その男、モブにつき 〜警戒されない一般人は最高の暗殺者でした〜

空野進

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18.

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「チル、驚かせてしまって悪かったな……」
「いえ、それは大丈夫……ですけど、その人――」
「あぁ、俺たちを狙っていたみたいだからな。念のために殺らせてもらった」


 地面に転がっている兵士に一瞬視線を落とす。
 本音を言えばこのまま鎧とかを取ってしまいたいところだが、もし鎧等で個人を認証できるようなものがあれば困ることになる。

 結果的に何もしないでこのまま放置するのが一番だろうな。


「とりあえず今日は宿に戻るか……。少し騒ぎが起きるかもしれんからな」
「そうですね……」


 カイはそのまま兵士には目もくれずに宿へ向かって歩いていく。

 その際に周囲も警戒していたが、特に誰も怪しげな人物はいなかった。

(やはり、一般的な兵士クラスならこの程度か……)

 そして、あっさり宿へとたどり着く。


「それじゃあチルは先に休んでおいてくれ」
「カイさんはどうされるのですか?」
「少しだけこの辺りでも情報収集するだけだ。すぐに戻ってくる」
「わかりました。ではお気を付けてくださいね」
「あぁ……」


 チルにそれだけ伝えるとカイは部屋を出て行った。


 ◇
(暗殺者ギルド、アウストラメーグ王国支部)


 どう見ても普通の住宅にしか見えない路地裏の家。
 そこを入ったあと、階段で地下に降りていった先に暗殺者ギルドがあった。

 もちろん普段は職員の一人が普通に住んでいる住宅で、王国軍にも知られていない。
 そして、ひっそりと依頼をこなして報酬をもらうだけの場所でもあるので、いつもは閑散としている。

 しかし、今日だけは少しざわついていた。

 あくまでも支部でしかないこの場所に暗殺者ランクにも名を連ねている暗殺王暗殺者ギルド長がやってきていた。
 顔は仮面で隠し、その体つきも黒いローブで隠している。

 暗殺者という職業を考えると至って普通の格好だ。

 ただ、それでもギルド長の異様さを感じて、ギルドにいる誰もが思わず視線を彼に向けていた。


「……ここでは少し話しにくいな。奥の部屋を用意してもらえるか?」
「は、はい! い、今すぐに準備させていただきます……」


 声をかけられた職員は大慌てで奥の部屋へと入っていく。
 その準備が終わるまでギルド長は壁にもたれ掛かっていた。

 するとそんな彼に対してギルドにいた一人が恐れながらも声をかける。


「あ、あの……、貴方は本当にギルド長……?」


 体つきのいい男が腰を折って、なるべく言葉に失礼がないように声をかける。
 するとギルド長は一度だけ頷く。


「……あぁ、そうだが?」
「では……、貴方を倒せば暗殺者ランク五位の座は俺のものになるわけか」


(まぁ、暗殺者はこれくらい自意識が強くないといけないよな)

 ギルド長はニヤリと微笑んだ後、首元に鋭く尖ったものを当てていた。


「まだ力不足だな。その意気込みは買うが、実力をつけてから出直してくるんだな」
「……い、いつのまに――」


 ナイフを突きつけられた男は冷や汗を流しながら青い顔をしていた。


「暗殺者なら気配を悟られずに殺す手段を手に入れることだな」
「……わ、わかりました――」


 男はその場に崩れ落ちる。
 それからギルド長に声をかけようとする無謀な人はいなくなった。

 すると先ほどの受付が慌てて戻ってくる。
 そして、場の空気を見て不思議そうに問いかける。


「何かあったのですか?」
「いや、何もない。では、行かせてもらうよ」
「はい、支部長もお待ちしております」


 ギルド長は案内されて奥の部屋へと入っていく。
 するとそこには先にソファーに座っている男がいた。
 このギルドの支部長だ。
 彼は膝を組み、目を閉じてジッと何かの気配を探っている。


「ようこそお越しくださいました。暗殺王様」


 目を閉じたまま、支部長は声を出す。


「いや、用事があるから出向いたまでだ」
「それはお仕事についてですか?」
「あぁ……」
「かしこまりました。私どもでご準備できるものならなんでも――」
「助かるぞ」
「それより、うちの新人が暗殺王様にご迷惑をおかけしたみたいで本当に申し訳ありません」
「いや、あれくらい生きが良いやつがいないと仕事も大変だろうからな」
「全部暗殺王様が引き受けてくださったらありがたいのですけどね」
「いや、俺だけではとても手が足りん。だからこそ暗殺者ランクなるものも作ったのではないか」
「ただ、私はあのランクに納得はしていないんですよ。どうして暗殺王様が一位じゃないのですか?」


 支部長は怒りをあらわにする。
 それをギルド長はなだめていた。


「よいのだ。あのランクはあれで……。私は暗殺以外の仕事もあるからな。それに大変な仕事は上位ランクのものに必然的に集まっていく。だからこそ私も参加してあのランカーを決めたのだから――。しっかりと依頼をこなせるであろう人物を」
「そ、そこまで深いお考えを――。考えが至らずに申し訳ありません」
「いや、それでいいんだ。それより、必要な代物はこちらの紙に書いておいた。明日もらいに来てもいいか?」
「はっ、かしこまりました」


 支部長が深々と頭を下げてくる。
 それを見たギルド長はすぐに立ち上がり、部屋を去って行く。

 そして、彼が出ていった後に支部長は受け取った紙の中身を見ていた。


「白銀の鎧と兜、それと剣……ですか。これらの装備は王国軍、兵士の格好のはず……。もしかして、この王国の重要人物を狙われているのですか?」


 支部長が誰もいない中、ぽつりと呟いた――。
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