暗躍貴族の保身的救済 ~死にたくないので救国します!〜

空野進

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兵の襲撃(2)

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「アイン、来たか」


 貧困街の先でブライトは腕を組んで待っていた。
 どうやらしっかりと戻ってこられたようだ。


「――待たせたか?」
「いや、問題ない。では早速ヘクセルの森へ向かうか」
「あぁ……」


 ブライトの後を歩いていく。
 そして、畑を通り過ぎようとした瞬間にブライトは立ち止まる。
 そのことを不思議に思い、ブライトに話しかける。


「――なにかあったのか?」
「あぁ、敵だな」


 魔物でも現れたのだろうかと思い、目を凝らしてみる。
 すると、そこにいたのはブライトに殴られた兵士だった。
 ただし、剣を向けていた。


 盗賊か? いや、あの姿は――。


 どこかで見覚えのある姿。


 ……というより、巡回を頼んだ兵士じゃないのか?
 なんで巡回兵が剣を向けてくる?
 俺たちのことを不審者と思っているのか?


「待て。まだ攻撃するな」
「しかし、奴らは国の犬てきだ! 問答無用で襲ってくるぞ」


 しかし、俺はブライトの制止を聞かずに兵たちの前に出る。


「やはり現れたか。しかもおあつらえ向きに仲間も連れて……。クロウリッシュ様の読み通りだな」


 ……っ!? どうしてそこで俺の名前が出てくるんだ!


 驚きの出来事に思わず声を詰まらせる。
 しかし、ブライトはこの状況も予想通りだったようだ。


「まぁ、何もなしで終わるとは思っていなかったぞ。貴族の奴らは平民おれたちを虐めることしか考えていないからな」


 ……っ!?!?


 ブライトからも驚きの言葉が出てくる。


 もしかして、俺ってそんな残虐な性格に見えていたのだろうか?
 こう見えてもそれなりにまともに暮らしていたつもりなんだけどな……。

 って違う! どうして、俺が兵を差し向ける命令をしたことになっているんだ!
 俺はちゃんと『手を煩わせるな』と言ったはずだ。

 それと同時に魔物とかが襲ってこないようにしっかりと夜も見張りを……。

 そこでだんだん思考がゆっくりになってくる。

 魔物が襲ってこないようにしっかりと……?
 もし、この魔物がブライトのことを指していると思われたら――?

 魔物ブライトが襲ってこないように見張りを……。

 ブライトを逃がしてからの指示で、しかも夜を指定している。
 俺の指示を勝手に『暗殺しろ』と思われたのだろう。
 おそらく、やられた恨みを返すために自分がやりたい方向に考えをねじ曲げて――。


 なんで素直に受け取ってくれなかったのだろうか……?


 思わず頭に手を当ててしまう。


「はぁ……」
「くっ、貴様! 何がおかしい!」


 俺がため息を吐くと兵士が過剰に反応してくる。


「いや、何でもない。お前たちがあまりに不憫でな」


 今のアインとしての反応はこうするしかなかった。
 力の差がかなりある状況だとわからせるために、強者に見せる。
 あくまでも態度だけでしかないが、それでも表情が見えないので相手が感じる印象はガラッと変わる。


「な、何を!?」


 兵士は俺の様子を見て、思わず身構えていた。


「なんだ、怖いのか? それなら戦おうとするな。今なら逃がしてやる」


 出来れば逃げてくれ……。
 兵を傷つけるとそれはそれで問題になるんだ――。
 心の中で祈っていたのだが、兵士は顔を真っ赤にしていた。


「くっ、舐めやがって。死んで後悔しろ!」


 殺気をむき出しにしながら、俺に向けて駆けだしてくる。


「ど、どうするつもりだ、アイン。殺されるぞ!」
「いや、安心しろ。この程度問題ない」


 このまま放置しても、良い結果にはならない。
 わざわざ待ち伏せをしてまで、国民を殺しに来る奴だ。
 それに殴られたのもこいつ自身が悪いのだから、しっかり罪は償わせる必要がある。
 それならば――。


「死ねー!!」


 兵が思いっきり剣を突き立てようとしてくる。
 しかし、それよりも早く、巻物の魔法を発動させる。
 すると、次の瞬間に兵士の周りを壁が覆っていた。


 今回は逃げ道を作る必要もない。
 完全に覆ってしまい、逃げられなくしておく。
 呼吸はできるように小穴は開けておくが……。


「こ、これは、巻物⁉︎」
「あぁ、そうだ。もうそこから動けまい」
「こ、この程度で……」


 兵士が必死に壁を壊そうとするが、全く抜け出すことができていない。
 ブライトなら簡単に壊せそうだが、この兵はそこまで力があるわけではないようだ。

 無事に兵を捕まえることが出来た後、ブライトが近づいてくるがその表情はどこか腑に落ちていないようだった。


「ど、どうしてそんな奴の命を救うんだ……?」


 ブライトが不思議そうに問いかけてくる。
 敵だ、と言っていたほどだ。貴族の兵という時点で恨みも持っているのだろう。

 ただ、殺し合っていてはいつまでたってもどちらかの不満は残る。
 どこかで不満の連鎖は断ち切る必要がある。


「こんな奴を殺してなんになる!」
「し、しかし、こいつら兵士には――」
「捕らえる理由はあっても、こいつらのために俺たちが犯罪者まで身を落とす理由はない! 己をしっかりと持て! 俺たちは何をするんだ?」


 ブライトに視線を向け、強い言葉で言い切る。
 すると、ブライトはすぐに納得してくれる。


「そ、それもそうだな……。すまない、兵を倒すこと小事にこだわって兵国を倒すこと大事が見えなくなっていたようだ」


 頭を下げるブライト。
 納得してくれて良かった、と俺は心の中でホッとしていた。
 そんなことを話していると土の壁の中から兵士の怒声が聞こえてくる。


「おい、出せ! 出しやがれ‼︎」


 魔力の壁を破ることを諦めた兵士たち。
 しかし、助ける理由もないので、しばらくはこのまま捕らえておこう。
 この町に戻ってきたときくらいに助けてやっても良いかな……。

 反省を促すことも大事だからな。
 それにこの巻物もそれほど効果が持続するわけではない。
 飢餓で死ぬようなことはないだろう。

 兵士をもう気にすることなく、俺たちはそのままヘクセルの森へと向かっていった。
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