死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ

文字の大きさ
19 / 23

19. やりたいこと

しおりを挟む
 
 ともにかつての記憶があるとわかってから、二人の中で暗黙的なルールとなったことがある。
 それは、セラフィーナとアルバートが同い年として生きていた頃を1回目、もしくは前回と呼ぶこと。
 対して、10歳の年齢差ができた現状を、2回目、もしくは今回と呼ぶことだ。

 当初は死ぬ前は、なんて表現もしていたのだが、さすがに第三者に聞かれてしまうとおかしすぎる。
 かつて、以前、昔、なんてぼかすような言い方もあったけれど、6歳のセラフィーナにそれほど昔があるわけでもない。
 そんなこんなで、話し合ったわけではないが、なんとなく二人ともこの表現が落ち着くようになったのである。



「わぁ、セフィ、すっかり上手になったね」

 さすがに王太子たるもの、それほど毎日暇ではない、というかむしろ何かと忙しいものである。
 だから毎日セラフィーナの練習に付き合う、ということはできなかったものの、アルバートはできる限りセラフィーナに時間を割いてくれた。
 セラフィーナ自身も、一人の時でも、気づけば必死に練習を重ねていて、ようやくアルバートが作ったそれにも劣らない、きれいな花冠が出来上がったのである。

(向いていないって思っていたけれど、なんとかなるものだわ……)

 とても自分の手で作ったとは信じられない出来栄えに、セラフィーナは今まで感じたことのないような達成感に包まれていた。

「よし、花冠はこれで完了、かな。さて、次は何やってみたい?」
「え?えーっと……」

 セラフィーナには、すでに前々から花冠を上手く作れたら、次にやってみたいことは浮かんでいる。
 ただ、子どもっぽいと笑われてしまわないか心配で、いざとなるとなかなか口にできなかった。

「やりたいこと、ないわけじゃないでしょ?」

 問われてセラフィーナは頷いた。
 ないどころか、自分でもびっくりするほどたくさんある。

「わ、笑いませんか……?」
「うん。もちろん。だから、教えて?」
「子どもっぽい、かもしれませんよ……?」
「いいじゃん、だって今、セフィ子どもなんだし」

 言われてみれば、そうだ、とセラフィーナは思う。
 中身は立派な大人のつもりであっても、見た目は誰がみたってただの子ども。
 それなら、多少子どもっぽいと笑われてしまってもいいのかもしれない、そう考えるとやりたいことを、全部言えそうな気がした。

「まずは、チェスや、トランプをやってみたいです。知識としてルールは知ってるんですが、実際にやる機会はなかったので……」
「いいね。僕はチェスはたまに父上とやってるんだけど、トランプは最後にやったの結構前かな。せっかくだから、トランプは他にも誰か付き合ってもらおう」

 きっと、またかくれんぼの時のように誰か招集されてしまうのだろう。
 申し訳なく思う気持ちもあったけれど、今のセラフィーナは楽しみの方がずっと大きかった。

「あ、また、お願いできるなら、その……かくれんぼも、やりたいです。今度はもう少し上手く隠れたいし、鬼もやってみたくて……」
「いいけど、もう木の上とか、危ないところに隠れちゃだめだよ?」
「は、はい、気をつけます」
「よし。じゃあ、かくれんぼも、練習かな」

 かくれんぼを練習した子ども、なんて聞いたことがない。
 絶対おかしいと思うのに、セラフィーナはやっぱり楽しみだった。

「それから、お人形遊びもしてみたいです。お人形を着せ替えたり、ドールハウスを飾ったり」
「うんうん、いいね」

 今のセラフィーナなら、お人形を抱えた姿はきっとよく似合うし、かわいいだろうとアルバートは思った。

(セフィに似合う、かわいいお人形、探さないといけないな)

 アルバートは脳内で、やるべきことをあれこれ考えていた。

「それから、街に出かけてショッピングをしたり、流行りのカフェで……」
「す、ストップ!!ちょ、ちょっと待ってもらっていい?」
「あ……も、申し訳ありません、多すぎました、よね」

 最初はセラフィーナも、とりあえず次にやりたいことと、その次くらいの1、2個程度に留めるつもりだった。
 そして、それを無事やり遂げたら、また次を言えばいい、そう思っていたはずだったのである。
 だが、やりたいことを口にしているうちに、次から次へと溢れてきてしまった。
 その結果、アルバートを困らせてしまったみたいだ、とセラフィーナは酷く落ち込んだ。

「あ、違うんだ。全部教えて欲しいって、思ってるんだけど、さすがに忘れちゃいそうで……メモできるもの、取ってきてもいいかな?」

 花冠を作るために来た花畑に、筆記具なんて持ち込んでいるはずもなく。
 せっかくセラフィーナがこうして話してくれたのだから、1つたりとも忘れたくはないが、さすがに数が多いと脳内に記憶するだけではあまりにも心もとなさすぎた。
 それに、聞いた上で考えた自身のやるべきことも、できるなら忘れないうちにメモしておきたい。

(次からは、常に手帳を持ち歩こう)

 いつ、どこで、またこうしてセラフィーナがやりたいことを話してくれるかわからない。
 その時、またこうしてとめてしまうことで、せっかく楽しそうだったセラフィーナの表情を曇らせることは、もうないようにしたいとアルバートは思った。

「すぐ、すぐ戻るから、ちょっとだけ待ってて!」

 アルバートは、セラフィーナの了承を得るのも惜しいというように、すごい勢いで駆け出してしまい、セラフィーナは呆然とアルバートが向かった方角を眺めていた。



「待たせて、ごめんね」

 汗だくでぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しているアルバートは、正直セラフィーナの予想より数倍早く戻ってきた。

(そんなに、急がなくてもよかったのに)

 待たされた、という感覚すら、セラフィーナにはないくらいだ。
 距離を考えてみても、かなり急いでくれたのだということはよくわかった。

「先に、さっき言ってくれたもの、メモらせてね」

 アルバートはそう言うと、再びセラフィーナの隣に腰掛けて、手帳を開く。

「えーっと、チェスに、トランプ、それから、かくれんぼを練習して、お人形遊びは、着せ替えと、それからドールハウスもだったよね」

 アルバートは思い起こしながら、さらさらとペンを走らせる。
 口には出さないが、あわせて自身が考えたやるべきことも、しっかり隣に記載していく。

「で、街でショッピングと、あとカフェも、だっけ?」

 あれほど勢いよく話したのに、よく覚えてくれている、とセラフィーナは驚いた。
 1つくらい欠けていたって仕方がない、また機会があった時に言えばいい、セラフィーナはそう思っていたのに。

「ショッピングは、何見たいの?やっぱり、ドレスとかかな?」
「いえ、小物とか、かわいいものがたくさん売っているお店があるって、1回目の時、聞いたことがあって……」
「へぇ、どこだろう……」

 きっと貴族令嬢の間で話題になったお店があったのだろう、とアルバートは思う。
 いくつかありそうな気もするから、街を一通り見て歩くのも悪くないかもしれない、アルバートはそう考えながらペンを走らせる。

(いろいろ見てるうちに、他にも気になるもの、出てくるかもしれないしな)

 セラフィーナと街に出かけるなんて、一度もなかったことである。
 あれこれ考えているうちに、セラフィーナのためであるはずが、アルバートの方がずっと楽しみになっているような気がした。

「カフェも、1回目の時に聞いたの?流行りのカフェがあるって?」
「はい。そこのいちごタルトが絶品だそうで……」

 大好きないちごだからか、セラフィーナは目を輝かせている。
 きっと貴族令嬢の間で流行っていたカフェなのだろう。
 それほど人気なら、きっと今回も人気があるだろうとは思ったが、男性であるからかアルバートは、そんな話を聞いたことがなかった。

「お店の名前とかはわかる?」
「すみません、そこまでは……」
「そっか」

 アルバートはカフェの隣にいちごタルト、と記載しながら考えを巡らせる。

(誰に聞いたらわかるだろう……)

 大好きないちごのお菓子、絶対に食べさせてあげたいと思う。
 いちごを食べる時のセラフィーナは、いつも頬をぱんぱんにして幸せそうに笑うから。
 流行りに敏感な貴族令嬢か、婚約者が居てよく一緒に出掛けているような貴族令息か、アルバートは詳しそうな人間を思い浮かべてはペンを走らせた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...