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第25話:健全な男子ならしかたない。
しおりを挟む「どうぞこちらへ」
レイラに案内された客室は野良猫亭の部屋の二倍程の広さで、応接間ほどの豪華さは無かったがシンプルで清潔感のある部屋だった。
「本日はここを自由に使って下さい」
「……レイラ、って言ったよな。あんた体調とかは大丈夫だったか?」
「あ……はい。おかげ様で私は大丈夫です。妹の方も……まだ起きれる状態じゃありませんが時々意識も戻って、スープなどは食べてくれました」
そうか……結果的に二人とも無事だったなら良かった。ギュータファミリーの奴等は根っこからの悪人って訳じゃなさそうだったし、手を出したりはしてないと思う。……多分。
「言い辛かったら言わなくてもいいんだが……掴まっている間、特に酷い目には合わなかったか?」
「それが、驚くほど何もされませんでした。それどころか食事を持ってくる時以外人が来ませんでしたから」
むしろあんな環境で一切手を出されずにいたっていうのは奇跡に近いが、ガレスが他の連中を纏めていたんだとしたら安心ではあるだろう。
「ごしゅじーん、今の質問……もし何かされてたらどうする気だったんですぅ? 正直に答えられたら空気悪くなりますし、黙られたら何かされたって言われてるようなものですしー」
「うっ……」
確かに今のは軽率な質問だったかもしれない。
何もされてなかったから良かったようなものの……。
馬鹿ネコは目を細めて意地悪く俺の顔をじろじろと眺めてくる。
「ま、まぁ私は何もされてませんし大丈夫ですからっ! えっと、それで、この部屋は女性陣用という事で、隣に男性の部屋も用意してありますからっ!」
空気に耐えられなかったのかレイラが慌てて話題を変える。
そう言えば俺達全員が同じ部屋って訳にもいかないか。おっちゃんもいるしな。
「ミナト様、オーサン様、お二人はこちらへ」
……!!
オーサンだと? どちらかというとおっちゃんじゃなくておっさんだったか……。
そう言えば今まで名前聞いてなかったな。
おっちゃんは元々ノインと知り合いっぽい雰囲気もあったし
「オニーサンと一緒の部屋で平気か不安ネ……」
「おいおっちゃん……俺と一緒じゃ不安だって言うのか?」
「ち、違うヨ!」
おっちゃんが慌てて首をぶるんぶるん横に振って顎の肉がプルプルと揺れた。
「ミナト様、きっとオーサン様はミナト様の性別が……その、心配なだけではないかと……」
レイラがもじもじと俯きながらそんな事を言う。
「あのなぁ、俺は男なんだってば! ちょっと訳があって特殊な力使うと見た目が女になっちまうけど、普段はちゃんと男だからっ!」
「オニーサンがそう言うならそれでいいケド……不可思議体質ネ」
馬鹿ネコと同じような事言いやがって……。
俺とおっちゃんが隣の部屋に入るなり、背後から体当たりをくらった。
「どーんっ♪」
「どーんっ♪」
面白いくらい簡単に前のめりに転倒してしまい、恨めしく体当たりの主を睨むと、馬鹿ネコがイリスを盾にするように後ろに隠れていた。しゃがんではいるが体が全体的にはみ出している。
「イリス、馬鹿ネコと一緒にいると頭が悪くなるから注意しなさい」
「はーいっ♪」
「汚れの無い返事が胸にささるーっ!」
とりあえず腹立ったので馬鹿ネコの頭をぼかりと一撃。
「ごしゅじん痛いですぅぅ……」
「あははっ♪」
その笑い声はレイラの物だった。
「あっ、ごめんなさい。あまりに皆さんのやりとりが面白くって……あははっ♪」
面白いっていうか場を乱している馬鹿ネコが全部悪いんだけどな……。
「あ、そうだみなさん! お風呂入りませんか? うちの屋敷には大きな温泉があるんです♪」
レイラの提案はかなり嬉しいが……温泉ねぇ……?
「えっと、勿論男女別ですから安心ですよ?」
俺の不安そうな視線に気付いたのかちゃんと重要な部分を説明してくれた。
イリスと一緒に入るのはともかく馬鹿ネコと入るのはさすがにいろいろまずいというか、万が一にも馬鹿ネコなぞに身体が反応してしまったら自己嫌悪に陥る。しかも一生奴に馬鹿にされて生きる事になってしまいそうだ。
『なんだかんだ言って君も男の子ねぇ♪』
うっせー。俺はこれでも健全な男子なんだよ! 年頃の女の裸に興味の無い男など存在しない!
『つまり君はユイシスちゃんの裸に興味津々という訳ね?』
なんでそうなるんだよ話聞いてるか?
『聞いてる聞いてる♪ 健全な男の子だもん可愛い女の子と一緒にお風呂入りたいよね♪』
だから違うって言ってるだろ……。ユイシスの、じゃなくて年ごろの女には大抵反応しちまうもんなんだよ健全な男子ってやつはさ!
『年頃のねぇ? 君の前世の中には幼女にしか興味ないのもいたみたいだけど……』
俺をそんな犯罪者と一緒にするなマジで。
『あはは♪ やっぱり君をからかうと面白いわねぇ』
……そう言えばだ、俺が風呂に入るという事はお前も俺の身体を見る訳だよな?
『そうよ? 今までだって宿とかでお風呂入ってたじゃない』
……マジか……しんどい。
『今更何を気にしてるのよ。私は君みたいなおこちゃまの身体に興味ないわよ? いいじゃない別に見られて減るもんじゃないし。一人でこそこそ何かしてるのを見られた訳じゃないんだから』
おまっ! ……おまえさぁ、もう少しなんかねぇの? 傷付いた年頃の男子にかける言葉間違えてるぞ絶対。
「……ま?」
そうかそう言えばそういう事はもう一切できないと思った方がいいな……そもそも子持ちだし俺も生き方をいろいろ考え直さないと……。
『おやおや~? その反応は今までこそこそ何かしてたって事ね? 若いっていいわぁ』
あのな、それこそ健全な男子には当然の事なんだからとやかく言われる筋合いはねぇよ!
「……さま?」
『面白そうだから今度して見せてくれない?』
絶対にお断りだボケっ!
「ミナト様!?」
「えっ……? あ、あぁ、なんだ?」
気が付いたらレイラが俺に話しかけていたらしい。ママドラとの会話に夢中になってるとこういう事があるから困る。
『そんなに私に夢中だったの? 悪いけれど私は君みたいなおこちゃまはちょっと……』
うるせーよ!
「きっとごしゅじんはこれからお風呂に行くから私達の裸を妄想して血液を一部に溜め込んでいたんですよ」
「そっ、そうなの……ですか?」
レイラの視線がスーッと下の方へ向いていく。
「おい馬鹿ネコ」
「なんです~ごしゅじん♪ 私達と一緒に入りたくて仕方ないって顔してますね~♪ 私としてはどうしてもって言うなら~ってうわ痛い痛いっ! ごめんなさいっ!」
「お前のお花畑な脳みそはあと何回ぶっ叩いたら正常な思考ができるようになるんだ?」
「あっ、あががっ、ふぎゃっ! 痛いっ、ほんと痛いっ!」
照れ隠しも含めて、だが俺はこの憤りを馬鹿ネコの頭部へと叩きつけて発散する事にした。
『まったく、どこが憤ってるんだか』
お前黙れよマジで。
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