婚約破棄された星の娘に精霊王が恋をする

綺羅姫

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2章

精霊を探して①

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翌日。

シーナは目が覚めてから、ずっとシフのことを考えている。
昨日質問をして答えてくれたもので、シフは森に住んでいると言っていた。

私がハース領へ来る前もよく訪ねてきていたとそうなので、きっとこの屋敷からも近いのだろう。
雪は大丈夫なのだろうか。

街や屋敷までの道のりはシフの家からだときっと雪かきが大変だろうな、と想像しつつ、朝食をいただき私は日課となった読書を始めた。

「シーナ様、そこは寒くありませんか?」
「寒いけれど、ここにいたいの……!」

いつもは暖炉の側で、しかも違う部屋で読んでいる本を今日は窓辺に座って読んでいる。
紅茶を運んできてくれたリダが心配そうな顔で尋ねるが、私はにこりと笑い、答えた。

そうですか、と未だ納得していないような顔だったが、リタは特に反対することもなくそのまま部屋を出ていった。


「あ、でも、シーナ様。風邪を引くといけませんので、そこの毛布を肩から羽織っていて下さい!」
「えぇ、分かったわ!リタ」
「ちゃんと温かくしておいて下さいね!」

扉を閉めたリタが部屋を後にしたの見届けた私も本に目を戻したが、その後再び扉がガチャリと開き、リタが顔を覗かせてそう言った。
リタらしいな、と何だか笑いを溢してしまう。


私は、リタが仕事に戻った後、ベッドへ近付き上の毛布だけを剥ぎ取った。私が起きた後すぐにリタがベッドメイクをしてくれているので、ピシリとシワ一つなくのびていた毛布やシーツを崩してしまうのは少し申し訳なく思うが、私は取った毛布に全身をくるむと、また、窓辺に腰をかけた。


シフはいつ頃来てくれるだろうか。


ここにいれば、シフから私の姿が見えるだろうし、私からもシフの姿が見える。
少し寒かったけれど、毛布のお陰で今はもう温かい。






私は、そのままずっとシフを待った。

昼食や夕食、お風呂など移動しなくてはいけない時以外は部屋を離れなかったし、シフが来ていたら見逃していたとは思えない。

ずっと、ずっと……待って、結局その日、シフは現れなかった。



きっと用事が出来てしまったのだと。
私との約束をすっぽかそうとしてそうしたわけではないはずだと、自分を納得させながら眠りについた。

その次の日も同じようにシフを待つ。

1日、2日……。
1週間、2週間……。

私は、待ち続けた。

やはりシフに何かあったのかもしれない。
いくらなんでも、こんなに音沙汰がないだなんておかしい。

でも、シフは私に隠し事がある。
やっぱり、色々と聞いてしまったのがいけなかったのだとしたら、シフは2度と私の前に姿を現さないかもしれない。



それでも、会いたい気持ちは日に日に膨らんでいく。
どうしたらいいのか分からず、ただ部屋で待つだけなのはもうやめたい。

そう、思うのに……私は、行動出来なかった。
だんだん、窓辺で待つことが辛くなり、近づかなくなった。
でも、小さくても庭から何か音が聞こえたら、駆け寄ってしまう。

酷い矛盾だ。
こんな気持ちを抱えていることすらも、少しずつ苦しくなっていくようなある日。

「シーナ様……」
「……リオル、さん?」
「はい」

久しぶりにリオルさんと会ったような気がする。
シーナはぼんやりしながら、

「どうしたんですか?」
「シーナ様がここ数日、シフさんと言う方のことで悩んでいるのは分かります。ですが、そろそろ他のことも考えてみては?」
「他のこと、ですか……?」
「はい。街へ出てくださっても構いませんし、リタさんと菓子類を作ってみても良いでしょう。」
「他の、こと……」

確かに、シースグリースの街へはまた遊びに行きたい。
色々心配させてしまっただろうし、デットルさんとも話さないといけないだろう。
そして、リタと話していた料理もまだ実行していない。





でも……




「ごめんなさい。今は何もする気にならないの……」

シーナが申し訳なくそう言うと、リオルさんは何だか痛まし気な顔をした。

「リタさんも……いえ、皆がシーナ様のことを心配しています。そんなに思い詰めない方がいいのです。」
「思い詰めてなんか……」
「自覚がないのですか?……例えば、シーナ様は今日何をなさっていたか覚えてますか?」

違うと否定すると、リオルさんは溜め息を交えながら、シーナに質問を投げ掛けた。

簡単な質問だと、思った。

だが、私が今日何をしたか・・・・・・・・・、私は、そんな簡単なことが思い出せなかった。
頭の隅から隅まで探ってじっと考えてみても、靄がかかったように何も出てこない。


シーナは、はっと窓に目をやる。


外は……もう、真っ暗だった。
今は何時だろう。

早朝なのか、夜なのか。
シーナにはそれすらも分からなくなっていた。
時間の感覚がおかしくなっていた?

「シーナ様、貴女は今日1日だけではなく、ここ数日ずっと心ここに有らずというようなものでした。朝起きてもまるで目が覚めていないかのように自分から動くことはなく、食事も自分からは召し上がりませんでした。」
「……本当に?」
「はい、放って置けばずっと座りっぱなしでしたよ。」


私は、絶句した。
ようやく、頭の靄が晴れたような気分だ。

「今は、いつですか?」
「シーナ様が、ぼんやりとなさってからは1週間がたっていますよ。」

と言うことは、シフと最後にあってから3週間ほどだろうか。
そんなに経っているなんて……まさか、と言うしかない。

「一度、そのシフさんから離れて下さい。なんでもいいので、別のことを考えましょう。相手がいつ来るのか知っていれば、会えたかもしれませんが、知らないのでしょうし。」
「はい……」
「では、仕事に戻るので……」
「……はい。」

リオルさんも私を心配してそう言ってくれているのだ。
だから、リオルさんの言うことはその通りだとしか言えなくて、私はただ頷いた。

リオルさんが部屋を後にしても、私はしばらく呆然としていた。


3週間も経っている。
私が思い詰めている。

私はそれだけの長い時間いったい何を考えていたのだろうか。

……雪祭りから3週間?

シーナはばっと庭を見下ろす。
思った通りだ。




庭には、花を覆い、なお余るほどたくさんいる。
暗くても庭が輝いて見えた、私が、ハース領へ来た日と同じくらいに。そして、空を見上げ月も大分円形に近づいてきていることを確認する。
と言うことは、精霊界へ行く日が近い、つまり、シフがあの森の広場へ来る!

シーナは、ハース領に来た日から数えた。
次の満月は、明後日だ。




シーナは、またあの場所へ行ってみようと思った。




リオルさんには言われたけれど、私は今他のことなんて考えられないだろう。ここにいつ来るのか分からなくても、きっとその日はあの場所は来るだろう。


私は待つだけではなく行かなくてはいけない。


ただ、心配なのはリタのことだ。
話したら、付いて行くと言ってしまいそうだ。
置き手紙でも残しておけばみてくれるだろうか?

いや……寝静まった後にそっと出て行けばあるいは……。
どちらにせよ、結構は明後日の夜。




会いに行くんだ、シフに。




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