3 / 40
2.
しおりを挟む
(冒険者ギルド)
「なに、あのマーグがもう殺されただと!?」
冒険者ギルドの奥の部屋、ギルド長のバルテルが報告を受けて驚いていた。
その報告を持ってきたギルド職員の女性も動揺を隠しきれない様子だが、それでも淡々と報告を行っていた。
「はい、今朝早くに大通りで倒れているところを発見されました」
「う……そ……だろ? 確かに最近のやつの言動は許容範囲を超えていた。ただ、それでもこのギルドの最高戦力だぞ。それがこうも簡単にやられるなんて……」
「えぇ、ただ昨日はかなりお酒を飲まれていたようで……」
「それでもやつなら最低限の警戒は行っていたはずだ。以前も別の暗殺者に狙われたときは返り討ちにしていたからな。殺気には人一倍警戒心が高い。そうでなくてはSランク冒険者になんてなれない。それがこうもあっさりと……。さすがに放っておく訳にはいかないな」
「どうされるのですか?」
「もちろん、もう一人のSランクを使う」
バルテルが告げると女性が驚きの表情を見せる。
「あの一度もギルドに顔を見せたことのない方を使うのですか? 実在されていたのですね――」
「あぁ、表の仕事をマーグに、裏の仕事を彼に任せていたからな。裏の仕事故にその存在を気取らせる訳にもいかなかった。だからギルドでも私だけが唯一連絡を取り合える……」
「そのことを私に話していただいてもよろしいのですか?」
「もちろんだ、暗殺者ランク十位の誘惑くん」
バルテルがニヤリと微笑むと今まで話を聞いていた女性も同じように笑みで返していた。
そして、今まできっちりと着こなしていたギルドの服の胸元をはだけさせて、甘美な息をつく。
あらわになる豊満な胸。
女性特有の色香が漂ってくる。
また、それと同時に今まで結わいていた紫色の髪をほどくと腰くらいまで届くほど長く艶やかだった。
思わずバルテルですら息をのんでしまうほどの美人がそこにいた。
「やっぱり気づいていたのですね」
「あぁ、これでもギルドの長だからな。君ほどの実力者となると見ただけで力のある人間だとわかるよ」
「そんな相手と対面してもよろしいのですか?」
「変な動きを見せれば殺すつもりだったが、今回は利害が一致しているようだからな」
「えぇ、私もそろそろ暗殺者ランク一桁……、人外の領域に行きたいと思っていたのですよ。今回の件は殺しの手口から見て、おそらく第一位、正体不明の仕業と考えるべきでしょうから。そんなやつを殺ることができれば私が彼の代わりに一位になる……ということも考えられますから」
唇を舐める女性。
その一つ一つの仕草が男を手玉に取るためにわざとしている行動なのだろう。
「アンノウンか……。確かに彼の仕業ならその痕跡の一切を残していないだろうな。でも、今回の依頼は一体誰が――?」
「Sランク冒険者に恨みを持つ相手ならたくさん考えられますね。態度も横暴な方でしたし……」
「そうだな。どちらにしても今のままではダメだからな。俺もSランクの彼に話しておく」
「わかりました。私は暗殺者ランクにも顔を乗せるSランク冒険者の方のお手並みを拝見させていただきますね」
◇
マーグの暗殺を終えたカイは自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込む。
「さすがに一晩起きているのは疲れるな……。報酬の額も高いから受けたが、今後は考え物かもな」
そのまま眠りにつこうとすると窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
「今度はそっちか……」
窓を開けると小さな鳥が中へと入ってくる。
その足には一枚の紙が括り付けられていた。
その紙を取ると小鳥はそのまま羽ばたいていった。
ため息交じりに寝る前にその紙を開いてみる。
そこには新しい依頼が書かれていた。
それをみてカイは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、こんな依頼がくるよな。予防線をはっておいて良かったな」
カイが見ていた紙には『ランク十、誘惑と協力して正体不明の暗殺を頼みたい』と書かれていた。
これはカイの別名で暗殺者ランク四位、殺しの冒険者と呼ばれるSランク冒険者に当てられた依頼書だった。
(そうか……、今度はランク十位が狙ってくるのか……。誘惑という名前を考えるとおそらく女性……か)
紙を燃やし捨ててしまうと何も気にした様子はなく、そのままカイはそのままベッドの上に寝転がった。
そして、呟いていた。
「いくら強者を殺ったところで、一般人が奪われる存在なことには変わらないんだよな……。何かを奪われるくらいならその前に奪うしかない……」
カイは自身の両親が殺された時のことを思い出して苦笑いする。
殺された理由は特にない。
ただ、そこにいて邪魔だったから……。
強者同士の戦いに一般人は路傍の石程度でしかない。
強者には一般人の姿は見えない。
しかも、そいつは一般人を殺したとしてもお咎めなし。
理由は彼らの方が強く、使い道があるから……。
(それならば俺はその隙をついて、奴らに一矢報いてやる)
そう決意して、カイは初めての暗殺を行い、両親の仇をとったのだった。
奴らはカイの姿を見ても一切警戒することはなかった。
ただ、酒場の中で高笑いして、存在にすら気づいていない様子だった。
だからカイは彼が酔いつぶれたタイミングを見計らって、彼の心臓にナイフを突き立てる。
すると、あれほど近寄りがたいと思っていた強者はあっさり命を落としていた。
このままだと捕まってしまうと思い、カイはその場を離れ、人混みの中に紛れてしまう。
これでもうカイが殺したということはわからなくなっていた。
木を隠すなら森の中。つまり、カイみたいな一般人を隠すなら同じような一般人の中……というわけだ。
カイ自身に特別な力は何もない。
ただし、そもそも強者から認知すらされないのなら彼らに一矢報いて平穏な生活を迎えられるかもしれない。
「なに、あのマーグがもう殺されただと!?」
冒険者ギルドの奥の部屋、ギルド長のバルテルが報告を受けて驚いていた。
その報告を持ってきたギルド職員の女性も動揺を隠しきれない様子だが、それでも淡々と報告を行っていた。
「はい、今朝早くに大通りで倒れているところを発見されました」
「う……そ……だろ? 確かに最近のやつの言動は許容範囲を超えていた。ただ、それでもこのギルドの最高戦力だぞ。それがこうも簡単にやられるなんて……」
「えぇ、ただ昨日はかなりお酒を飲まれていたようで……」
「それでもやつなら最低限の警戒は行っていたはずだ。以前も別の暗殺者に狙われたときは返り討ちにしていたからな。殺気には人一倍警戒心が高い。そうでなくてはSランク冒険者になんてなれない。それがこうもあっさりと……。さすがに放っておく訳にはいかないな」
「どうされるのですか?」
「もちろん、もう一人のSランクを使う」
バルテルが告げると女性が驚きの表情を見せる。
「あの一度もギルドに顔を見せたことのない方を使うのですか? 実在されていたのですね――」
「あぁ、表の仕事をマーグに、裏の仕事を彼に任せていたからな。裏の仕事故にその存在を気取らせる訳にもいかなかった。だからギルドでも私だけが唯一連絡を取り合える……」
「そのことを私に話していただいてもよろしいのですか?」
「もちろんだ、暗殺者ランク十位の誘惑くん」
バルテルがニヤリと微笑むと今まで話を聞いていた女性も同じように笑みで返していた。
そして、今まできっちりと着こなしていたギルドの服の胸元をはだけさせて、甘美な息をつく。
あらわになる豊満な胸。
女性特有の色香が漂ってくる。
また、それと同時に今まで結わいていた紫色の髪をほどくと腰くらいまで届くほど長く艶やかだった。
思わずバルテルですら息をのんでしまうほどの美人がそこにいた。
「やっぱり気づいていたのですね」
「あぁ、これでもギルドの長だからな。君ほどの実力者となると見ただけで力のある人間だとわかるよ」
「そんな相手と対面してもよろしいのですか?」
「変な動きを見せれば殺すつもりだったが、今回は利害が一致しているようだからな」
「えぇ、私もそろそろ暗殺者ランク一桁……、人外の領域に行きたいと思っていたのですよ。今回の件は殺しの手口から見て、おそらく第一位、正体不明の仕業と考えるべきでしょうから。そんなやつを殺ることができれば私が彼の代わりに一位になる……ということも考えられますから」
唇を舐める女性。
その一つ一つの仕草が男を手玉に取るためにわざとしている行動なのだろう。
「アンノウンか……。確かに彼の仕業ならその痕跡の一切を残していないだろうな。でも、今回の依頼は一体誰が――?」
「Sランク冒険者に恨みを持つ相手ならたくさん考えられますね。態度も横暴な方でしたし……」
「そうだな。どちらにしても今のままではダメだからな。俺もSランクの彼に話しておく」
「わかりました。私は暗殺者ランクにも顔を乗せるSランク冒険者の方のお手並みを拝見させていただきますね」
◇
マーグの暗殺を終えたカイは自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込む。
「さすがに一晩起きているのは疲れるな……。報酬の額も高いから受けたが、今後は考え物かもな」
そのまま眠りにつこうとすると窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
「今度はそっちか……」
窓を開けると小さな鳥が中へと入ってくる。
その足には一枚の紙が括り付けられていた。
その紙を取ると小鳥はそのまま羽ばたいていった。
ため息交じりに寝る前にその紙を開いてみる。
そこには新しい依頼が書かれていた。
それをみてカイは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、こんな依頼がくるよな。予防線をはっておいて良かったな」
カイが見ていた紙には『ランク十、誘惑と協力して正体不明の暗殺を頼みたい』と書かれていた。
これはカイの別名で暗殺者ランク四位、殺しの冒険者と呼ばれるSランク冒険者に当てられた依頼書だった。
(そうか……、今度はランク十位が狙ってくるのか……。誘惑という名前を考えるとおそらく女性……か)
紙を燃やし捨ててしまうと何も気にした様子はなく、そのままカイはそのままベッドの上に寝転がった。
そして、呟いていた。
「いくら強者を殺ったところで、一般人が奪われる存在なことには変わらないんだよな……。何かを奪われるくらいならその前に奪うしかない……」
カイは自身の両親が殺された時のことを思い出して苦笑いする。
殺された理由は特にない。
ただ、そこにいて邪魔だったから……。
強者同士の戦いに一般人は路傍の石程度でしかない。
強者には一般人の姿は見えない。
しかも、そいつは一般人を殺したとしてもお咎めなし。
理由は彼らの方が強く、使い道があるから……。
(それならば俺はその隙をついて、奴らに一矢報いてやる)
そう決意して、カイは初めての暗殺を行い、両親の仇をとったのだった。
奴らはカイの姿を見ても一切警戒することはなかった。
ただ、酒場の中で高笑いして、存在にすら気づいていない様子だった。
だからカイは彼が酔いつぶれたタイミングを見計らって、彼の心臓にナイフを突き立てる。
すると、あれほど近寄りがたいと思っていた強者はあっさり命を落としていた。
このままだと捕まってしまうと思い、カイはその場を離れ、人混みの中に紛れてしまう。
これでもうカイが殺したということはわからなくなっていた。
木を隠すなら森の中。つまり、カイみたいな一般人を隠すなら同じような一般人の中……というわけだ。
カイ自身に特別な力は何もない。
ただし、そもそも強者から認知すらされないのなら彼らに一矢報いて平穏な生活を迎えられるかもしれない。
1
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる