死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ

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18. はじめての

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 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 セラフィーナは自身の手の中にあるものを見つめながら、そう思わずにはいられなかった。

 きっかけは、いつの間にか自身の頭から落ちてしまっていた花冠を拾い上げたことだった。
 アルバートによって作られたそれは、本当によくできているものだ、とセラフィーナは自身の頭にそれを戻すことなく、さまざまな角度からまじまじとそれを見つめた。
 それが、よくなかったのかもしれない、とセラフィーナは今ならそう思うけれどそれも後の祭りである。

「作り方、気になる?教えてあげるね」

 にっこりと笑ってそう言うアルバートに、セラフィーナは異を唱えることはできなくて、気づけばアルバートの手ほどきを受けながら花冠を作ることになってしまっていた。
 セラフィーナとて、全く興味がなかったわけではない。
 勉強に関係ないにもかかわらず、花冠の作り方や、かくれんぼの遊び方等を知識として知っていたのは、幼い頃から興味があったからこそである。
 しかし、アルバートに教わりながらやってみたところで、一人で作った時と変わらず、花冠の形にはならないままに花がぱらぱらと落ちていくだけだった。
 セラフィーナはやはり自分には向いていないようだと思うと同時に、安易に手を出してしまったことを非常に後悔していた。

「大丈夫だよ、セフィ。僕も、最初から上手くできたわけじゃないから。さ、もう一回やってみよう?」

 やはりにっこりと笑ってそう言うアルバートに、なぜか有無を言わせぬ迫力を感じ、セラフィーナはもう止めたいと思いつつも頷くことしかできなかった。
 何度やっても結果は同じなのではないか、そんな不安を拭いきれないまま、セラフィーナは何度も失敗を繰り返していた。

「ここは、こうするんだよ、セフィ。そうそう、大丈夫、さっきよりも上手くなってるよ」

 もう諦めよう、セラフィーナがそう思うたび、アルバートから手が差し伸べられ、励ましの声がかかる。
 そんなやり取りを何度となく繰り返したことで、ようやく不格好ながらも、花冠の形をしたものがセラフィーナの手の中で出来上がった。
 アルバートが作ってくれたものと並べると、さらに形が歪んで見える。

(わたくしには、向いていないみたいだわ)

 セラフィーナはようやく完成したという喜びよりも、深いため息に包まれた。
 それでも、これでようやく花冠を作ることから解放される、そう考えればいいことのようにも思えた。

「ねぇ、セフィ、それ、僕にちょうだい?」

 なんてことを、アルバートが言いさえしなければ。

「は……?」

 我ながら随分と間抜けな声だ、とセラフィーナはどこか他人のことのように思った。
 こんな出来の悪い物を、よりにもよってアルバートに渡せるはずなどない。
 セラフィーナはそうして、自身の手の中にある不格好な花冠を見て、困り果てていたのだ。



「あの、これは、その……、あまり上手くできなかったので……」
「大丈夫、はじめてにしては上出来だよ」

 セラフィーナは、やんわりと断ろうとしてみてが、上手くはいかなかった。
 そもそも、王太子であり、すでに成人を済ませたアルバートにはどう考えたって不要なものとしか思えないというのに。

「それ、セフィにとって、そんなに大事?」
「いえ、決して……」

 当然のように否定して、セラフィーナは激しく後悔した。
 大事だから渡したくない、ということもできたのではないか、と思ったからだ。

(でも、こんな出来損ないの花冠が大事で、手放したくないと思っているだなんて、嘘でも思われたくないわ……)

 ましてや、中身はしっかり一度成人済みなのだと知られたアルバート相手ならば、尚更である。

「大事じゃないなら、貰ってもいいでしょ?」
「こ、こんなものを貰っても、使い道なんてないではありませんか」
「ただ、欲しいだけなんだ。セフィがはじめて作った花冠だから」
「すぐに、枯れてしまいますよ」
「それでも、いいんだ」

 たくさん、たくさん勉強してきたはずなのに、こういう時の上手い断り方が、セラフィーナにはわからなかった。
 だって、なぜこんなものが欲しいのか、その気持ちすら理解ができなかったから。

「どうしても、だめ、かな?」

 困っているのは、上手く断れないセラフィーナのはずだったのに。
 そうして問われると、なぜだか渡そうとしないセラフィーナがいじわるでもしてしまったかのような気分になるのが、セラフィーナは不思議だった。
 渡したくないはずなのに、渡してしまいそうになっている。

「殿下がお作りになった物の方が、ずっときれいですよ?」
「うん」
「すぐに、壊れてしまうかも、しれませんし……」
「壊さないように、気をつけるよ」
「何度もやり直したせいで、花もあまり元気がないですし」
「大丈夫だよ」

 ああ、もう、何を言ってもだめだ、とセラフィーナは思った。
 なんだか勝負に負けたような気分になりながら、セラフィーナは手に持っていた花冠を差し出した。

(どうして、そんなに嬉しそうに笑うの……)

 たかだか、花冠だ。
 それも、出来損ないで、形の悪い、今にも壊れてしまいそうな。
 それなのに、もっと高価なものをたくさん手にできるはずのアルバートが、見たことないほど嬉しそうに笑っているのが、セラフィーナには理解できなかった。

「そんなに気になる?この形」

 セラフィーナがずっとアルバートを見つめているのを、アルバートは未だにいびつな形にできあがった花冠を気にしてのことだと思ったようである。

「大丈夫、僕だってはじめてはこんなもんだったよ。練習すれば、もっと上手くなるさ」
「練習なんて……」

 花冠を綺麗に作るために、わざわざ練習するというのが、セラフィーナには理解できないことだった。
 そもそも、もう一度作る機会があると、思っていなかった。
 花冠が上手く作れることがセラフィーナの将来に役立つとも思えなかったし、他にすべきことが山ほどあるはずだとしか思えなかった。

「そんなこと、する必要ない?」
「はい」
「なんで?」
「他にすべきことが……」
「花冠を作る練習をやめて、セフィは代わりに何したいの?」
「その……勉強、とか……」

 今は勉強量が格段に減ったが、やはりいつまでもこのままでいいとはセラフィーナは思えなかった。
 やはり、今後は昔ほどでなくとも、少しずつ増やすべきだろうと思っている。
 でなければ、将来、セラフィーナは王家の役に立つことができないかもしれないから。

「勉強ね。そんなの、1度目の人生で嫌というほどやっただろ。その記憶が残っているんだから、今回は多少手を抜いたって、何の問題もないよ」
「ですが……」
「そんなことより、できなかったことをやる方が、いいと思わない?」
「そう、かも、しれませんが……その……っ」
「あ、花冠を作ることには興味ない?じゃあ、他のやりたいことにしよっか」
「いえ、決して、そういうわけでは……っ」

 そこまで言って、セラフィーナはハッとした。
 これでは、まるで本当は上手く作りたいと言ってしまっているようなものだと思って。
 当然アルバートにはしっかりとそのように伝わっていて、アルバートはくすくすと笑っている。

「じゃあ、練習しよう?上手くできるまで、付き合うから」

 セラフィーナはいたたまれなさを感じながらも、頷くことしかできなかった。

「他にも教えて、君がやりたくてできなかったこと。全部、一緒にやりたいから」

 やりたかったけれど、勉強を優先させるために諦めたこと、セラフィーナにはたくさんあった。

(いいのかしら……)

 やりたいことは、次から次へと思い浮かぶ。
 たくさんあるから、全部は無理かもしれない。
 それでも、許されるなら少しだけでも、そんな気持ちが沸き上がるのをセラフィーナは止められなかった。

「それで、今度は仲のいい婚約者になれたら嬉しい」

 セラフィーナは、仲がいい必要はないと思っていた。
 婚約者といっても、自分は王家に全てを捧げる臣下でしかないと思っていたから。
 けれど、今は、少しそんな自身の考えにも、変化を感じる。

(わたくしも、そうなれたら、嬉しいかもしれない)

 アルバートの笑みを見ていると、不思議とそう思えたのだ。
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