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猫みたいな君と初めまして-2
しおりを挟む「もー、危ないにゃあ」
電車の音の合間に、高い声が耳に響く。
呪いが解けたように、身体が動き出す。
危ないにゃあと言った女の子は、猫をひょいっと持ち上げて頭を撫でる。
半袖のセーラ服を身にまとった、ポニーテールの少女。
「またホームにいるの、君」
周りのガヤガヤとした喧騒の中で、彼女の声だけがハッキリと耳に残る。
俺の横を人が通り抜けるのに、目が、耳が、彼女から離れない。
到着した電車は乗客を吐き出し、飲み込む。
そして、出発していった。
気づけば彼女を見つめたまま、乗るはずだった電車を見送ってる。
猫は抱き上げられたのが嫌だったらしい。
彼女の腕の中でモゾモゾと動いて、抗議の鳴き声を上げた。
「ぶにゃあ」
「ぶにゃあ、なの、かわいいね」
ついに我慢の限界に達したのか、猫は彼女の腕をペシッと蹴り上げて逃げ出す。
不意に、彼女が体勢を崩した。
先ほどまで固まっていたくせに、身体はすんなりと動く。
気づけば、倒れ込みそうな彼女の背中を支えていた。
「あっ、さっ……ごめんなさい」
「いえ、あの、こちらこそ」
勝手に触れてしまったことへの謝罪を口にすれば、彼女の顔がくっきりと視界に焼きつく。
まんまるの瞳に、猫みたいな口。
先ほどの猫が、人になったのかと思ってしまうような見た目をしていた。
茶色っぽいみたらし団子のような髪の毛の色も、相まって。
支えていた俺の腕からそっと離れていく。
少しだけ、彼女を引き止めたくなってしまった。
だから、どうでもいい言葉を紡ぐ。
「猫がホームにいるって珍しいですよね」
「私は何回も見てるよー、電車が好きな猫なのかも、あの子」
助けられたことに気づきもせず、トタトタと走り去る猫を指さす。
俺は指の先の猫よりも、ふふっと微笑んだ唇に目を奪われていた。
「あ、私は上月メグル。気軽にメグちゃんって呼んでいいよ」
急な自己紹介に、戸惑いながらも、俺も明るく印象よく返さなくちゃと思う。
兄みたいな爽やかな笑顔で、自分の名前を名乗らなければ。
そして、多分、手を差し出して握手でもするはずだ。
すんなり想像はできるのに、身体はギクシャクとロボットのように動く。
兄のように生きようと決めてから、何年も経ってる。
それでも、自分の意思じゃない動きはやっぱりうまくいかない。
「おにーさんの名前は?」
「あ、あぁ、原田サトル。覚えるって書いて、サトル」
「いい名前だねぇ、私は季節が巡る、のメグル」
握手をするために差し出そうとした手は、まだ身体にピッタリとくっついていた。
なのに、彼女は軽々と俺の手を取って、上下にブンブン振る。
「仲良くしようね」
当たり前のようにつぶやかれた言葉に、胸が熱くなる。
そして、俺の手をぱっと離した彼女は、斜め上の電光掲示板に目を動かした。
「電車、見送っちゃったねぇ。あと十五分後……君が。あ、サトルが良ければ、カフェでも行かない?」
「へ?」
「あ、嫌だった?」
思いもよらない提案に、声が上擦る。
兄だったらスマートに、いいカフェでも紹介するんだろうか。
俺には無理だけど、まだ彼女と話していたい。
「それともカラオケ? ゲーセン? あとは、お好み焼きとか! 雑貨見るでもいいよ!」
「どこでもいいけど、帰らなくていいの?」
「せっかく、夏休みだから! 楽しもうよ」
この夏休みは宿題しかやることのない、俺の予定を見通してるみたいな口ぶりだ。
つい、ふっと笑ってしまう。
メグルと一緒に居たらきっと、楽しい夏になる。
だって、メグルの周りだけキラキラと星が瞬くように輝いて見えていたから。
「カフェ、行ってみたい、かも?」
「本当? よし、じゃあ、出よう!」
右手を握られて、メグルは走り出す。
引っ張られながらも追いかければ、メグルは躊躇なく階段を下っていく。
転ばないように慎重に階段を降りていれば、真っ白な歯の看板と目があった。
良い笑顔だな。
今更、気づいたけど。
改札階に降りれば、改札を通り抜ける高校生たちとすれ違う。
中には同じ学校の生徒も居た。
まぁ、クラスメイトすらあやふやな記憶だ。
だから、その人たちが何年生なのか、知り合いなのかもわからないけど。
改札を抜けて、駅の外に出る。
外と繋がってる通路は、太陽の熱を含んだ風を吹きつけた。
頬をぬめりと撫でる風に気持ちの悪さを感じながら、急いでるメグルの後ろをついて行く。
手は変わらず、繋がれたままだった。
「そんな急ぐ必要ある?」
「だって、サトルの時間は有限でしょ」
メグルは走ったまま一瞬こちらを振り向いて、にししっと歯を見せる。
真っ白な歯に先ほどの看板よりも白いかもと、どうでも良い感想が浮かんだ。
「それを言ったらメグルの時間も同じく有限だろ」
時間の価値が人によって違うのだとしたら、俺の時間は一番無価値だ。
でも、限りは、等しくある。
それでも、メグルは俺の言葉に、すうっと深く息だけを吸って答えなかった。
複合施設の中に入ったと思えば、メグルのスピードが落ちる。
「さすがに、ここを走ったらぶつかっちゃうから」
小さく頷いて、メグルの後ろを歩く。
まだ、夕方にも満たない時間だと言うのに、親子やスーツ姿を見つけた。
この時間にも、色々な人がいるんだな。
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