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プラークのカフェで昼食を取り終えたカイは早速冒険者ギルドへと向かっていった。
もちろん狙いは標的の確認と依頼主を探すこと……だった。
プラーク自身に相手を聞くのが一番早いかもしれないが、相手もカイみたいに仲介を頼んでいるかもしれない。
見つからないならそっちから調べるのもありだが、ひとまずは標的に繋がりがあって、恨みを持ってそうな相手を調べることにした。
冒険者ギルドは町外れの門近くにあった。
看板には剣と盾の両方が描かれており、中からは熱気が流れ出てきた。
冒険者ギルドに出入りをしているのはやはり力自慢の男たちが多く、この中に目立たないように入るのは難しそうだ。
それに、あまり一般人が出向くような場所ではないのであまり気乗りがしない。
「よし、帰るか」
そのまま帰ろうとすると声をかけられてしまう。
「どうかされましたか? もしかしてギルドにご用ですか?」
「い、いえ、別に用と言うほどのものでもありませんので」
カイは心の中でため息を吐きながら断ろうと振り向く。
そこにいたのは小柄な金髪の少女だった。
肩ほどまでの髪と可愛らしい顔立ち、青みがかった黒のエプロンドレス。
あとは、手に箒を持っているところをこの冒険者ギルドの職員だろうということは予想できた。
正直、あまり強そうな見た目には見えない。
カイ自身能力は平均ほどだが、それなりに強者の相手はしてきた。
こういった感覚には自信がある。
(まぁ、俺みたいに油断させて隙を突くタイプかもしれないので、警戒心は解かないが)
「もしかして、冒険者ギルドにご登録に来られたとかですか!? わかりました。では、こちらにきてください!」
「い、いや、俺は――」
人の話を聞かずに突然少女はカイの手を引っ張ってギルドの中へと連れて行く。
ただ、これはカイにとっても堂々とギルド内に入るチャンスなので慌てるフリをし続けることにした。
◇
冒険者ギルドはカイの予想通り、屈強な体つきの男たちが何人もテーブル席についていた。
そして、少女に引っ張られていくカイの姿を見て嘲笑を浮かべていた。
「あまり気持ちいいものではないですね……」
「申し訳ありません。どうしても冒険者……は荒っぽい方が多いんですよ」
小声で少女が教えてくれる。
概ね理解していたことなのでカイは頷くに留めておく。
それと同時に軽く周りを見渡して置くが、やはりSランク冒険者であるマーグの姿は見当たらなかった。
そして、少女と一緒に来たからか特に絡まれることなく奥に置かれたカウンターまで進むことができる。
「それで本日のご用は冒険者登録でよろしいんですよね?」
「よろしくないですよ」
少女の動きが固まった。
(いや、俺は一言も登録するなんて言ってないんだが……。それに登録できない理由もあるわけだし……)
「えっと、もう一度聞きますね? もちろんここには冒険者登録をしに来られたんですよね? そうと言ってください」
なぜか頼み込むように言われる。
「何度言われても俺にはそんな力がありませんので、とても冒険者なんてできないですよ」
「わ、わからないですよ。もしかしたら隠された力とかあるかもしれないですから……。ほらっ、冒険者ギルド特製の能力チェックだけでも受けていきませんか? む、無料で行っていますから」
少女が水晶玉を見せてくる。掲げているというのが正しいかもしれない。
「はぁ……、見ても同じだと思いますよ?」
カイは以前にも能力を調べたことがあった。当然そのときも一般人を越えるような能力はなかった。
「では、お言葉に甘えまして……」
少女がじっくり水晶を眺めていた。
そして、少女ががっかりとうなだれていた。
「ほ、本当に全ての能力が一般の人の平均レベル……。こ、これじゃあ流石に冒険者なんて……」
さすがにここまで落ち込むと少女のことが可哀想に思えてくる。
「どうしてそこまで冒険者になってもらいたいんですか?」
「ギルドの受付嬢は、どれだけ冒険者になってもらえたか、優秀な人材を引き込めたかで給料が決まるんですよ。だからいろんな人を調べて有能そうな人には片っ端から声をかけるんですけど……」
「はははっ……、俺は力不足でしたね」
「いえ、私の方こそ時間を取らせてしまって申し訳ありません」
少女が頭を下げてくる。
「いえ、気にしないでください。俺もこのギルドに用があったわけですから」
「用……ですか?」
「はい。難しい依頼を頼むかもしれなくて、高ランク冒険者のことを聞いてみたくて来たのです」
一つのギルドに高ランクの持ち主はそれほどいない。
そして、この町のSランク冒険者と言えばマーグ・ラグドリーとあと一人だけだった。
もう一人の方は名前すら碌に知られていないので、実質彼一人しかいないようなものだろう。
ただ、彼の評判が悪いならこのときにやめておいた方が良いと止めてくれるはずだ。
「そうですね。まずやはりランクが高ければ高いほど費用がかかってしまいますね。Bランククラスで一依頼、金貨数枚。Aランクだとその十倍。……Sランクになると最低でも百倍くらいかかります。これが依頼人からしたら大きな差だと思います」
大体普通の人が一月に稼ぐ金額が金貨二枚ほどだ。
やはりランクが上がればあがるほど依頼をする事自体が大変になるようだ。
あと、それ以上に有意義な情報は……Sランクと言う前に少し口ごもっていた。
少女のあまり勧めたくない……という気持ちが出ている。
(つまり、そこまで好かれている人物ではないようだ。依頼人はギルド関係者……の可能性があるな。でも、ここで聞ける情報はこのくらいか……)
「ありがとうございます。助かりました。では、俺はそろそろ失礼させてもらいます」
「あっ、はい。どうもご迷惑をおかけしました」
もう一度深々と頭を下げて来られる。
冒険者ギルドを出て行こうとしたタイミングで扉が激しい音を鳴らして開けられる。
そして、中に入ってきたのは標的のマーグだった。
紙で見るよりも更にいい体つきなのはやはり身につけている装備にもよるのだろう。
さすがにここで殺してしまうと騒ぎになってしまう。
カイはマーグの動きを注視しておく。すると、ちょうどマーグと視線が合う。
ただ、舌打ちをしてすぐにカウンターの方に振り向く。
(どうやら警戒心は抱かれていないな。むしろ側にいたら邪魔……程度に思われているようだ。あまり気持ちの良い視線ではないものの仕事自体はやりやすそうだ)
カイは心の中でニヤリ微笑むとそのままギルドを出て行く。
その後すぐにギルド内からマーグの怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
(あれじゃあ、冒険者ギルドの誰に嫌われていてもおかしくないな。力はあるが、それに溺れて過信してるタイプか……。今回は安心して相手を殺せるな。特にギルド内のあの横暴な態度……。実力はあっても嫌われているし、周囲に味方はいない。そのうえ、一般人を見下している。いつでも殺れる環境が整っているわけだし早めにやっておくか)
カイはギルドを出た後に近くに身を潜めてマーグが出てくるのを待つ。
ただ、しばらくの間マーグは姿を見せることはなかった。
次に彼が出てきたのは一晩明けた朝方だった。
ギルド内で酒でも飲んでいたのか頬を赤く染め、ふらつく足取りで機嫌よさそうに歩いていた。
ちょうど大通り沿いを歩いてくれているので、カイも同じようにゆっくりマーグの後を追いかける。
そして、追い越し様にマーグの心臓にナイフを突き立てる。
「あぁ……?」
マーグが声を漏らすが、急所を一突きされた彼はそのまま転けたように倒れ込む。
周りからは酔っ払いが足を滑らせたようにしか見えないだろう。
Sランク冒険者とはいえ、人には違いないからな。
強者相手なら油断せずに急所を攻撃させるなんてさせないだろうが……。
カイは既に息を引き取っているマーグの方を振り返ることなく、そのまま歩き去って行く。
もちろん狙いは標的の確認と依頼主を探すこと……だった。
プラーク自身に相手を聞くのが一番早いかもしれないが、相手もカイみたいに仲介を頼んでいるかもしれない。
見つからないならそっちから調べるのもありだが、ひとまずは標的に繋がりがあって、恨みを持ってそうな相手を調べることにした。
冒険者ギルドは町外れの門近くにあった。
看板には剣と盾の両方が描かれており、中からは熱気が流れ出てきた。
冒険者ギルドに出入りをしているのはやはり力自慢の男たちが多く、この中に目立たないように入るのは難しそうだ。
それに、あまり一般人が出向くような場所ではないのであまり気乗りがしない。
「よし、帰るか」
そのまま帰ろうとすると声をかけられてしまう。
「どうかされましたか? もしかしてギルドにご用ですか?」
「い、いえ、別に用と言うほどのものでもありませんので」
カイは心の中でため息を吐きながら断ろうと振り向く。
そこにいたのは小柄な金髪の少女だった。
肩ほどまでの髪と可愛らしい顔立ち、青みがかった黒のエプロンドレス。
あとは、手に箒を持っているところをこの冒険者ギルドの職員だろうということは予想できた。
正直、あまり強そうな見た目には見えない。
カイ自身能力は平均ほどだが、それなりに強者の相手はしてきた。
こういった感覚には自信がある。
(まぁ、俺みたいに油断させて隙を突くタイプかもしれないので、警戒心は解かないが)
「もしかして、冒険者ギルドにご登録に来られたとかですか!? わかりました。では、こちらにきてください!」
「い、いや、俺は――」
人の話を聞かずに突然少女はカイの手を引っ張ってギルドの中へと連れて行く。
ただ、これはカイにとっても堂々とギルド内に入るチャンスなので慌てるフリをし続けることにした。
◇
冒険者ギルドはカイの予想通り、屈強な体つきの男たちが何人もテーブル席についていた。
そして、少女に引っ張られていくカイの姿を見て嘲笑を浮かべていた。
「あまり気持ちいいものではないですね……」
「申し訳ありません。どうしても冒険者……は荒っぽい方が多いんですよ」
小声で少女が教えてくれる。
概ね理解していたことなのでカイは頷くに留めておく。
それと同時に軽く周りを見渡して置くが、やはりSランク冒険者であるマーグの姿は見当たらなかった。
そして、少女と一緒に来たからか特に絡まれることなく奥に置かれたカウンターまで進むことができる。
「それで本日のご用は冒険者登録でよろしいんですよね?」
「よろしくないですよ」
少女の動きが固まった。
(いや、俺は一言も登録するなんて言ってないんだが……。それに登録できない理由もあるわけだし……)
「えっと、もう一度聞きますね? もちろんここには冒険者登録をしに来られたんですよね? そうと言ってください」
なぜか頼み込むように言われる。
「何度言われても俺にはそんな力がありませんので、とても冒険者なんてできないですよ」
「わ、わからないですよ。もしかしたら隠された力とかあるかもしれないですから……。ほらっ、冒険者ギルド特製の能力チェックだけでも受けていきませんか? む、無料で行っていますから」
少女が水晶玉を見せてくる。掲げているというのが正しいかもしれない。
「はぁ……、見ても同じだと思いますよ?」
カイは以前にも能力を調べたことがあった。当然そのときも一般人を越えるような能力はなかった。
「では、お言葉に甘えまして……」
少女がじっくり水晶を眺めていた。
そして、少女ががっかりとうなだれていた。
「ほ、本当に全ての能力が一般の人の平均レベル……。こ、これじゃあ流石に冒険者なんて……」
さすがにここまで落ち込むと少女のことが可哀想に思えてくる。
「どうしてそこまで冒険者になってもらいたいんですか?」
「ギルドの受付嬢は、どれだけ冒険者になってもらえたか、優秀な人材を引き込めたかで給料が決まるんですよ。だからいろんな人を調べて有能そうな人には片っ端から声をかけるんですけど……」
「はははっ……、俺は力不足でしたね」
「いえ、私の方こそ時間を取らせてしまって申し訳ありません」
少女が頭を下げてくる。
「いえ、気にしないでください。俺もこのギルドに用があったわけですから」
「用……ですか?」
「はい。難しい依頼を頼むかもしれなくて、高ランク冒険者のことを聞いてみたくて来たのです」
一つのギルドに高ランクの持ち主はそれほどいない。
そして、この町のSランク冒険者と言えばマーグ・ラグドリーとあと一人だけだった。
もう一人の方は名前すら碌に知られていないので、実質彼一人しかいないようなものだろう。
ただ、彼の評判が悪いならこのときにやめておいた方が良いと止めてくれるはずだ。
「そうですね。まずやはりランクが高ければ高いほど費用がかかってしまいますね。Bランククラスで一依頼、金貨数枚。Aランクだとその十倍。……Sランクになると最低でも百倍くらいかかります。これが依頼人からしたら大きな差だと思います」
大体普通の人が一月に稼ぐ金額が金貨二枚ほどだ。
やはりランクが上がればあがるほど依頼をする事自体が大変になるようだ。
あと、それ以上に有意義な情報は……Sランクと言う前に少し口ごもっていた。
少女のあまり勧めたくない……という気持ちが出ている。
(つまり、そこまで好かれている人物ではないようだ。依頼人はギルド関係者……の可能性があるな。でも、ここで聞ける情報はこのくらいか……)
「ありがとうございます。助かりました。では、俺はそろそろ失礼させてもらいます」
「あっ、はい。どうもご迷惑をおかけしました」
もう一度深々と頭を下げて来られる。
冒険者ギルドを出て行こうとしたタイミングで扉が激しい音を鳴らして開けられる。
そして、中に入ってきたのは標的のマーグだった。
紙で見るよりも更にいい体つきなのはやはり身につけている装備にもよるのだろう。
さすがにここで殺してしまうと騒ぎになってしまう。
カイはマーグの動きを注視しておく。すると、ちょうどマーグと視線が合う。
ただ、舌打ちをしてすぐにカウンターの方に振り向く。
(どうやら警戒心は抱かれていないな。むしろ側にいたら邪魔……程度に思われているようだ。あまり気持ちの良い視線ではないものの仕事自体はやりやすそうだ)
カイは心の中でニヤリ微笑むとそのままギルドを出て行く。
その後すぐにギルド内からマーグの怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
(あれじゃあ、冒険者ギルドの誰に嫌われていてもおかしくないな。力はあるが、それに溺れて過信してるタイプか……。今回は安心して相手を殺せるな。特にギルド内のあの横暴な態度……。実力はあっても嫌われているし、周囲に味方はいない。そのうえ、一般人を見下している。いつでも殺れる環境が整っているわけだし早めにやっておくか)
カイはギルドを出た後に近くに身を潜めてマーグが出てくるのを待つ。
ただ、しばらくの間マーグは姿を見せることはなかった。
次に彼が出てきたのは一晩明けた朝方だった。
ギルド内で酒でも飲んでいたのか頬を赤く染め、ふらつく足取りで機嫌よさそうに歩いていた。
ちょうど大通り沿いを歩いてくれているので、カイも同じようにゆっくりマーグの後を追いかける。
そして、追い越し様にマーグの心臓にナイフを突き立てる。
「あぁ……?」
マーグが声を漏らすが、急所を一突きされた彼はそのまま転けたように倒れ込む。
周りからは酔っ払いが足を滑らせたようにしか見えないだろう。
Sランク冒険者とはいえ、人には違いないからな。
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