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第261話:エリマキワニガエル。
しおりを挟む「ごしゅじーん……なんだか足元がぬるぬるしますぅ……」
「うっさい黙って歩け」
「ふにゃぁぁぁ……」
俺達は現在シュマル共和国南東部にあるゲルッポ湿地帯という場所に来ている。
もう響きからしてじめじめしていて嫌な感じだ。
天候も良く陽が射しているのに、逆にそれのせいで蒸し暑さが倍増している。
「ほれほれもっと急がんと日が暮れてしまうのじゃーっ」
ラムは車椅子が汚れるのが嫌だからという理由で湿地帯に入るなり宙へ浮かんだまま移動している。
しかもなんだか自分の周りに妙な結界みたいなのを張っていて、やたらと涼しそう。
「あっづーい! 私こういう蒸し暑いの苦手なんだけどもう帰っていい……?」
「おいこら、お前は俺を守るんだろうが。早々に自分の任務を放棄するな」
ティアは額から汗をダラダラと垂らしながらぐったりとしている。本当に熱いのが苦手らしいので仕方ないから手持ちの水をくれてやった。
「ぐびっ、ぐびっ、ぷはーっ♪ 生き返……るほどでもないけど大分楽になったゾ♪」
「そうかそりゃよかった早く水返せ」
「えー、そんなに勇者の唾液入り飲料水が欲しいのかな? ミナトはどすけべだなぁ♪」
「……」
「ご、ごめんって怒んないでよほら返すから」
俺も蒸し暑さでイライラが顔に出てしまっていたらしい。
ティアもそれ以降ウザ絡みはしてこなかった。
ちなみにこのゲルッポ湿地帯までは街からかなり距離があったため、地図を参考にしながら四回ほどに分けてラムの転移でやってきた。
別に集中時間を長くとれば一回でも移動可能な距離だったらしいが、見知らぬ場所での長距離移動になると距離が長くなればなるほど誤差が生じるとの事で、安全第一な手段を取るに至ったわけだ。
その点帰りはきっちり集中すれば一発で帰れるとの事。
もしラムが無理そうな場合は俺のホールでどうにかすればいい。
同一国内ならば移動自体は問題ないし、この人数を移動させるのは結構に疲れるけれどやってやれない事はないだろう。
「ちょっと上から様子を見てくるのじゃ」
そう言うとラムは車椅子のまま天高く上昇した。
よく考えるとラムはワンピースを着ているのでこの状況で車椅子が無かったらパンツ丸見えなんだよなぁ。
『……変態ロリペド野郎』
いや、そうじゃなくてだな。車椅子ごと移動してるのは正解だなって話で……。
『へー、ふーん』
ほんとだってば。そもそもラム本人もそういう対策も兼ねて車椅子移動なのかもしれないしな。
『そうね、君みたいなのから身を守らなければならないものね』
だから前にも言ったけど俺はもっとこうしっかり育った体形がだな……。
『そうだったわね、ミナト君は私みたいなないすばでーなお姉さんが好きだったものね♪』
……うーん、もうママドラの外見も思い出せないんだが。
『えっ、なんで? 泣くわよ?』
かなり前の話だし会ってすぐ同化しちまっただろうが。一緒に居た時間だって短いんだから忘れたって当然だろ。
『こんなに誰よりもずっとそばに居るっていうのに……私達もう身も心も一心同体じゃないの』
変な言い方しないでくれる? 身はともかく心まで一つになったわけじゃないだろうが。
『しくしく。ミナト君が私をのけ者にするわ……』
そんな繊細なドラゴンぶってもダメだからな?
『ちぇっ、ミナト君のばーか!』
ガキかよ……。
まぁ、でも……誰より頼りになる相棒だとは思ってるよ。
『まぁそれは当然よね!』
……あのさぁ、今のは照れたり喜んだりするとこじゃないの? さも当たり前のように……いや、いいや。なんでもない。
ママドラはこういう奴だ。
気まぐれだし何を考えてるかよく分からないけれどいつだって俺の味方をしてくれる。
それでいいじゃないか。
『……きゅん♪』
わざとらしいときめき音やめてくれる?
「おーい、向こうの方からなんかでかいのが沢山やってくるのじゃー。戦闘準備をせよー」
遥か上空から気の抜けた注意喚起が聞こえてくる。
どうやら討伐対象のおでましのようだ。
じゃあ今回もよろしく頼むぜ?
『もっちろん♪ 任しときなさいって!』
「儂は今回も高みの見物させてもらうのじゃー。がんばってのー」
ラムはここまで移動で頑張ってくれたから戦いは免除でもいいだろう。
帰りの事もあるし。
この時、俺はラムが戦いに無駄な力を使いたくないとか、そういった理由で参戦しなかったのだと思った。
実際はちょっと違ったけれど。
やがてドタドタバチャバチャとけたたましい音を響かせて俺達の目の前に現れたのは……。
「ぎにゃーっ! ごしゅじんなんですかアレ! ドラゴン!?」
徐々にその姿が見え始め、ネコが騒ぎ出す。
ドラゴンっぽくはあるが……アレはどっちかっていうと……。
「最悪。エリマキワニガエルだわ……」
ティアがげんなりした表情でため息をつく。
「何その属性てんこ盛りな魔物」
確かにこちらに向かってくる魔物の姿は、エリマキトカゲのようでもあり、ワニのようでもあり、カエルのようでもあった。
具体的に描写するならば、頭部がカエルで身体がワニ。それでいてエリマキが付いていて二足歩行でどちゃばちゃと駆けてくる。
それが視界を埋め尽くすほどの集団で。サイズにバラつきはあるものの、最低でも七メートルくらいはあろうか。
「ティア程の力を持ってる奴が最悪って言うからには余程強いのか……?」
いくら強いとはいえ魔物の幹部達とは違い狂暴な野生動物みたいなもんだろう……?
そんなに警戒するような事があるとも思えないが。
「あのね、アイツはあんなザラザラした皮膚してるくせに実際はぶにぶにで弾力の塊なの。剣で切ろうとしても弾かれちゃうのよね。しかも不思議な粘膜で包まれていて魔法も反射してくる」
「なんだって……? 物理魔法無効かよ強敵じゃねぇか。そんなものどうやって……」
ティアは更に眉間に皺を寄せて呟く。
「ううん、図体ばっかりでくっそ弱いわ」
「……え? じゃあなんでそんなに……」
エリマキワニガエルはとうとう俺達に気付き、一斉にこちらに向けて走り出す。
「はぁ……あいつめっちゃ弱いけど、倒すには基本的に一度体内に入ってぶち破るしかないのよ……」
その言葉を聞いてティアのしかめっ面の意味をやっと理解した。
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