5 / 33
収納の少ない家屋(3)
しおりを挟む
そして数日後の夕暮れどきに倉庫は完成する。
ガリューは目の前にある倉庫を見上げて満足げに笑みを浮かべていた。
さて早速中に入らせてもらう。
「うおっ、結構広いな。これだけあれば結構な量のものが置けそうだ!」
倉庫は木造二階建てだった。一階、二階共に八畳ほどの収納部屋が設けてありそれだけの部屋があれば今ガリューの家で散らかっている売れ残りの商品たちもここにしまえるだろう。そうなると新しいものを作ることも……。
ガリューの口は少しにやけていた。
しかし、研吾は中に入ってからどうにも渋い顔をしていた。まるで何か気に入らないところがあるかのように。
「いえ、これはまだ完成ではありませんので」
研吾のこの一言はガリューはおろか、ミルファーやバルドールすらも驚かせた。
この日の夜、ガリューは気持ちが沈んだままいつもの酒場へとやってきた。するとカウンター席には顔なじみの姿があった。
「おう、どうしたガリュー。えらく元気がねぇが」
ガリューより少し下なだけの歳なのに背丈は子供のような毛むくじゃらなその男の名はモロゾフ。この男も酒場の常連客でふとしたときに話し合ったらやけに意気投合してしまってそれ以来旧知の仲だった。
「なんでもねぇよ」
少し口を尖らせたガリューは嫌なことを忘れるかのように出されたエールをグッと一気に飲み干す。
「いい飲みっぷりだな。そういえばお前、あのチラシの依頼出したんだな。いいのできたのか?」
「どうでもいいだろ!」
ガリューはさらにエールを貰い、それも一気にあける。
「おいおい、ペースが速すぎるだろ! 大丈夫か?」
心配するモロゾフをよそにガリューは何度もエールを飲み、そのまま酔い潰れてしまう。
それから一日、また一日と日は過ぎていき数日たった。毎日来ては何かをしていたようだが失意のガリューは少しのスペースで鍛治をして気を紛らわしていた。
やはりあんな怪しい依頼に頼むんじゃなかったと思い始めたころ完成したという報告をうける。
一度はガックリときたのであまり期待せずに倉庫の前へとやってくる。
するとそこにはすでに研吾たち三人が集まっていた。
「ガリューさん、お待たせして申し訳ありません」
「えらく時間が掛かっていたが何かあったのか?」
口を尖らせていうガリューに研吾は乾いた笑みを浮かべていた。
「申し訳ありません。でも満足いただける結果になっていると思いますよ」
「それじゃあ早速見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
そういうと研吾はまず一階の中を案内する。外見は以前と何も変わってないのであまり期待してなかったが中を見て驚いた。
「おい、何だあれは?」
いくつか気になっていたが、まずガリューが指さしたのは壁につけた木製の棚だった。
「物置棚ですよ。あそこに少しでも物が置けますよね。せっかく高い天井なのに高いところにはものが置けない、もったいない空間になってますよね」
研吾が言ってるのはもっともなことだった。普通の住居としてならそれでいいだろうが、物置として、それもできるだけ収納したいと言っていたからな。こうした気配りは嬉しい。
あまり期待してなかったガリューは気持ちを改め、次は何が出てくるのかと期待が膨らんできた。
「確かに……おける場所が増えるのは助かるな」
「ほかにも色々とありますよ」
今度は階段下へとやってきた。ここには意味深に扉がつけられていた。
「おい、階段下に扉なんかついてるぞ」
「はい、試しに開けてみてください」
一体何があるんだと扉を開ける。すると、階段の下にも物がしまえそうな空間が存在していた。
「だ、大丈夫なのか? 階段をこんなに薄くしたら落ちるんじゃないか?」
「いえ、平気ですよ。ただ、いきなりガリューさんが乗るのも怖いですよね。どうやらこの辺りの家では階段下の空間は使っていないようでしたので。バルドール、お願いできますか?」
「任せろ!」
研吾が指示を出すとバルドールが階段を登り始める。
「お、おいやめろ! 危ないぞ! 落ちるぞ!」
ヒヤヒヤとした様子で見ていたガリューだが、バルドールが半分登りきったところでついに見ていられなくなって目を閉じる。するとしばらくして上の方から声が聞こえる。
「おーい、この通り無事だぞー!」
「ふぅ……、でも危ないじゃないか」
「いえ、これは絶対に落ちませんよ。そのために色々と補強も行いました。バルドールとミルファーがあまりに心配するので何度も何度も実験を繰り返しました。そのため遅くなってしまって申し訳ありません」
研吾が謝ってくる。確かに時間はかかった。しかし、それも少しでも広い収納場所を確保するため、ガリューのためだった。そのことを聞いたガリューはあれだけ意気消沈していたのが嘘みたいに研吾のことを信じ出していた。
「ほ、他には何かないのか?」
「はい、では二階に上ってください」
期待を胸にあれだけ怖がっていた階段を恐る恐るだが上っていく。するとそこで目に入ったのは更にもう一階上がるためのはしごだった。
これは一体何のために使うものなんだ?
少し困惑しつつ研吾の顔を見る。すると研吾が教えてくれる。
「この階の上には小屋裏の収納庫があります。天井の高さはとれませんがちょっとした物を置くためになら使えますよ」
そういってはしごを上るように促す。
「うおー、こんな所にも収納がとれるのか!?」
再び驚きの声を上げるガリュー。その声を聞いた研吾は満足げに少し笑みをこぼしていた。
「も、もう荷物を入れても良いんだな?」
「えぇ、どうぞ。いえ、せっかくですから俺たちも手伝いますよ」
前のことがあったので念を押して確認すると研吾たちも手伝いを申し出てくれる。ガリューは本当は断るつもりだったがあまりの在庫の量にお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「すまねーな。本当なら全部俺がしまわないといけないのに」
荷物を運びながら研吾にお礼を言う。
「いえ、本当ならすぐにでもしまえていたもの。俺が時間をかけすぎたみたいで申し訳ありません」
「そんなことな言っていったら嘘になるな。確かにあの時しまえないとわかって少し落ち込んだが今の倉庫を見させてもらったら先生に頼んで本当に良かったと思っている」
「先生?」
研吾は首を傾げる。
「あぁ、ここまでしてくれたんだ。あの収納の案を出したのは先生なんだろう? あれだけ立派にしてくれたんだ。俺にはこの呼び方しか思い浮かばねぇ」
ガリューに褒められて研吾はどことなく嬉しそうだった。この様子ならあの時の感覚を聞けるかもしれない。ガリューは満を持して聞いてみる。
「それで先生は何かに行き詰まっているのか?」
すると研吾は驚きその場に立ち止まる。
「どうしてそれを?」
研吾の顔は驚きの色に染まっていた。
「目を見ればわかる。先生の目は昔の俺の目だ。自分のしたいことが出来なくて苦悩している……な」
「……はい。実は俺……都市の計画に関わりたかったんですよ。でも前の場所だと出来なくて……それで……」
どこか悔しさをかみしめる研吾。しかし、そのつらさはガリューにもわかる。だからガリューはそっと研吾の背中を押すことにした。
「だからこの国に来たんだろう? 王国の依頼……あんなもの過去に出されたことがない。つまり、先生のために発令されたものだ。それとも今のこの状態が先生を苦しめてるのか?」
「いえ、今の状態は俺にとって感謝してもしきれない状態です」
「なら迷うな!」
ガリューは強めに言い放つ。その迫力に研吾は一歩後ろに後ずさった。
「これを続けたら夢が叶うんだろう! なら続けないとダメだ!」
ガリューはどこか自分の過去の境遇に当てはめていたのだろう。研吾の姿が自分に被って見えていた。研吾は研吾でものを運びながら真剣に考えている様子だった。まだ何か引っかかっているのだろう。それでも自分の言葉が少しでも響いてくれたのなら嬉しいなとガリューは思っていた。
そして、倉庫の中に荷物を置こうとしたときに研吾から指導が入る。どうも適当に置くだけじゃダメらしい。床に転がすだけだったガリューのしまい方――それが研吾の指導の下、使わないものは天井の収納庫に、頻繁に購入者が現れる剣や鎧といった品は一階のすぐにとれる場所に、槍などの場所をとる長物は棚上にしまった。そして全部のものがしまい終わったがそれでもまだスペースがあるほどだった。
「うお!? あれだけあった在庫品が全部しまえるとは!?」
「ガリューさんはちゃんとしまえていないんですよ。こうやって無駄なスペースを減らせばまだまだしまえるんですよ」
「それにしても盲点でした。いつも同じように作っていましたから、まさかこんな風に空間を利用できるとは思いませんでした」
ミルファーもきれいに整頓された商品を眺めて驚いていた。
「えぇ、この世界の建築は少し無骨で無駄な空間が多いように思います。ただ建てるだけなら俺の力はいらないけど、こう言ったちょっとしたことなら提案出来るみたいだ」
どこか嬉しそうな研吾。心につっかかっていたものが取れたみたいだった。
「先生、本当に助かった」
ガリューは改めて深々と頭を下げる。
「いえ、喜んでもらえてよかったです」
「それでここまでしてもらった費用なんだけど……やっぱり高いんだろうか?」
少し不安になる。確かに依頼書には金貨一枚と書いていた。しかしここまでしてもらったんだ。それなりの金額になっていてもおかしくない。
研吾も値段のことを言われ驚いた表情を浮かべていた。そして、必死に考えているところを見ると予算は度外視でただ少しでも収納を取れるように考えてくれたのだろう。少し悩んだあと、研吾は一枚の紙にスラスラと文字を書いて見せてくる。
『請求書』
ガリュー様
工事費合計【銀貨三十一枚】を請求させていただきます。
詳細は以下をご確認ください。
人件費、銀貨三十枚
その他雑費、銀貨一枚
そこに書かれていた文字を食い入るように見つめる。明らかに数字の桁がおかしい。これは何かの冗談か? あれだけの工事をして金貨一枚渡してお釣りが帰ってくるのか? それも半分以上……。念のために確認しておこう。
「先生、この数字間違えていないか?」
「どこか間違えてましたか?」
研吾が再度請求書の内容を確認する。それでホッとした様子を見せる。
「大丈夫です。どこも間違えていませんよ」
「おいおい、嘘だろう! ここまでしてもらって銀貨三十一枚ぽっちなはずないだろう。冗談はやめてくれよ。いったい金貨何枚なんだ?」
早口でまくし立てる。どう考えても信じられない。安すぎる値段だ。
「嘘ではないですよ。これでももらいすぎなくらいです」
研吾は不思議そうに言ってくる。
「本当にそれだけしか払わないぞ! いいんだよな」
ガリューは再三にわたって確認をする。
「はい、大丈夫ですよ」
ジッと研吾の目を見て嘘はないと判断したガリューは顎に手をあて、倉庫内を見渡してふとある考えに思い至る。そして、残り予算を見た上で頷いた。
「よし。それなら先生、うちの本宅の方もお願いできるか?」
「へっ?」
これで終わりだと思っていた研吾はさらなる依頼の追加に思わず聞き返してしまった。
ガリューは目の前にある倉庫を見上げて満足げに笑みを浮かべていた。
さて早速中に入らせてもらう。
「うおっ、結構広いな。これだけあれば結構な量のものが置けそうだ!」
倉庫は木造二階建てだった。一階、二階共に八畳ほどの収納部屋が設けてありそれだけの部屋があれば今ガリューの家で散らかっている売れ残りの商品たちもここにしまえるだろう。そうなると新しいものを作ることも……。
ガリューの口は少しにやけていた。
しかし、研吾は中に入ってからどうにも渋い顔をしていた。まるで何か気に入らないところがあるかのように。
「いえ、これはまだ完成ではありませんので」
研吾のこの一言はガリューはおろか、ミルファーやバルドールすらも驚かせた。
この日の夜、ガリューは気持ちが沈んだままいつもの酒場へとやってきた。するとカウンター席には顔なじみの姿があった。
「おう、どうしたガリュー。えらく元気がねぇが」
ガリューより少し下なだけの歳なのに背丈は子供のような毛むくじゃらなその男の名はモロゾフ。この男も酒場の常連客でふとしたときに話し合ったらやけに意気投合してしまってそれ以来旧知の仲だった。
「なんでもねぇよ」
少し口を尖らせたガリューは嫌なことを忘れるかのように出されたエールをグッと一気に飲み干す。
「いい飲みっぷりだな。そういえばお前、あのチラシの依頼出したんだな。いいのできたのか?」
「どうでもいいだろ!」
ガリューはさらにエールを貰い、それも一気にあける。
「おいおい、ペースが速すぎるだろ! 大丈夫か?」
心配するモロゾフをよそにガリューは何度もエールを飲み、そのまま酔い潰れてしまう。
それから一日、また一日と日は過ぎていき数日たった。毎日来ては何かをしていたようだが失意のガリューは少しのスペースで鍛治をして気を紛らわしていた。
やはりあんな怪しい依頼に頼むんじゃなかったと思い始めたころ完成したという報告をうける。
一度はガックリときたのであまり期待せずに倉庫の前へとやってくる。
するとそこにはすでに研吾たち三人が集まっていた。
「ガリューさん、お待たせして申し訳ありません」
「えらく時間が掛かっていたが何かあったのか?」
口を尖らせていうガリューに研吾は乾いた笑みを浮かべていた。
「申し訳ありません。でも満足いただける結果になっていると思いますよ」
「それじゃあ早速見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
そういうと研吾はまず一階の中を案内する。外見は以前と何も変わってないのであまり期待してなかったが中を見て驚いた。
「おい、何だあれは?」
いくつか気になっていたが、まずガリューが指さしたのは壁につけた木製の棚だった。
「物置棚ですよ。あそこに少しでも物が置けますよね。せっかく高い天井なのに高いところにはものが置けない、もったいない空間になってますよね」
研吾が言ってるのはもっともなことだった。普通の住居としてならそれでいいだろうが、物置として、それもできるだけ収納したいと言っていたからな。こうした気配りは嬉しい。
あまり期待してなかったガリューは気持ちを改め、次は何が出てくるのかと期待が膨らんできた。
「確かに……おける場所が増えるのは助かるな」
「ほかにも色々とありますよ」
今度は階段下へとやってきた。ここには意味深に扉がつけられていた。
「おい、階段下に扉なんかついてるぞ」
「はい、試しに開けてみてください」
一体何があるんだと扉を開ける。すると、階段の下にも物がしまえそうな空間が存在していた。
「だ、大丈夫なのか? 階段をこんなに薄くしたら落ちるんじゃないか?」
「いえ、平気ですよ。ただ、いきなりガリューさんが乗るのも怖いですよね。どうやらこの辺りの家では階段下の空間は使っていないようでしたので。バルドール、お願いできますか?」
「任せろ!」
研吾が指示を出すとバルドールが階段を登り始める。
「お、おいやめろ! 危ないぞ! 落ちるぞ!」
ヒヤヒヤとした様子で見ていたガリューだが、バルドールが半分登りきったところでついに見ていられなくなって目を閉じる。するとしばらくして上の方から声が聞こえる。
「おーい、この通り無事だぞー!」
「ふぅ……、でも危ないじゃないか」
「いえ、これは絶対に落ちませんよ。そのために色々と補強も行いました。バルドールとミルファーがあまりに心配するので何度も何度も実験を繰り返しました。そのため遅くなってしまって申し訳ありません」
研吾が謝ってくる。確かに時間はかかった。しかし、それも少しでも広い収納場所を確保するため、ガリューのためだった。そのことを聞いたガリューはあれだけ意気消沈していたのが嘘みたいに研吾のことを信じ出していた。
「ほ、他には何かないのか?」
「はい、では二階に上ってください」
期待を胸にあれだけ怖がっていた階段を恐る恐るだが上っていく。するとそこで目に入ったのは更にもう一階上がるためのはしごだった。
これは一体何のために使うものなんだ?
少し困惑しつつ研吾の顔を見る。すると研吾が教えてくれる。
「この階の上には小屋裏の収納庫があります。天井の高さはとれませんがちょっとした物を置くためになら使えますよ」
そういってはしごを上るように促す。
「うおー、こんな所にも収納がとれるのか!?」
再び驚きの声を上げるガリュー。その声を聞いた研吾は満足げに少し笑みをこぼしていた。
「も、もう荷物を入れても良いんだな?」
「えぇ、どうぞ。いえ、せっかくですから俺たちも手伝いますよ」
前のことがあったので念を押して確認すると研吾たちも手伝いを申し出てくれる。ガリューは本当は断るつもりだったがあまりの在庫の量にお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「すまねーな。本当なら全部俺がしまわないといけないのに」
荷物を運びながら研吾にお礼を言う。
「いえ、本当ならすぐにでもしまえていたもの。俺が時間をかけすぎたみたいで申し訳ありません」
「そんなことな言っていったら嘘になるな。確かにあの時しまえないとわかって少し落ち込んだが今の倉庫を見させてもらったら先生に頼んで本当に良かったと思っている」
「先生?」
研吾は首を傾げる。
「あぁ、ここまでしてくれたんだ。あの収納の案を出したのは先生なんだろう? あれだけ立派にしてくれたんだ。俺にはこの呼び方しか思い浮かばねぇ」
ガリューに褒められて研吾はどことなく嬉しそうだった。この様子ならあの時の感覚を聞けるかもしれない。ガリューは満を持して聞いてみる。
「それで先生は何かに行き詰まっているのか?」
すると研吾は驚きその場に立ち止まる。
「どうしてそれを?」
研吾の顔は驚きの色に染まっていた。
「目を見ればわかる。先生の目は昔の俺の目だ。自分のしたいことが出来なくて苦悩している……な」
「……はい。実は俺……都市の計画に関わりたかったんですよ。でも前の場所だと出来なくて……それで……」
どこか悔しさをかみしめる研吾。しかし、そのつらさはガリューにもわかる。だからガリューはそっと研吾の背中を押すことにした。
「だからこの国に来たんだろう? 王国の依頼……あんなもの過去に出されたことがない。つまり、先生のために発令されたものだ。それとも今のこの状態が先生を苦しめてるのか?」
「いえ、今の状態は俺にとって感謝してもしきれない状態です」
「なら迷うな!」
ガリューは強めに言い放つ。その迫力に研吾は一歩後ろに後ずさった。
「これを続けたら夢が叶うんだろう! なら続けないとダメだ!」
ガリューはどこか自分の過去の境遇に当てはめていたのだろう。研吾の姿が自分に被って見えていた。研吾は研吾でものを運びながら真剣に考えている様子だった。まだ何か引っかかっているのだろう。それでも自分の言葉が少しでも響いてくれたのなら嬉しいなとガリューは思っていた。
そして、倉庫の中に荷物を置こうとしたときに研吾から指導が入る。どうも適当に置くだけじゃダメらしい。床に転がすだけだったガリューのしまい方――それが研吾の指導の下、使わないものは天井の収納庫に、頻繁に購入者が現れる剣や鎧といった品は一階のすぐにとれる場所に、槍などの場所をとる長物は棚上にしまった。そして全部のものがしまい終わったがそれでもまだスペースがあるほどだった。
「うお!? あれだけあった在庫品が全部しまえるとは!?」
「ガリューさんはちゃんとしまえていないんですよ。こうやって無駄なスペースを減らせばまだまだしまえるんですよ」
「それにしても盲点でした。いつも同じように作っていましたから、まさかこんな風に空間を利用できるとは思いませんでした」
ミルファーもきれいに整頓された商品を眺めて驚いていた。
「えぇ、この世界の建築は少し無骨で無駄な空間が多いように思います。ただ建てるだけなら俺の力はいらないけど、こう言ったちょっとしたことなら提案出来るみたいだ」
どこか嬉しそうな研吾。心につっかかっていたものが取れたみたいだった。
「先生、本当に助かった」
ガリューは改めて深々と頭を下げる。
「いえ、喜んでもらえてよかったです」
「それでここまでしてもらった費用なんだけど……やっぱり高いんだろうか?」
少し不安になる。確かに依頼書には金貨一枚と書いていた。しかしここまでしてもらったんだ。それなりの金額になっていてもおかしくない。
研吾も値段のことを言われ驚いた表情を浮かべていた。そして、必死に考えているところを見ると予算は度外視でただ少しでも収納を取れるように考えてくれたのだろう。少し悩んだあと、研吾は一枚の紙にスラスラと文字を書いて見せてくる。
『請求書』
ガリュー様
工事費合計【銀貨三十一枚】を請求させていただきます。
詳細は以下をご確認ください。
人件費、銀貨三十枚
その他雑費、銀貨一枚
そこに書かれていた文字を食い入るように見つめる。明らかに数字の桁がおかしい。これは何かの冗談か? あれだけの工事をして金貨一枚渡してお釣りが帰ってくるのか? それも半分以上……。念のために確認しておこう。
「先生、この数字間違えていないか?」
「どこか間違えてましたか?」
研吾が再度請求書の内容を確認する。それでホッとした様子を見せる。
「大丈夫です。どこも間違えていませんよ」
「おいおい、嘘だろう! ここまでしてもらって銀貨三十一枚ぽっちなはずないだろう。冗談はやめてくれよ。いったい金貨何枚なんだ?」
早口でまくし立てる。どう考えても信じられない。安すぎる値段だ。
「嘘ではないですよ。これでももらいすぎなくらいです」
研吾は不思議そうに言ってくる。
「本当にそれだけしか払わないぞ! いいんだよな」
ガリューは再三にわたって確認をする。
「はい、大丈夫ですよ」
ジッと研吾の目を見て嘘はないと判断したガリューは顎に手をあて、倉庫内を見渡してふとある考えに思い至る。そして、残り予算を見た上で頷いた。
「よし。それなら先生、うちの本宅の方もお願いできるか?」
「へっ?」
これで終わりだと思っていた研吾はさらなる依頼の追加に思わず聞き返してしまった。
1
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる