木曽義仲の覇業・私巴は只の側女です。

水源

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嘉応2年(1170年)

六位蔵人任官との平安京留学

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 さて、義仲様の現在の官位は正七位下相当である左馬大允です。

 これはこれでさほど低い官位というわけではありませんが、行家や頼朝の官位を考えるとせめて六位の官位はほしいです。

 私は父に屋敷へ向かい相談致しました。

「また父上の伝手を頼り、義仲様に今より高き官位をいただくことはできませぬでしょうか?」

 父はふむと考えた後

「出来ぬ事はないと思うが、源三位頼政殿と八条院暲子内親王様にまた付け届けは必要であろうな。
 で、お前としてはいかなる官位をと考えておるのだ」

「はい、八条院付き六位蔵人辺であればいかがと。
 若しくは左衛門大尉あたりを頂ければ助かりますが……。
 献上品としては何が良いでしょうか?」

 この辺りの官位であれば矢田義清、源行家、多田行綱あたりと同じ官位です。

「前も言ったが頼政殿であれば軍馬や武具、八条院様であれば絹の反物や衣、香のたぐいが良いと思うがな。」

「分かりました、至急木曽よりそれを集めさせます。」

「それと私の兄弟にも官位がいただけたらと思うのですが
 信濃掾しなののじょうあたりでしたらおかしくないと思うのですがいかがでしょうか?」

「であれば、信濃守の藤原隆雅様や私の遠縁の藤原忠成様にお話をしたほうが良かろうな。」

「そちらの方々への献上品としては何が良いでしょうか?」

「食べ物で良いのではないかな、栗や胡桃であれば重畳されると思うぞ」

 私は最上級の駿馬4頭と最上級の絹の反物、仕立てた衣を選び、綺麗に磨いた栗と胡桃を父に預けました。

「どうか今回もよろしくお願いします」

「うむ、私も最善を尽くす、待っていてくれ。」

 献上品とともに父は京へとのぼって行きました。

 父に献上品を預けるとあとは私は待つだけです。

 しばらくしてまずは私の兄弟たちの官位が決まりました。

 中原次郎兼光は信濃国筑摩郡樋口谷に在して樋口次郎信濃掾兼光。

 中原四郎兼平は信濃国更級郡今井に在して今井四郎信濃掾兼平。

 中原五郎兼行は美濃国恵那郡落合村に在して落合五郎美濃掾兼行。

 と名乗ることとなりました。

 また、木曽松本屋敷に滞在していた源義経一行は信濃国伊那郡飯田山本に新しく立てた屋敷へと移り
 義経は山本九郎冠者義経を名乗ることになります。

 これは平家の目を欺くためであります。

 なんせ、本来なら僧籍に入るところを出奔していますので、見つかると面倒なことになりますからね。

 そして義仲様は八条院付き六位院蔵人へとなることが出来ました。

 蔵人は警護、事務、雑務等を行う要するに八条院の宮の警備官兼雑用係です。

 今回は実際に京に逗留して実務をこなさなければなりません。

 任官の機関は一年なので、一年の間は平安京に逗留しなくてはなりません。

 逗留先は源三位頼政殿の屋敷にやっかいになる事になりました。

 そして出立の日です。

「義仲様、京は衛生状態が悪いと聞きます。
 お体にはお気をつけ下さい」

「おう、心配すんな、うまくやって来るぜ」

「あと、貴人の家に忍び込んで夜這いをかけるのはおやめください。
 ヘタすると流罪になります」

「お、おう、貴人じゃなければいいのか」

「武家なり、下級貴族なり、遊女なりであれば問題はないと思いますが、くれぐれも問題の無いようにしてくださいね」

「わかったわかった、巴は心配症だな」

「まあ、わかってくださったならいいのですが……
 今回の今日の逗留の間に貴族や武家との縁をつなげるようにしてください。
 京の貴族は口で言わず空気を読めという面倒くさい人種ということなのでうまく立ちまわってくださいね。」

「おう、そろそろ行くな、巴も身体には気をつけて」

 私は馬に乗って矢田義清とともに中原家の馬借の集団に紛れて京へ向かう義仲様を見送りました。

 本当に問題が起きなければいいのですが、まあ、義清がうまくフォローしてくれることを願いましょう。

 帰ってきた時に厚塗りのおしろいにお歯黒で

「麿は義仲でおじゃる、巴よ風雅を感ずるのは大切なのでおじゃるよ。
 うむ、一句ひらめいたぞよ……」

 などとなっていたらそれはそれで目を覚まさせるためにぶん殴りたくなりそうな気もしますが。
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