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4 少年は電波となり、少女は翼を手に入れる
荒船山ダンジョン(3)
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『ここ上る?』
「でも、奥にも続いているんだよね。どっちがいいと思う?」
『わからないわ。でも普通に考えたら層を進める方がいいような気がする』
「なるほどね。Cランクって宝箱出るんだっけ?」
『中身は大したことないと思うわよ』
「じゃあ上かな」
通路の途中現れた上り階段。
進み具合としては確かに中間地点ぐらいだから、このまま2層を進んでいくのとここで階段を上がるので分岐している。
よく考えれば分岐は初めてだから、これも今までのダンジョンより高ランクであるという証明だろう。
結局、僕らは攻略を優先して上の層に行くことにした。
「おっ、これは……」
『どうやら全3層なのね……ちょっと少ない気はするけど……まあ、ここまで変な環境に致死性のトラップを入れたら……そんなものかしらね?』
次のフロアは同じく木造帆船を再現したものだが、内部でなく最上階、いわゆる露天甲板ということなのだろう、壁は低い柵ぐらいの高さでその上は薄暗い空が広がっている。
ハンモックはなくなり、壁の外から海原が見える。
前を見ると、その代わりということだろうか、船のマストらしき柱が立っており、床にはロープがいたるところに巻かれており、足場が悪そうだ。
「足元注意、ってことかな? それにしてもマスト何本あるんだ?」
確か帆船のマストは普通3本ぐらいだったはずだけど……
『環境全振りね、これなら敵は意外と……』
「うん……エリス、行けそうなら今日は最後まで行くよ」
『そうね、カナメの判断に任せるわ。行き帰りの時間もかかるしね』
足元のロープに躓かないように、そして常に移動できる場所を確認しながら進む。
『大砲!』
いきなりか……トラップ扱いじゃなかったの?
僕は発射点を見定め、そして銃口の向いている方角をかわすように激しく動く。
「やばっ」
なんか不思議な感覚だった、足が着くと思った場所が、なぜか予想位置になくてちょっと足が乱れる。
『来るっ!』
そう、このエリスの言葉が無ければ、もしかすると大砲の玉を受けて僕は大けが、最悪は命を失っていたかもしれない。
声に反射的に前転を行い、近くの大砲の台座にぶつかりながら、僕はすぐそばを大砲の玉が通り過ぎていくのを見る。
遅れてドオオオンという爆音が聞こえる。
おいおい、音速ってそんなに遅かったか? と思ったが、同時にまた一発の玉が違った角度で通り過ぎるのを見る。
先の音は聞き逃したのかもしれない。
感覚のすべてを自分の動きに集中していたから、一時的に聴覚すら無視していたのだろうか?
聴覚の無視はずっとやってきたことだから、悪い癖がついているのか? 一回耳鼻科に見てもらいに行こうか?
それらはすべて一瞬のことであり、その間にずいぶんいろいろ思考が巡った。
だんだん自分も人間離れしてきたのかな、なんて思いつつ、僕は起き上がり、敵の方にダッシュする。
下の層の経験から、大砲は次弾を考えなくてもいい。
マシンガンだったりすると困るが、あれは後世の技術の進歩と弾が軽いことが可能にしたことだ。どちらもこのダンジョンではありえない。
立っている敵は3体。
僕は、まず右の敵にアイス・ワン。命中、撃破。
倒れこむそのスケルトンの肋骨を踏みつぶしながら、ナタを構えて敵をけん制。
そして次に近くにいる敵にアイス・ワンを発射。敵はカトラスを振り上げた姿勢のまま崩れ落ちる。
そしてもう一体。意外に動きが速い。間に合わない。
僕は、ナタを敵の剣筋を防ぐように構え、衝撃に備える。
受ける。重い。想定以上だ。
そこではじめて気づく。
この敵はちょっと強いスケルトンだ。
あの最初のダンジョンのボス的よりも強いかもしれない。
よく見ると体格も大き目で、さらに帽子をかぶっている。
あれだ、士官とかそういうのだろう。
なるほど、中ボス、というわけか。
「ふっ」
僕は気合一発、ナタで足払いを行う。
さすがに力が強いとはいっても、もともと人体よりはるかに軽いスケルトン。
首尾よくその一撃は相手の足を刈り、そしてその場に倒れる。
「アイス・ワン!」
至近距離なので外すわけもなく、僕の一撃は帽子が落ちた頭がい骨を打ち抜く。
戦闘終了。
『お疲れ、ちょっと大変そうだったね』
「やっぱり大砲は反則だよ。当たったら即死コースじゃない」
『でもほら、いい感じにご褒美があるみたいだよ』
「え?」
彼女が指さした方を見ると、そこにはこれまでの錆び錆びのものと違い、きれいな刀身のカットラスがあった。あの士官の持っていたものだ。
拾い上げてみると、刀身に刃こぼれ一つない。
もともと海兵が力任せに打ち合わせるものだから頑丈だと聞いたことがあるが、それにしても打ち合わせてこれというのは……あ!
僕は自分のナタの刀身を見ると、そこには大きくへこんだ部分が見つかった。
「ああああ、これじゃ研ぎ直してもダメだよね……」
家の農機具がダメになってしまった。
お小遣いで買い直さなくてはいけないだろう。
「やってしまった……」
肩を落とす僕に、エリスが慰めてくれる。
『まあ、今後はそっちをダンジョンに使えばいいじゃない。今までより強力だよ』
「それはそうなんだけど……」
これをナタの代わりに納屋に置くわけにはいかないだろう。
結局僕のお小遣いが減るのは避けられないようだ。
僕は、元のナタをリュックに突っ込んで、新たに手に入れたカトラスを手にして何回か振ってみる。
横、逆切り、袈裟切り、上段切下ろし、切り上げ、突き……
うん、重さに体が振られることもないみたいだし、今の上がった能力で扱いきれそう。
僕は機嫌を直して、練習を続けるのだった。
「でも、奥にも続いているんだよね。どっちがいいと思う?」
『わからないわ。でも普通に考えたら層を進める方がいいような気がする』
「なるほどね。Cランクって宝箱出るんだっけ?」
『中身は大したことないと思うわよ』
「じゃあ上かな」
通路の途中現れた上り階段。
進み具合としては確かに中間地点ぐらいだから、このまま2層を進んでいくのとここで階段を上がるので分岐している。
よく考えれば分岐は初めてだから、これも今までのダンジョンより高ランクであるという証明だろう。
結局、僕らは攻略を優先して上の層に行くことにした。
「おっ、これは……」
『どうやら全3層なのね……ちょっと少ない気はするけど……まあ、ここまで変な環境に致死性のトラップを入れたら……そんなものかしらね?』
次のフロアは同じく木造帆船を再現したものだが、内部でなく最上階、いわゆる露天甲板ということなのだろう、壁は低い柵ぐらいの高さでその上は薄暗い空が広がっている。
ハンモックはなくなり、壁の外から海原が見える。
前を見ると、その代わりということだろうか、船のマストらしき柱が立っており、床にはロープがいたるところに巻かれており、足場が悪そうだ。
「足元注意、ってことかな? それにしてもマスト何本あるんだ?」
確か帆船のマストは普通3本ぐらいだったはずだけど……
『環境全振りね、これなら敵は意外と……』
「うん……エリス、行けそうなら今日は最後まで行くよ」
『そうね、カナメの判断に任せるわ。行き帰りの時間もかかるしね』
足元のロープに躓かないように、そして常に移動できる場所を確認しながら進む。
『大砲!』
いきなりか……トラップ扱いじゃなかったの?
僕は発射点を見定め、そして銃口の向いている方角をかわすように激しく動く。
「やばっ」
なんか不思議な感覚だった、足が着くと思った場所が、なぜか予想位置になくてちょっと足が乱れる。
『来るっ!』
そう、このエリスの言葉が無ければ、もしかすると大砲の玉を受けて僕は大けが、最悪は命を失っていたかもしれない。
声に反射的に前転を行い、近くの大砲の台座にぶつかりながら、僕はすぐそばを大砲の玉が通り過ぎていくのを見る。
遅れてドオオオンという爆音が聞こえる。
おいおい、音速ってそんなに遅かったか? と思ったが、同時にまた一発の玉が違った角度で通り過ぎるのを見る。
先の音は聞き逃したのかもしれない。
感覚のすべてを自分の動きに集中していたから、一時的に聴覚すら無視していたのだろうか?
聴覚の無視はずっとやってきたことだから、悪い癖がついているのか? 一回耳鼻科に見てもらいに行こうか?
それらはすべて一瞬のことであり、その間にずいぶんいろいろ思考が巡った。
だんだん自分も人間離れしてきたのかな、なんて思いつつ、僕は起き上がり、敵の方にダッシュする。
下の層の経験から、大砲は次弾を考えなくてもいい。
マシンガンだったりすると困るが、あれは後世の技術の進歩と弾が軽いことが可能にしたことだ。どちらもこのダンジョンではありえない。
立っている敵は3体。
僕は、まず右の敵にアイス・ワン。命中、撃破。
倒れこむそのスケルトンの肋骨を踏みつぶしながら、ナタを構えて敵をけん制。
そして次に近くにいる敵にアイス・ワンを発射。敵はカトラスを振り上げた姿勢のまま崩れ落ちる。
そしてもう一体。意外に動きが速い。間に合わない。
僕は、ナタを敵の剣筋を防ぐように構え、衝撃に備える。
受ける。重い。想定以上だ。
そこではじめて気づく。
この敵はちょっと強いスケルトンだ。
あの最初のダンジョンのボス的よりも強いかもしれない。
よく見ると体格も大き目で、さらに帽子をかぶっている。
あれだ、士官とかそういうのだろう。
なるほど、中ボス、というわけか。
「ふっ」
僕は気合一発、ナタで足払いを行う。
さすがに力が強いとはいっても、もともと人体よりはるかに軽いスケルトン。
首尾よくその一撃は相手の足を刈り、そしてその場に倒れる。
「アイス・ワン!」
至近距離なので外すわけもなく、僕の一撃は帽子が落ちた頭がい骨を打ち抜く。
戦闘終了。
『お疲れ、ちょっと大変そうだったね』
「やっぱり大砲は反則だよ。当たったら即死コースじゃない」
『でもほら、いい感じにご褒美があるみたいだよ』
「え?」
彼女が指さした方を見ると、そこにはこれまでの錆び錆びのものと違い、きれいな刀身のカットラスがあった。あの士官の持っていたものだ。
拾い上げてみると、刀身に刃こぼれ一つない。
もともと海兵が力任せに打ち合わせるものだから頑丈だと聞いたことがあるが、それにしても打ち合わせてこれというのは……あ!
僕は自分のナタの刀身を見ると、そこには大きくへこんだ部分が見つかった。
「ああああ、これじゃ研ぎ直してもダメだよね……」
家の農機具がダメになってしまった。
お小遣いで買い直さなくてはいけないだろう。
「やってしまった……」
肩を落とす僕に、エリスが慰めてくれる。
『まあ、今後はそっちをダンジョンに使えばいいじゃない。今までより強力だよ』
「それはそうなんだけど……」
これをナタの代わりに納屋に置くわけにはいかないだろう。
結局僕のお小遣いが減るのは避けられないようだ。
僕は、元のナタをリュックに突っ込んで、新たに手に入れたカトラスを手にして何回か振ってみる。
横、逆切り、袈裟切り、上段切下ろし、切り上げ、突き……
うん、重さに体が振られることもないみたいだし、今の上がった能力で扱いきれそう。
僕は機嫌を直して、練習を続けるのだった。
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