31 / 57
3 騒がしく始まり、静かに終わる
ひらめき
しおりを挟む
結局、苦も無くボス部屋前に到着した。
あの後、地上型の敵として半魚人が2回現れたが、水分たっぷりの人型モンスターなど敵ではないので一瞬で終わった。
死骸は気持ち悪かった。
「さすがに疲れた……」
『気の休まる場がなかったものね』
やはり、足元の不安定さが一番の問題だった。
道中で一番苦労したのは魚が2匹出てきた時だ。
半魚人と魚はそれほどではなかった。先に半魚人を無視して魚に集中すればよかったからだ。
なお、3体以上の同時襲撃が無かったことから、やはりこのダンジョンは環境にリソースを使いすぎ、という結論になりそうだ。
時間は午前4時だったので、思ったより道中に時間はかかっていない。
このまま行こうということで、僕は携帯ブロック食と水で休憩し、トイレを済ませてボス部屋に入る。
「和風か……」
『和風ね……』
和風、水辺、モンスター。
と来たら当然のごとく河童だった。
『素手、遠距離攻撃の可能性』
「了解」
だが、まずは先手だ。
マイクロウェーブを二連発、まずは狙いやすい胴体に撃つ。
手足は細くて狙えそうになかったからだ。
「ゲフッ」
ダメージはあったようで、腹を抑えている。
が、それだけでは倒せていない。
スキルの連発は練習しているが、なかなか回数が伸びない。
連発しようとして何とも言えない悪寒を感じることがあり、そうなるともう無理だ。ちょっと時間を開ける必要がある。
今は……まだいける!
「マイクロウェーブ……マイクロウェーブ!」
なんとなくだが、スキル名を発音しないと持たないという直感があった。
そうして考えると、やはりスキル名を言わない(無詠唱?)のは効率が悪いのだろう。
多くのメリットがあるのだからデメリットもあっておかしくない。
敵はそのまま前に倒れる。
幽霊状態のエリスが慌てて近寄っていくことを考えると、倒せたのだろう。
今回はイレギュラーが無くて良かった。
しばらくするとボスが光に包まれて、そして……あれ?
「今回は変身しないの?」
『だって河童って裸なのよ。それともカナメは私の裸、見たい?』
「そ、そんなの別に見たくないよ……大体、河童の裸なんて人間と全然違うじゃないか」
『似た感じにもできるわよ、どうする?』
「どうもしないで結構です!」
正直、家に天狗姿でいるときだってちょっと気を遣うのだ。
せめて天狗面の下を見ていなかったら違うかもしれないが、同年代ぐらいの女の子が家で近くにいるというのは、手を出そうとか、そういう気持ち抜きにしても落ち着かない。
『ふーん、やっぱり……』「……こっちの姿の方がいい?」
言葉の途中で、エリスが急にいつもの天狗少女姿に変わる。
「そういうのはいいから、一度休みたいんで構造変えてもらえる?」
「ソファでいい?」
「うん、あと小さいのでいいからテーブルも」
「はいはい、じゃあ……こんなものね」
彼女が指を振ると、部屋が小さくなり、壁際にソファ、その前にローテーブルが現れる。
「はあ、疲れた……」
僕はソファに腰を下ろして、背もたれに体を預ける。
「お疲れさま」
隣にエリスが座って、僕に体を持たれかける。
「わざわざ隣に座らなくてもいいじゃないか」
「だってたくさん作るとリソースが足りなくなるし。座れるところはここだけなんだから」
「じゃあそれでいいからあんまり近寄らないでね。できれば穏やかに休みたいから」
「まだまだ子供だなあ、カナメくんは……あ、それとももっと小さいほうがいい? お母さんみたいに」
「なんでそうなるんだよ……」
「ほら、男の子って母の面影を持った女性に惹かれるってあるじゃない? だからカナメもちっちゃい子好きなのかなって……」
「それは宗崎家が代々ロリコンってこと?」
念のため、あんなにちっちゃいのは母さんだけであるが、おばあちゃん、ひいおばあちゃんもあんまり背が高くないからあんまり否定できない。
だけど、ロリコンなのは父さんだけだと思う。
アマゾンの密林の資源探索で同行した時に飴玉を母さんにあげて仲良くなったというエピソードを聞いた時にはその疑惑が深まった。
危ない時に担いで逃げてくれたのが頼もしかった、という母さんのフォローはあったが、それは惚れた弱みというやつだから疑惑の払しょくにはなっていない。
「……まあ、今後いろいろ試して性癖を明らかにしてあげるわ」
「何に情熱を傾けているのやら……」
正直勘弁してほしい。
「ところで、休まなくていいの? そろそろ夜明けよ」
「……もう明けてるかな……やっぱり半日休んでまた夜に移動かな」
カップ麺を2つ持ってきているので、今一つ食べて、睡眠をとって出発前にもう一つかな。
「じゃあ、お湯お願いできる?」
「はーい」
僕はリュックからカップ麺を取り出し、ビニールを破いてふたを開ける。
「あ、ちゃんと100℃でお願いね」
「わかってるわよ」
そして、エリスは指からお湯を出してカップ麺に注いでくれた。
水を出せるのはいいとして、温度も自由なのはどういう理屈なんだろう?
水の温度はたしか分子の振動だったはずだから、熱を与えるのではなく熱湯を出せるのだとすると、分子操作能力があることになるのかもしれない。
エネルギーを直接温度に変えるというのは一体どういう理屈なんだろうか?
そこで、僕に突然ひらめきが舞い降りた。
エネルギー……?
僕は、ちょっと考えて右手を壁に向けて、スキルを発動させようとする。
……これは難しいな。
2つ同時に使用することになるから、今までで一番の難易度かもしれない。
慎重に手順をなぞり……
「えいっ」
僕の手から飛び出した塊は、すごいスピードで飛び、壁に当たって砕け散った。
「えっ? 何をやったの?」
「うん……一回で成功するとは思わなかったけど……飛ぶ氷玉だよ」
どうやら僕は新たな攻撃スキルを習得したようだ。
あの後、地上型の敵として半魚人が2回現れたが、水分たっぷりの人型モンスターなど敵ではないので一瞬で終わった。
死骸は気持ち悪かった。
「さすがに疲れた……」
『気の休まる場がなかったものね』
やはり、足元の不安定さが一番の問題だった。
道中で一番苦労したのは魚が2匹出てきた時だ。
半魚人と魚はそれほどではなかった。先に半魚人を無視して魚に集中すればよかったからだ。
なお、3体以上の同時襲撃が無かったことから、やはりこのダンジョンは環境にリソースを使いすぎ、という結論になりそうだ。
時間は午前4時だったので、思ったより道中に時間はかかっていない。
このまま行こうということで、僕は携帯ブロック食と水で休憩し、トイレを済ませてボス部屋に入る。
「和風か……」
『和風ね……』
和風、水辺、モンスター。
と来たら当然のごとく河童だった。
『素手、遠距離攻撃の可能性』
「了解」
だが、まずは先手だ。
マイクロウェーブを二連発、まずは狙いやすい胴体に撃つ。
手足は細くて狙えそうになかったからだ。
「ゲフッ」
ダメージはあったようで、腹を抑えている。
が、それだけでは倒せていない。
スキルの連発は練習しているが、なかなか回数が伸びない。
連発しようとして何とも言えない悪寒を感じることがあり、そうなるともう無理だ。ちょっと時間を開ける必要がある。
今は……まだいける!
「マイクロウェーブ……マイクロウェーブ!」
なんとなくだが、スキル名を発音しないと持たないという直感があった。
そうして考えると、やはりスキル名を言わない(無詠唱?)のは効率が悪いのだろう。
多くのメリットがあるのだからデメリットもあっておかしくない。
敵はそのまま前に倒れる。
幽霊状態のエリスが慌てて近寄っていくことを考えると、倒せたのだろう。
今回はイレギュラーが無くて良かった。
しばらくするとボスが光に包まれて、そして……あれ?
「今回は変身しないの?」
『だって河童って裸なのよ。それともカナメは私の裸、見たい?』
「そ、そんなの別に見たくないよ……大体、河童の裸なんて人間と全然違うじゃないか」
『似た感じにもできるわよ、どうする?』
「どうもしないで結構です!」
正直、家に天狗姿でいるときだってちょっと気を遣うのだ。
せめて天狗面の下を見ていなかったら違うかもしれないが、同年代ぐらいの女の子が家で近くにいるというのは、手を出そうとか、そういう気持ち抜きにしても落ち着かない。
『ふーん、やっぱり……』「……こっちの姿の方がいい?」
言葉の途中で、エリスが急にいつもの天狗少女姿に変わる。
「そういうのはいいから、一度休みたいんで構造変えてもらえる?」
「ソファでいい?」
「うん、あと小さいのでいいからテーブルも」
「はいはい、じゃあ……こんなものね」
彼女が指を振ると、部屋が小さくなり、壁際にソファ、その前にローテーブルが現れる。
「はあ、疲れた……」
僕はソファに腰を下ろして、背もたれに体を預ける。
「お疲れさま」
隣にエリスが座って、僕に体を持たれかける。
「わざわざ隣に座らなくてもいいじゃないか」
「だってたくさん作るとリソースが足りなくなるし。座れるところはここだけなんだから」
「じゃあそれでいいからあんまり近寄らないでね。できれば穏やかに休みたいから」
「まだまだ子供だなあ、カナメくんは……あ、それとももっと小さいほうがいい? お母さんみたいに」
「なんでそうなるんだよ……」
「ほら、男の子って母の面影を持った女性に惹かれるってあるじゃない? だからカナメもちっちゃい子好きなのかなって……」
「それは宗崎家が代々ロリコンってこと?」
念のため、あんなにちっちゃいのは母さんだけであるが、おばあちゃん、ひいおばあちゃんもあんまり背が高くないからあんまり否定できない。
だけど、ロリコンなのは父さんだけだと思う。
アマゾンの密林の資源探索で同行した時に飴玉を母さんにあげて仲良くなったというエピソードを聞いた時にはその疑惑が深まった。
危ない時に担いで逃げてくれたのが頼もしかった、という母さんのフォローはあったが、それは惚れた弱みというやつだから疑惑の払しょくにはなっていない。
「……まあ、今後いろいろ試して性癖を明らかにしてあげるわ」
「何に情熱を傾けているのやら……」
正直勘弁してほしい。
「ところで、休まなくていいの? そろそろ夜明けよ」
「……もう明けてるかな……やっぱり半日休んでまた夜に移動かな」
カップ麺を2つ持ってきているので、今一つ食べて、睡眠をとって出発前にもう一つかな。
「じゃあ、お湯お願いできる?」
「はーい」
僕はリュックからカップ麺を取り出し、ビニールを破いてふたを開ける。
「あ、ちゃんと100℃でお願いね」
「わかってるわよ」
そして、エリスは指からお湯を出してカップ麺に注いでくれた。
水を出せるのはいいとして、温度も自由なのはどういう理屈なんだろう?
水の温度はたしか分子の振動だったはずだから、熱を与えるのではなく熱湯を出せるのだとすると、分子操作能力があることになるのかもしれない。
エネルギーを直接温度に変えるというのは一体どういう理屈なんだろうか?
そこで、僕に突然ひらめきが舞い降りた。
エネルギー……?
僕は、ちょっと考えて右手を壁に向けて、スキルを発動させようとする。
……これは難しいな。
2つ同時に使用することになるから、今までで一番の難易度かもしれない。
慎重に手順をなぞり……
「えいっ」
僕の手から飛び出した塊は、すごいスピードで飛び、壁に当たって砕け散った。
「えっ? 何をやったの?」
「うん……一回で成功するとは思わなかったけど……飛ぶ氷玉だよ」
どうやら僕は新たな攻撃スキルを習得したようだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる