婚約破棄された星の娘に精霊王が恋をする

綺羅姫

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1章

シースグリースの街へ

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御者の方に馬車を止めて貰い、トランク2つ分の荷物を受け取ったリタはそれを木にかけ、お金を払う。

シーナはフードを被り、トランクの横に立ってリタを待っていたが、ふと思い立ち、リタが置いたトランクを1つ手に取ると、のんびりと歩き始める。
放っておくと絶対にリタが2つとも持ちますっ、て言うに決まっているのだから先に取ってしまえばいいのだ。

「待って下さい、シーナ様っ!それにその荷物、」
「だーめ!これは私が持つわ。」

リタを見て笑いながら、シーナは足を進める。
後ろを見ると、お金を計算している御者の方にリタは早く、早くと急かしているようだ。
なんだか可笑しくてシーナはより一層笑みを深めた。

地面を足の裏で踏みしめながら歩く感覚が楽しくて、歩きにくいヒールではなく、ブーツを選んでよかったと思う。
時折トランクを振り回してくるっと回って遊んだり、落ち葉を踏んでみたり、とても楽しい。

やっぱり歩いて良かった……。

だんだん寒くなっていくこの時期はまだ緑の葉と真っ赤な葉とが入り交じっている樹もあれば、葉が落ちてしまった樹もある。

けれど、地面には踏むとサクサクと音の鳴る落ち葉。
空を見ると雲1つない青。

うん……綺麗。



「し、シーナ様っ。追い、付きました!」

振り替えると、思った通り。
息を切らしたリタがトランクを片手に持って立っていた。

「ふふふ、ふふ。ここはやっぱりいいところよね!」
「ふふっ……全く、シーナ様は……楽しそうで何よりです……!」












町は、思っていたより遠く感じたけれど、リタと話ながら歩いたら早く着いた。


そこは、リタが言ったように、確かに可愛らしい町だった。

町の入り口、と言える場所に門番や門はなく淡いピンクと黄緑の布に『シースグリース』と刺繍されたものが板につけられていた。

それが街の名前だ。

建物は白い壁に赤、青、ピンクとカラフルな屋根が着いた二階建てが多く、幅はあまりとっていないため、ちんまりとした印象だ。
あ、王都と比べたらの話だが、ということだが。


表通りをゆっくりと歩く。

一日に三回朝昼晩になる鐘の内、きっとまだ2の鐘がなる時刻を過ぎた(2時)ぐらいだと思うので人があまりいないのも気にならない。ここが街と言われていても、村とあまり変わらない生活らしいので、今は、畑に出ているはずだ。

「シーナ様、すごくいい匂いがしませんか?」
「いい匂い?」
「はいっ!」

リタにそう言われて、匂いを嗅いでみると、これは……

「パンの匂い、ね!」
「そうなんです!小麦が焼ける香ばしい匂いですね~。そこのお家が焼いてるんでしょうか?」

二人で会話をしていると、

「そこはパン屋だよ。」

一人のお婆さんが、そう声をかけてくれた。

「看板は、出てないんですか?」
「ここは小さな街だからね、出さなくても皆分かるのさ。……お嬢ちゃん達は今日来たのかい?」
「はい!よろしくお願いします!」
「お願いします」
「あぁ、こちらこそ。この街はなーんもないけど、いいところだからね、どうぞゆっくりしていきなさいな。後、店の場所は人に聞くといいよ。」
「ありがとうございます!」

お婆さんはそう話すと笑いながら、パン屋に入って行った。
シーナはリタと微笑んだ。

「親切な方でしたね!」
「えぇ、上手くやっていけそうね!」

クスクスと笑いながら二人は歩みを再開する。
リタとシーナはまた、きょろきょろと視線を世話しなく動かしながら、これから住むことになる屋敷に向かった。








そこからほんの少し歩いたところ。




二人は屋敷についた。

町の建物から少し離れた丘の上にある一回り大きな家は綺麗な白い壁に青い屋根だ。胸元くらいの高さだが白い門があり……庭もある。

シーナは門の前で立ち止まりその綺麗な庭を見つめた。

「すごいですね。シーナ様っ!」
「……えぇ。」

こんな時期だと言うのに咲き誇る花々。
そして、その周りには、それを覆い尽くしてしまうほどの精霊がいた。

「ここには確かにお祖父様の代から仕えてくださっている、ナーバス家の方が手入れをしているのよね?」
「はい、そうです~。」

うっとりと庭を見つめているリタを一度見てシーナは庭に視線を戻した。綺麗、でも、驚きが勝っている。

何で、こんな時期にこれほどたくさんの花が?
精霊が集まっているのは、それによるものな気はする。
でも、この数は……?きっと、100や、200はくだらないほどいる。

その少し不思議な光景をリタと二人で眺めた。



「綺麗でしょう?」

小さく声をかけられ、はっ、と庭の奥に人がいたことに気づく。

 一番奥に見える、花壇の前にしゃがんでいた人がさっと立ち上がる。
飾り気のない白のブラウスの袖を捲り、手にはジョウロを持っていた。黒いズボンに、少し長めの金髪をゆったりと結わえている。
瞳の色は翠で、整った造形の格好いいお兄さんという風情の人だ。

まだ、20代後半くらいだろうか?

「……ナーバス、さんですか?」
「はい、そうです。」
「お庭!お庭、とっても素敵ですね!!」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです!」

もっと初老の人を想像していたので、二重の意味で驚きがプラスされたシーナはしばし固まった。
シーナの隣でリタが感動を表に弾んだ声で庭を誉めると、ナーバスさんはニコリと微笑み返した。

「お二人は、本日からここへお住まいになる子爵令嬢のシーナスティア様とリタさんですね?遠くの地からようこそいらっしゃいました。……私はハースカティナ家に仕えるナーバスの今代、リオルと申します。」

笑顔で、労いの言葉を述べ、自己紹介をしてくれたリオルさん。
静かに門へ歩み寄ると、閉じていた鍵を開けシーナとリタを敷地内に招き入れる。

「はい、お世話になります。どうぞよろしくお願いしますね。」
「お、お願いします!」
「では此方に……。」

リオルさんは花壇の縁にジョウロを置くと、シーナとリタの手から優しくトランクを取り上げた。

「あ、私が持っていきますので!」

リタが声をあげるが、

「いえ、これも私の仕事ですから。……それに女性に重いものを持たせるのは矜持に反します。」

リタが、頬を赤くする。
爽やかな笑みを浮かべたまま、案内をしてくれるリオルさんに二人は着いていく。

「いい人そうですね……」
「えぇ……そうね!」


赤い顔のまま、小声で言うリタに、シーナは同意する。





これは……リタに春が来たんだったら、嬉しいな






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