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第291話:ジンバ散る。

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「そうかそうかお二人は同郷であったか」

 俺達のやり取りを見ていたリザインは微笑ましく笑っている。
 が、こちらとしては男に抱きつかれるとか拷問でしかない。

「おっと……そんな怖い顔しないでよ~つい勢いってやつなのだぜ」

 向けられた殺意に冷や汗を流しながらタチバナが俺から慌てて離れる。

「ふぅ……俺に対して妙な事をしたらこいつらが黙ってないし俺もつい殴っちまうかもだから気をつけてくれよ?」

「お、おう……あんたらの事は噂で聞いたよ。なんでももの凄いレベルの冒険者なんだってな! やっぱあれか? 転生チートってやつか!? 詳しく話を聞かせてくれよ!」

 日本人たるもの転生ときたらチートと考えるのが自然だ。俺だってそう思ってた頃があったよ。

「残念だけど神様はチートってなんだい? ってすっとぼけやがった。俺が強くなれたのはあんなクソ神とは関係ねぇよ」

「へぇ~! 俺っちは気が付いたらもうこっちの世界に居たからその辺の事興味あるわー」

「これこれ、積もる話もあるだろうがまずは私の家へ行こうじゃないか」

 タチバナはまだ俺からいろいろ聞き出したそうな顔をしていたが、俺にとってタチバナと話すのはそこまで優先順位が高い訳じゃない。
 他の転生者と日本の思い出話にふけった所で得る物は特にない。

『そのニホンって所にはそんなに思い入れがないのかしら?』
 そういう訳じゃないけど、俺は今この世界で生きてるんだぞ?
 そしてこの人生が終わったら俺の転生も終了なんだから過去より今だろ。

『意外とドライなのね。てっきり二ホンでの記憶がろくでもないものばっかりだからあまり思い出したくないのかと思ったわ』

 ……それもあるけどな。
 それに嫌でもキキララの記憶に繋がっちまうし、死んだ時の事思い出しちまうし。

 日本で執着する事といえば食い物くらいだな。
 しばらく夢の種で日本食食ってないからそろそろ味わいたいもんだ。

「私は……防衛隊の方に戻る事にするよ。リザイン様やミナト達の事はシャイナ、君に任せる」

「……分かりました」

 ジンバの言葉に頷きながらもシャイナはその眼をじっと見つめる。

「な、何かな? もう何もしたりしないよ」

「そうではなく……今の防衛隊にはジンバ隊長が必要です。だから……その、どこにもいったりしないで下さいね?」

 シャイナって普段の強気な雰囲気からのコレが破壊力大きすぎるんだよなぁ。あの上目遣いは卑怯だ。
 ジンバだって糸みたいな目をかっぴらいて焦ってる。

「お、おいおい……大丈夫だよ。どこにも行ったりしない……ただ、そんなふうに言われたらいくら私でも誤解してしまいそうになるじゃないか」

「誤解、ですか……?」

 何も分かってないように小首をかしげるシャイナに、ボソボソとティアが耳打ちした。
 それは放っておいてやるべきじゃないのか……?

「なっ、なんと……そんな誤解を与えてしまったのでしょうか……?」

「はは、やはり誤解……かな? 私としては大歓迎なんだが」

「いえ、それは有りません。私の心はもうミナトの物ですので」

 先程までの乙女モードから急に真面目モードに切り替わってぴしゃりとジンバの言葉を否定した。これはつらい。

『ぎゃはははは! これは恥ずかしい!』
 黙っとけよ……。

「ふ、なかなかにくる物があるね……しかし相手がミナトだというのであれば私は何も言うまい。幸せになるといい」

「はいっ! ジンバ隊長の分まで!」

 いや、そこでその言い方は可哀想だろ……。
 それに幸せにするつもりないんだけど。

『ひひひひっ! やっぱりこれで本格的にミナトガールズ入り確定ね』
 だからその不本意な集団に勝手に入れてやるなよ。

 ジンバはちょっと寂しそうに俺達に手を振って防衛隊に帰っていった。
 いろんな意味で可哀想な奴だなぁ……。

『そこで哀れむのは結構な皮肉よ?』
 分かってるよ。でもいまいち俺もシャイナに好かれる理由がよく分からなくてな。

 俺が男の姿だったらこうなってはいないだろうなというのも毎回ながらしんどい。

「さ、こちらへ来てくれたまえ」

 俺達はリザインに連れられ街中を走るバスに乗り込む事になった。

「これすっげーだろ? 路面電車方式だけどいい感じにバスっぽくね?」

「そうだなぁ、このアイディアを思いつく事よりもそれを実際に作れる手腕はすげぇと思うよ」

「もっと褒めろもっと褒めろ♪ リザインさんはさ、俺なんかの意見をどんどん取り入れてくれるんだよ上に立つ者ってのはこうじゃねぇとなぁ!」

 バスに乗り込むなりタチバナがテンションアゲアゲで俺に絡んでくるのがちょっとウザい。

「タチバナさんのアイディアはこの国にとってプラスになる事ばかりですからね。勿論却下した意見もありますが」

 リザインが過ぎ行く街並みを眺めながら微笑む。

「へぇ、こんな素性のしれない怪しい男のアイディアを採用するなんて懐が深いな」

「素性の知れないとか怪しいとかミナっちひどくねー?」

「うわっ、いきなり肩組んでくるなよ」

 死んでも知らんぞ。

 と俺が言うまでもなく、ティアに突きつけられたダンテヴィエルに青ざめながら後ろに下がっていった。

 全く学習していないなこいつ……。

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