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第180話:ぶっころーっ♪

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「ひゅーひゅー♪」
「茶化すんじゃねぇよ」

 王城を飛び出すと、既に街中の民衆はそれぞれ家に避難しているようで大分数が減っていた。

 ただ、英傑祭中だった事もあって観光客が多く、それらを兵士たちが避難誘導にあたっている。

 帝都広場と呼ばれる中央の大きな広場へ到着すると、エクス、イリス、ロリナがまるで俺達を待っていたかのように仁王立ちしていた。

「まぱまぱーこっちだよー♪」

 イリスが駆け出し、俺に飛びついてくるのでその勢いのままくるくる回りながら返事をした。

「おう、待たせたな」
「まぱまぱかっこよかったよー!」

 俺がイリスをくるくる振り回している間に、エクスはティアに話しかけていた。

「やはり生きていたか」
「うーん、私は死ぬつもりだったんだけどミナトがね、上手くやってくれたんだ」
「さすがとしか言えんな。しかし再び会えて嬉しいぞ」
「ありがと♪ でも私はミナト一筋だからね?」
「フッ……お前もミナトに惚れたか」
「惚れたっていうかアレは元々私のものなんだゾ♪」

 そんなやりとりが聞こえてきてしまって止まるに止まれずずっとイリスをぐるぐる回していたら「目が回るよーっ!」と怒られてしまった。

 で、止まったら止まったで今度はロリナである。

「貴様ぁ……! 見ていたぞ、姫と、き、き、キスなど……!」

 まるで俺を食い殺そうかというほどの殺意と形相でロリナが俺の襟元を掴み上げた。

「あれは不可抗力だっ……! それよりポコナが元に戻れて良かっただろうが。お前もすぐ元に戻して貰えるからもうちょっと我慢しろ」

「ぐっ……た、確かに貴様はよくやった。本来ならば今すぐにでも姫の元へ駆けつけたい所だが……この姿ではな。まずはここへ来るという魔物の群れに八つ当たりでもしようじゃないか」

 そう言ってロリナがじゃきん、と青龍刀みたいな形の剣を二本取り出した。
 よく見ると刃先が細かくギザギザになっていて、それをこすり合わせて火花を散らせている。

 まるでノコギリか何かのようだ。

「鬱憤が溜まってるんだ……早くこい……切り刻んでやる……!」

 俺はロリナの実力は知らないが、英傑の一人である時点で心配は要らないだろう。
 なんていうかかなり物騒だしあまり近寄りたくない。

「エクス、他の連中はどうした?」

 ネコやアリア、ゲオル、ジオタリス、クイーン、レナ……大人しく避難するような連中じゃないだろう?

「既に帝都内の各地に配備済みだ。貴様の仲間だけでなく、闘える英傑は全員だ。それもこれも貴様とティリスティアの戦いを見て誰もがミナトを認めたからだろうな」

 英傑王として認められたのはありがたいが……今回の件で俺はまた相当目立ってしまったな。

 ……あ、キララが死んだならもうこそこそする必要もないのか。
 なんだか拍子抜けだが、これで細かい事を気にする必要は無くなった。

「さて、思う存分暴れてやりますかね」

 一応エクスに誰がどの辺に居るのかを聞いてみたが、驚いた事にネコも単騎で守備についているそうだ。

 大丈夫なのかと不安ではあるが、よく考えたらあいつにはアルマがついてるんだった。
 六竜相手に心配なんて要らないだろう。

「エクス、またあの広範囲の障壁張って入ってこないように出来ないのか?」

「無茶を言うな。体力は回復しても魔力はそう簡単にはいかん。ティリスティアとの闘いで使いすぎたからな。今の余は帝都全体を守る程の余力が無い。とはいえ魔物などに遅れは取らんがな」

 いっそ寄せ付けなく出来れば楽でいいと思ったがそういう訳にもいかないか。
 それに、戦っている所を各地に中継で届ける事も目的の一つなんだろうからこれも必要な事か。

 きっと今頃俺達の姿がシルヴァがどっかで盗撮してるんだろうからなぁ。変態野郎め。

「じゃあ俺達も散ろうぜ。ここに纏まってるのも戦力集中しすぎだろ」

「ふん! 言われなくても誰が貴様と一緒になど!」

 ロリナが剣をジャギジャギ擦り合わせながらガニ股で歩いていった。女らしさの欠片もねぇなあいつは……。

「では余も配置につくとしよう。ミナトと娘はここでいい。それを告げる為に待っていたのだ」

「そうだったのか。イリスは一人でも平気だとは思うが、気遣いには感謝するよ」
「ふふっ、その娘も相当な実力者のようだな? 一度手合わせ願いたいものだ」
「やめとけ。俺と違ってイリスは加減が出来ないから死ぬぞ」
「それは怖い」

 エクスは笑いながら軽く手を振り、自分の持ち場へと移動していった。

「じゃー私もあちこち走り回って魔物退治といきますかねー。ミナトまた後でね♪」
「おう、気を付けてな」

 ティアはまだ魔物が到着してもいないのに全力疾走でどこかへ行ってしまった。
 その元気な姿になんだかほっとしている。
 なんだかんだと大変だったがうまくいって本当に良かった。

「まぱまぱ、一緒に戦おうね♪」

 イリスが俺を見上げて笑う。とびっきり眩しい笑顔だった。

「おうよ。今から来る奴等に遠慮なんかいらないからな。本気でやっちまえ!」

 イリスが更にパァっと目を輝かせる。
 本気で戦っていいってなるだけでそこまで喜べるとか完全に戦闘民族なんだよなぁ。


 やがて帝都の空に黒い影が見え始める。
 確かにかなりの量だった。あれだけの数の魔物がここを攻めてくる理由は?
 エクサーの時より多い気がする。

 魔王キララが死んでるとしたら、デルベロスが実権を握っていたのだろうか?
 あいつらはデルベロスの命令でここに向かっていたが、到着前にデルベロスが死んだ……?

 それともアレを指揮している何者かがいるのだろうか?
 どちらにせよ不安はない。
 何故ならこの帝都には英傑がいるし俺の仲間達も居る。そして隣にはイリス。

「じゃあ魔物の群れをー」

 可愛い娘の頼もしい言葉が炸裂する。

「ぶっころーっ♪」


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