暗躍貴族の保身的救済 ~死にたくないので救国します!〜

空野進

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Sランク冒険者、ジークフリード(1)

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「あれで……よかったのでしょうか?」


 ルリカが不安そうな表情をみせて聞いてくる。


「これ以上襲われることがなくなったんだ。喜ぶと良い」


 再び仮面を付けるとルリカの方を振り向く。
 それよりも彼女には言っておくことがある。


「さっき、俺の名前を聞いたな?」
「はい。えっと、クロウリッシュ――」
「いや、俺の名前はアインだ。さっきのは忘れてくれ」
「でも、貴族って……」
「それも忘れろ!」
「わ、わかりました」


 少し怯えた様子を見せながらルリカが小さく頷いていた。


「それよりも全て終わった。里へ戻るぞ」
「わかりました。案内しますね」


 ルリカが先に進んでいこうとする。
 しかし、そのときに人の気配を感じる。

 またさっきの冒険者が戻ってきたのだろうか?

 不思議に思いながら目を凝らせて見る。
 すると全く違う白銀の鎧姿の男が近づいてくる。


「……魔女か?」


 低い声を出してくる。
 見た目からは騎士のように思えるが、聞いてきた内容から冒険者ではないかと予測する。


「お前の方こそ冒険者なのか?」
「……なんだ、俺のことを知らないのか?」


 有名人なんだろうか?
 ただ、まだこの世界のことに疎い俺が知るよしもなかった。


「――知らんな。誰だ、お前は?」
「そうか……。俺もまだまだだな。俺の名前はジークフリード。冒険者をしている」
「……冒険者か。俺はアインだ。それとこいつは魔女ではない。ルリカだ」
「しかし、白銀赤眼の少女……という話だった。かなり危険なユリース人の生き残りという話だぞ」


 ユリース人?
 種族名なんだろうか?


「種族なんて知らんな。こいつが実際に危険かどうか……、それが全てじゃないか?」
「それもそうだな――」


 意外と物わかりの良い奴だった。
 でも、有名な冒険者なんだよな?
 かなり高ランクと見た方が良いだろう。

 マントの下にある巻物に触れようとする。
 しかし、その瞬間にジークフリードが持っていた大剣を突きつけてくる。

 み、見えなかった……。

 あまりの動きの速さに全く見えなかった。
 冷や汗を流しながら、巻物に触れようとした手を止める。


「その服の下のものは触れないでくれよ。余計なことをされるとつい切ってしまう」
「――やはりお前も冒険者……ということか」


 ちょっとは見所のある奴かと思ったが、やはり不正が横行するギルドの冒険者……ということのようだ。


「あぁ、これでもSランク冒険者だからな」
「……っ!?」


 Sランク冒険者というとブライトが人外と言っていた連中のことだな。
 ブライトで勝てないなら戦闘で俺に勝てるはずがない。
 それならさっきの冒険者のように買収するか?


「それでお前はいくらでこの子を殺る依頼を受けたんだ?」
「……受けていない」
「――はぁ!?」
「俺はお前が言ったとおりに本当に魔女が悪い奴なのか確認しに来ただけだ」
「冒険者なのにか!?」
「冒険者かどうかは関係ない。困っている人間を助けるのが我々の仕事だ!」


 どうやらこの男は俺のイメージ通りの冒険者のようだ。
 不正も関係なく……。
 おそらく今の地位は実力で勝ち取ったのだろう。

 不正を使っていない……、強すぎるからこそのSランク冒険者。


「……それでこいつはどうだ? 悪い奴か?」
「いや、違うな。どうやら魔女の話はデタラメだったようだ」
「それならそろそろ俺を離してくれないか」
「……その仮面を取ってくれないか? お前が怪しいやつかはまだ見ていない」
「……それはできない」


 さすがに冒険者に今の活動を気取られるわけにはいかない。
 ただ、どうしても殺されそうなら――。
 少し考えたけど、俺が折れる前にジークフリードが首を振って呆れ顔になる。


「まぁ、このくらいの能力なら気にするほどでもないな」


 剣を離してくれ、ようやく一心地付く。
 しかし、態度には出さないように気をつける。


「わかってくれて嬉しいぞ。では俺たちはそろそろ行かせてもらう」
「それならば、俺も同行させてもらおう」
「――どうして?」
「魔女の隠れ里も確認しておきたい。無論、ここが安全ならギルドにはそのように報告させていただく」
「……わかった。一緒に付いてこい」


 それから俺たちは隠れ里の方へと戻っていった。
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