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1章
リタのお説教
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翌日。
「シーナ様、朝ですよ~。」
起きてくださいな、とリタが歌うように声をかけた。
カーテンが開かれ、明るく温かい日の光が差し込む。
シーナはその光の眩しさに開きかけていた瞼を細め、大きく欠伸をしながら体を起こした。
「おはよう、リタ……」
「おはようございます、シーナ様!今日はよく寝ておいででしたね!1の鐘が鳴り響いても起きていらっしゃらなかったですよ~」
「と言うことは……」
「はい、2の鐘が鳴るまではまだ少し時間がありますが、大分ゆっくりですね!……昨日は寝るのが遅かったので、起こさなかったのですが……」
ダメ、でしたか?とリタは続ける。
そんなことはない……そんなことはないのだけれど、少し寝すぎだろう。
こんな時間まで……。
寝坊……。
頭の中をその言葉が過る。
まさか、来て早々に寝坊するとは思っていなかった。
リタはにこにこしているが、シーナにとってはけっこうな失敗であった。
すぐに、ベッドから降りたシーナは、リタがトランクから取り出してくれた、空色のワンピースと、少し厚手の白いカーディガンを受け取り、着替え始める。
その間にリタは、朝食の準備をしてきてくれるそうだ。
時間的には、昼食でも可笑しくないのだから、もちろん、皆はもう食べ終わっている。
明日からはきちんと起きようと……起きたいと思った。
そして、顔を洗い、髪は軽く結った後、シーナは一度鏡の前で確認してから、部屋を出た。
向かった先は、昨日夕食をいただいた部屋だ。
8人くらいが広々と使える大きな木製のテーブルとそれにあった椅子が中央に置かれ、食事をするときに使う。
今、朝食を食べるのは私一人なので、部屋で食べてもいいのだけれど、流石に部屋まで持ってきてもらうのは申し訳ないので、その部屋に用意してもらった。
元々、食事のための部屋なので、調理場が近いのだ。
ガチャ、と扉を開く。
「あ、シーナ様!準備が出来たらお迎えに上がりましたのに~。」
「大丈夫よ。屋敷の中で部屋を間違えたりしないから。」
「え、もう覚えたんですか?!」
「えぇ、客室の細かい位置や、倉庫の方は分からないけど、大まかな部屋は昨日説明してもらったから……!」
「それだけで覚えられるなんて、相変わらずすごいですねぇ~。私なんてもう八回も迷ったのに……」
「え?今なんて……」
「なんでもないですよっ!!」
うん……八回は聞き間違いだろう。
いくらリタがドジをすることが多いといっても、そんなことは………ない……いや、……リタならやりそうだ。
「リタさん、手が止まっていますよ」
「はっ、ごめんなさい!」
リオルさんに注意されたリタは、慌ててテーブルを拭き始める。
「おはようございます、リオルさん!」
「おはようございます、シーナ様。」
シーナは、一番角の椅子に座りながら、リオルさんに笑顔で挨拶をした。
「では、今朝食をお持ちします。」
「あ、私も……」
「いえ、リタさんはここにいて下さい。ちょっと目を離した隙に迷子になるんですから。」
「……はぃ、すみません」
シーナは2人の様子をじーっと観察する。
見る限りでは、結構打ち解けたようで、リオルさんはリタのドジにも慣れて来たようで何よりだ。
リオルさんは、本当に仕事がスマートに出来る人の様なので、リタのことをカバーしてくれるだろう。
このまま、リタのことを貰ってくれないかな……。
「シーナ様……!!」
そんな私の視線に、リタは気づいたらしく、少し赤くなって軽く睨んできた。もちろん、全然怖くないけど。
シーナはリタに向かってにこり、と含みのある微笑みを向けた。
「どうしたんですか?」
「いえ、何でもないです!ちゃんと待ってます!いってらっしゃいです!はい」
捲し立てるようにそう言ったリタに、リオルさんは怪訝な顔をしながらも、部屋を出ていった。
リタは、ふぅっ、と一息つくと、
「で、昨日は何があったんですか?シーナ様」
シーナに詰め寄り、さっきとはまるで別人のように真剣な顔で聞いた。何だか迫力満点なその顔に、シーナは少し狼狽える。
一瞬で立場が入れ替わってしまった。
「リ、リタ?」
「無断で屋敷を飛び出して、長時間帰ってこなかったんですから
きちんと説明して下さい!!」
「……」
リタが私の隣の席に座り、椅子の向きを向かい合わせに変えると、逃がさないようにその手を掴まれた。
「私、すごく心配したんですよ?説明してくれますよね?シーナ様」
「えっと……説明、します……」
……どうやら、話す以外の選択肢はないようだ。
まぁ、元から話すつもりはあったのだけれど……。
リタには、まず、庭に少年がいたことから話し始めた。
そして、二人で森へ行き、満月を見たこと、その少年についてはシフという名前以外は何も知らないこと。
大まかな行動の流れだけを簡潔に伝えた。
精霊眼や精霊達が紫の瞳を持っていたことについては、については一切話さなかった。
その理由は至極単純。
ついでにその他に、話さなくてもいい事柄についても、ポロリと喋ってしまいそうだからだ。
キス、のことや、他にも色々、話している最中じゃなくても頭に過るのだ。この説明さえ乗りきれば、不自然に口走っても、本の話だなどと言えば誤魔化せるだろう。
そう思いながら、時々されるリタの質問に答えつつ話を進めていく。可笑しなところが後々ないように嘘は吐かず、話せないことは分からないで済ませた。
「なるほど……。つまり、シーナ様は庭にいた少年の良いものを
見せてあげるという言葉に素直についていき、森の中にあった広場のような場所で満月や星を見て、帰ってきたと、そういうことですね?」
「えぇ、そう言うことになるわね。」
何とか最後まで話すことが出来た。
「……分かりました。今回は、見知らぬ人に付いていったことに関してはお咎めなしにします……」
「はい……」
「でも、シーナ様、今後はきちんと私やナーバスの方々に誰と何処へ何しに行くのか言ってからでることと、あまり夜遅くには行かないで下さい!」
「はい!……もう、リタ達に心配はかけないわ」
「はぁ……本当に、約束ですよ?」
こうして、リタへの説明が全て終わった。
……かのように、思われたのだが、
「あ、シーナ様。大丈夫だと思うんですけど、何もなかったですよね?」
「え?」
最後の最後まで気を抜いてはいけなかったのだ。リタは変なところで悟いのだから。
「え、まさか……」
「何もない!何もなかったわ!!」
一瞬の隙が命取りになるのに、不覚にもすぐに答えられなかった私は、しばらくリタに問い詰められた。
「シーナ様、朝ですよ~。」
起きてくださいな、とリタが歌うように声をかけた。
カーテンが開かれ、明るく温かい日の光が差し込む。
シーナはその光の眩しさに開きかけていた瞼を細め、大きく欠伸をしながら体を起こした。
「おはよう、リタ……」
「おはようございます、シーナ様!今日はよく寝ておいででしたね!1の鐘が鳴り響いても起きていらっしゃらなかったですよ~」
「と言うことは……」
「はい、2の鐘が鳴るまではまだ少し時間がありますが、大分ゆっくりですね!……昨日は寝るのが遅かったので、起こさなかったのですが……」
ダメ、でしたか?とリタは続ける。
そんなことはない……そんなことはないのだけれど、少し寝すぎだろう。
こんな時間まで……。
寝坊……。
頭の中をその言葉が過る。
まさか、来て早々に寝坊するとは思っていなかった。
リタはにこにこしているが、シーナにとってはけっこうな失敗であった。
すぐに、ベッドから降りたシーナは、リタがトランクから取り出してくれた、空色のワンピースと、少し厚手の白いカーディガンを受け取り、着替え始める。
その間にリタは、朝食の準備をしてきてくれるそうだ。
時間的には、昼食でも可笑しくないのだから、もちろん、皆はもう食べ終わっている。
明日からはきちんと起きようと……起きたいと思った。
そして、顔を洗い、髪は軽く結った後、シーナは一度鏡の前で確認してから、部屋を出た。
向かった先は、昨日夕食をいただいた部屋だ。
8人くらいが広々と使える大きな木製のテーブルとそれにあった椅子が中央に置かれ、食事をするときに使う。
今、朝食を食べるのは私一人なので、部屋で食べてもいいのだけれど、流石に部屋まで持ってきてもらうのは申し訳ないので、その部屋に用意してもらった。
元々、食事のための部屋なので、調理場が近いのだ。
ガチャ、と扉を開く。
「あ、シーナ様!準備が出来たらお迎えに上がりましたのに~。」
「大丈夫よ。屋敷の中で部屋を間違えたりしないから。」
「え、もう覚えたんですか?!」
「えぇ、客室の細かい位置や、倉庫の方は分からないけど、大まかな部屋は昨日説明してもらったから……!」
「それだけで覚えられるなんて、相変わらずすごいですねぇ~。私なんてもう八回も迷ったのに……」
「え?今なんて……」
「なんでもないですよっ!!」
うん……八回は聞き間違いだろう。
いくらリタがドジをすることが多いといっても、そんなことは………ない……いや、……リタならやりそうだ。
「リタさん、手が止まっていますよ」
「はっ、ごめんなさい!」
リオルさんに注意されたリタは、慌ててテーブルを拭き始める。
「おはようございます、リオルさん!」
「おはようございます、シーナ様。」
シーナは、一番角の椅子に座りながら、リオルさんに笑顔で挨拶をした。
「では、今朝食をお持ちします。」
「あ、私も……」
「いえ、リタさんはここにいて下さい。ちょっと目を離した隙に迷子になるんですから。」
「……はぃ、すみません」
シーナは2人の様子をじーっと観察する。
見る限りでは、結構打ち解けたようで、リオルさんはリタのドジにも慣れて来たようで何よりだ。
リオルさんは、本当に仕事がスマートに出来る人の様なので、リタのことをカバーしてくれるだろう。
このまま、リタのことを貰ってくれないかな……。
「シーナ様……!!」
そんな私の視線に、リタは気づいたらしく、少し赤くなって軽く睨んできた。もちろん、全然怖くないけど。
シーナはリタに向かってにこり、と含みのある微笑みを向けた。
「どうしたんですか?」
「いえ、何でもないです!ちゃんと待ってます!いってらっしゃいです!はい」
捲し立てるようにそう言ったリタに、リオルさんは怪訝な顔をしながらも、部屋を出ていった。
リタは、ふぅっ、と一息つくと、
「で、昨日は何があったんですか?シーナ様」
シーナに詰め寄り、さっきとはまるで別人のように真剣な顔で聞いた。何だか迫力満点なその顔に、シーナは少し狼狽える。
一瞬で立場が入れ替わってしまった。
「リ、リタ?」
「無断で屋敷を飛び出して、長時間帰ってこなかったんですから
きちんと説明して下さい!!」
「……」
リタが私の隣の席に座り、椅子の向きを向かい合わせに変えると、逃がさないようにその手を掴まれた。
「私、すごく心配したんですよ?説明してくれますよね?シーナ様」
「えっと……説明、します……」
……どうやら、話す以外の選択肢はないようだ。
まぁ、元から話すつもりはあったのだけれど……。
リタには、まず、庭に少年がいたことから話し始めた。
そして、二人で森へ行き、満月を見たこと、その少年についてはシフという名前以外は何も知らないこと。
大まかな行動の流れだけを簡潔に伝えた。
精霊眼や精霊達が紫の瞳を持っていたことについては、については一切話さなかった。
その理由は至極単純。
ついでにその他に、話さなくてもいい事柄についても、ポロリと喋ってしまいそうだからだ。
キス、のことや、他にも色々、話している最中じゃなくても頭に過るのだ。この説明さえ乗りきれば、不自然に口走っても、本の話だなどと言えば誤魔化せるだろう。
そう思いながら、時々されるリタの質問に答えつつ話を進めていく。可笑しなところが後々ないように嘘は吐かず、話せないことは分からないで済ませた。
「なるほど……。つまり、シーナ様は庭にいた少年の良いものを
見せてあげるという言葉に素直についていき、森の中にあった広場のような場所で満月や星を見て、帰ってきたと、そういうことですね?」
「えぇ、そう言うことになるわね。」
何とか最後まで話すことが出来た。
「……分かりました。今回は、見知らぬ人に付いていったことに関してはお咎めなしにします……」
「はい……」
「でも、シーナ様、今後はきちんと私やナーバスの方々に誰と何処へ何しに行くのか言ってからでることと、あまり夜遅くには行かないで下さい!」
「はい!……もう、リタ達に心配はかけないわ」
「はぁ……本当に、約束ですよ?」
こうして、リタへの説明が全て終わった。
……かのように、思われたのだが、
「あ、シーナ様。大丈夫だと思うんですけど、何もなかったですよね?」
「え?」
最後の最後まで気を抜いてはいけなかったのだ。リタは変なところで悟いのだから。
「え、まさか……」
「何もない!何もなかったわ!!」
一瞬の隙が命取りになるのに、不覚にもすぐに答えられなかった私は、しばらくリタに問い詰められた。
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