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19. やりたいこと
しおりを挟むともにかつての記憶があるとわかってから、二人の中で暗黙的なルールとなったことがある。
それは、セラフィーナとアルバートが同い年として生きていた頃を1回目、もしくは前回と呼ぶこと。
対して、10歳の年齢差ができた現状を、2回目、もしくは今回と呼ぶことだ。
当初は死ぬ前は、なんて表現もしていたのだが、さすがに第三者に聞かれてしまうとおかしすぎる。
かつて、以前、昔、なんてぼかすような言い方もあったけれど、6歳のセラフィーナにそれほど昔があるわけでもない。
そんなこんなで、話し合ったわけではないが、なんとなく二人ともこの表現が落ち着くようになったのである。
「わぁ、セフィ、すっかり上手になったね」
さすがに王太子たるもの、それほど毎日暇ではない、というかむしろ何かと忙しいものである。
だから毎日セラフィーナの練習に付き合う、ということはできなかったものの、アルバートはできる限りセラフィーナに時間を割いてくれた。
セラフィーナ自身も、一人の時でも、気づけば必死に練習を重ねていて、ようやくアルバートが作ったそれにも劣らない、きれいな花冠が出来上がったのである。
(向いていないって思っていたけれど、なんとかなるものだわ……)
とても自分の手で作ったとは信じられない出来栄えに、セラフィーナは今まで感じたことのないような達成感に包まれていた。
「よし、花冠はこれで完了、かな。さて、次は何やってみたい?」
「え?えーっと……」
セラフィーナには、すでに前々から花冠を上手く作れたら、次にやってみたいことは浮かんでいる。
ただ、子どもっぽいと笑われてしまわないか心配で、いざとなるとなかなか口にできなかった。
「やりたいこと、ないわけじゃないでしょ?」
問われてセラフィーナは頷いた。
ないどころか、自分でもびっくりするほどたくさんある。
「わ、笑いませんか……?」
「うん。もちろん。だから、教えて?」
「子どもっぽい、かもしれませんよ……?」
「いいじゃん、だって今、セフィ子どもなんだし」
言われてみれば、そうだ、とセラフィーナは思う。
中身は立派な大人のつもりであっても、見た目は誰がみたってただの子ども。
それなら、多少子どもっぽいと笑われてしまってもいいのかもしれない、そう考えるとやりたいことを、全部言えそうな気がした。
「まずは、チェスや、トランプをやってみたいです。知識としてルールは知ってるんですが、実際にやる機会はなかったので……」
「いいね。僕はチェスはたまに父上とやってるんだけど、トランプは最後にやったの結構前かな。せっかくだから、トランプは他にも誰か付き合ってもらおう」
きっと、またかくれんぼの時のように誰か招集されてしまうのだろう。
申し訳なく思う気持ちもあったけれど、今のセラフィーナは楽しみの方がずっと大きかった。
「あ、また、お願いできるなら、その……かくれんぼも、やりたいです。今度はもう少し上手く隠れたいし、鬼もやってみたくて……」
「いいけど、もう木の上とか、危ないところに隠れちゃだめだよ?」
「は、はい、気をつけます」
「よし。じゃあ、かくれんぼも、練習かな」
かくれんぼを練習した子ども、なんて聞いたことがない。
絶対おかしいと思うのに、セラフィーナはやっぱり楽しみだった。
「それから、お人形遊びもしてみたいです。お人形を着せ替えたり、ドールハウスを飾ったり」
「うんうん、いいね」
今のセラフィーナなら、お人形を抱えた姿はきっとよく似合うし、かわいいだろうとアルバートは思った。
(セフィに似合う、かわいいお人形、探さないといけないな)
アルバートは脳内で、やるべきことをあれこれ考えていた。
「それから、街に出かけてショッピングをしたり、流行りのカフェで……」
「す、ストップ!!ちょ、ちょっと待ってもらっていい?」
「あ……も、申し訳ありません、多すぎました、よね」
最初はセラフィーナも、とりあえず次にやりたいことと、その次くらいの1、2個程度に留めるつもりだった。
そして、それを無事やり遂げたら、また次を言えばいい、そう思っていたはずだったのである。
だが、やりたいことを口にしているうちに、次から次へと溢れてきてしまった。
その結果、アルバートを困らせてしまったみたいだ、とセラフィーナは酷く落ち込んだ。
「あ、違うんだ。全部教えて欲しいって、思ってるんだけど、さすがに忘れちゃいそうで……メモできるもの、取ってきてもいいかな?」
花冠を作るために来た花畑に、筆記具なんて持ち込んでいるはずもなく。
せっかくセラフィーナがこうして話してくれたのだから、1つたりとも忘れたくはないが、さすがに数が多いと脳内に記憶するだけではあまりにも心もとなさすぎた。
それに、聞いた上で考えた自身のやるべきことも、できるなら忘れないうちにメモしておきたい。
(次からは、常に手帳を持ち歩こう)
いつ、どこで、またこうしてセラフィーナがやりたいことを話してくれるかわからない。
その時、またこうしてとめてしまうことで、せっかく楽しそうだったセラフィーナの表情を曇らせることは、もうないようにしたいとアルバートは思った。
「すぐ、すぐ戻るから、ちょっとだけ待ってて!」
アルバートは、セラフィーナの了承を得るのも惜しいというように、すごい勢いで駆け出してしまい、セラフィーナは呆然とアルバートが向かった方角を眺めていた。
「待たせて、ごめんね」
汗だくでぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しているアルバートは、正直セラフィーナの予想より数倍早く戻ってきた。
(そんなに、急がなくてもよかったのに)
待たされた、という感覚すら、セラフィーナにはないくらいだ。
距離を考えてみても、かなり急いでくれたのだということはよくわかった。
「先に、さっき言ってくれたもの、メモらせてね」
アルバートはそう言うと、再びセラフィーナの隣に腰掛けて、手帳を開く。
「えーっと、チェスに、トランプ、それから、かくれんぼを練習して、お人形遊びは、着せ替えと、それからドールハウスもだったよね」
アルバートは思い起こしながら、さらさらとペンを走らせる。
口には出さないが、あわせて自身が考えたやるべきことも、しっかり隣に記載していく。
「で、街でショッピングと、あとカフェも、だっけ?」
あれほど勢いよく話したのに、よく覚えてくれている、とセラフィーナは驚いた。
1つくらい欠けていたって仕方がない、また機会があった時に言えばいい、セラフィーナはそう思っていたのに。
「ショッピングは、何見たいの?やっぱり、ドレスとかかな?」
「いえ、小物とか、かわいいものがたくさん売っているお店があるって、1回目の時、聞いたことがあって……」
「へぇ、どこだろう……」
きっと貴族令嬢の間で話題になったお店があったのだろう、とアルバートは思う。
いくつかありそうな気もするから、街を一通り見て歩くのも悪くないかもしれない、アルバートはそう考えながらペンを走らせる。
(いろいろ見てるうちに、他にも気になるもの、出てくるかもしれないしな)
セラフィーナと街に出かけるなんて、一度もなかったことである。
あれこれ考えているうちに、セラフィーナのためであるはずが、アルバートの方がずっと楽しみになっているような気がした。
「カフェも、1回目の時に聞いたの?流行りのカフェがあるって?」
「はい。そこのいちごタルトが絶品だそうで……」
大好きないちごだからか、セラフィーナは目を輝かせている。
きっと貴族令嬢の間で流行っていたカフェなのだろう。
それほど人気なら、きっと今回も人気があるだろうとは思ったが、男性であるからかアルバートは、そんな話を聞いたことがなかった。
「お店の名前とかはわかる?」
「すみません、そこまでは……」
「そっか」
アルバートはカフェの隣にいちごタルト、と記載しながら考えを巡らせる。
(誰に聞いたらわかるだろう……)
大好きないちごのお菓子、絶対に食べさせてあげたいと思う。
いちごを食べる時のセラフィーナは、いつも頬をぱんぱんにして幸せそうに笑うから。
流行りに敏感な貴族令嬢か、婚約者が居てよく一緒に出掛けているような貴族令息か、アルバートは詳しそうな人間を思い浮かべてはペンを走らせた。
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