなふうに好意を向けてもらえることは素直に嬉しい。
けれど告白されてもピンとこない。
この人と一緒にいたい!という思いが私の中にまったく湧かないのだ。

なので、お付き合いにまで発展したことは無い。
恋はしたいけど、私にはまだ早いのかもしれない。

ーーーー


「今日のラッキーアイテムは…黒縁眼鏡?」

日課の朝の占いを見終わるといつもよりも少し早く家を出る。
今日は日直だ。

少し早く家を出ると景色が変わり、遭遇する人が変わるのでとても新鮮だ。
いつもは見ないランニングするおばさん。集団登校する小学生。
そして、ボッチなクラスメイト。

…確か、村山?いや…そう村田君。

村田君もこっち方面だったんだ。
電車の時間が違うので今まで会わなかったようだ。

私に向かって一瞬会釈したようにも見えたが気のせいだろう。
ちょうど着信が来たので私は携帯を覗き込むが、
彼は私の事が見えないようにスーっと私の横を通り過ぎて行った。
やっぱり。気のせいだったみたいだ。

こっちから挨拶をしたほうがいいかとも思ったが、わざわざ声を掛ける関係でもない。
相手も気が付かなかったようなので、通学時間はニュースを見て過ごすことにした。

電車が動き出す。

…。

…。

……あれ?

………気のせい?

…………気のせいだよね。

……………。

………………気のせいじゃ、ない。

触られている。お尻を。

最初はスカート越しに。
じわじわと撫でまわされている。

声を上げようと思ったが、声が出なかった。
怖い。怖いよ!

誰か、誰か助けて!

声が出ない。体が震える。
誰も気が付いてくれない。

誰か!
近くの人と目が合うも、逸らされる。気が付いてもらえない。

スカート越しだった手がスカートの中に伸びていく。

誰か!!
必死に周囲を見回す。必死に周囲を見ると彼と目が合った。

助けて!村田君!

伝わらないかもしれない。また目が逸らされてしまうかもしれない。
そう思ったが杞憂だった。

彼はじっと私の事を見つめるとコクリとうなづき、人波をかき分けて私の近くまで来てくれた。
そしていとも簡単に私の事を救い出してくれた。

「この人痴漢です!」

彼が大声を上げた時に気が付いた。

…村田君。黒縁眼鏡だ。
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