俺たちに夏はない

カイトの冒険の中の人

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第二章

女の涙には一生勝てません!

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 「あ、あのな、俺とお前はさっき出会ったばっかりで……」

 生まれて初めての告白に慌てふためく幸村――頭が真っ白になって、完全に舞い上がってしまう。

 「気持ちは嬉しいんだけど、好きとかそういうのはまだ……」
 「……ってね、思い切って告白したんだ。好きだった人に……」

 幸村の動揺に気付くことなく、沙苗が結論を言葉にした。

 「えッ? ああ、そういうことね」

 幸村はほっと胸を撫で下ろす。と同時に、勘違いした自分に顔が真っ赤になった。

 「一つ上の先輩で、笑顔が素敵だったの」

 少女は遠い目でうっとりとそう言った。まるで視線の先に相手の笑顔が見えているように……

 「それで、結果はどうだったんだ?」
 「付き合っている相手がいるから駄目だって……」

 語尾を震わせながら悲しい結末を告げると、悪夢を思い出すように先を続けた。

 「その相手がね、ずっと仲の良かった友達だったりしてショックが2倍よ……あの子、ずっと私にそれを黙ってたの。私がその人のことを好きなのを知っていて……ひどいと思わない?」
 「まあ、言い出しにくいわな、そういう場合」
 「目の前が真っ暗になった。まるで冥界の洞窟に突き落とされたみたいだった」
 「想像するだけでつらい状況だな。俺だったら2、3日学校休むかも……」
 「少しの間でも、自分のことをまったく知らないところに行きたくなった」
 「それで家出を?」

 確かめるように問う幸村に、沙苗は静かに頷いてみせる。


 「少しでもふっきれるかなって、そう思ったの……」

 そう言って少し沈黙すると、すぐに思い出したように何度も首を振った。

 「でも駄目……そうなふうに逃げても、心にポッカリと穴が空いたみたいで、とっても惨めだった。私だけが不幸のどん底にいるみたいで孤独だった……」

 少女は瞳を落とすと閉口する。 固く握られた拳が悲しみを湛えるように微かに震えていた。 幸村は少女にかけるべく言葉を探したが、まるで見つからなかった。

 焦る幸村の気持ちをもてあそぶように時間だけが過ぎていく。
 言葉が出てこないなら、いっそのこと彼女を抱きしめてしまおうか……
 そう思って幸村が手を伸ばした、その時―― 突然に彼女が顔を上げ、まっすぐに幸村の顔を見つめていた。

 「一つお願いがあるんだけど……いい?」
 「お、俺に出来る事なら、何でも……」

 幸村の意思を確認すると、少女はその願いを口にした。

 「胸を貸して。思い切り泣きたい気分なの」
 「あ、ああ……」

 返事が終わらぬうちに、沙苗は勢いよく幸村の胸に顔を押し付けると、声を殺して泣きだした。
 嗚咽を噛みしめ、悔しさに何度も幸村の胸を叩く。

 幸村は無意識のうちに少女の身体をそっと抱きとめる。

 彼女の深い悲しみが、見えない粒子となって幸村の全身に流れ込むと、心に深く沁み込んでいった。

 「お小遣い貯めてディズニーランドのチケットもペアで買ったんだよ。フライングもいいところよ、馬鹿みたい……」

 小さな子供に慰めるように、そっと頭を撫でてやった。
 少女は安心しきったように身を委ねると、遠慮無く幸村のシャツを涙で濡らし続けた。
 どれくらいそうしていただろう……沙苗の落ち着くのを見計らって、幸村はぽつりと口を開いた。

 「たぶん、何年か先に笑い話しになるんだと思うよ」
 「ホントに……?」

 不安げに見上げる少女の瞳に、幸村は微塵の迷いも無く頷いてみせた。

 「悲しみは乗り越えていくしかない……今、君が流した涙は、本当の幸せに出会うための涙なんだ」
 「とても心に響く言葉……あなたも、これまでに悲しい恋愛をいっぱい経験してきたのね」

 その質問に、幸村は何一つ偽ること無く正直に答えた。

 「残念ながら恋愛経験はゼロなんだ」
 「何よそれ、全然説得力ないじゃない!」

 沙苗が顔を上げると、抗議するように唇を尖らかす。

 が、次の瞬間にはおかしそうに笑った。
 それを見た幸村も笑う 二人はしばらくの間、お互いの顔を見て笑い合った。

 「もう、あなたのせいで泣けなくなっちゃったじゃない……」
 「涙のあとには虹も出るって、有名な格言もあるくらいだからな」
 「それ、格言じゃなくって、水戸黄門の歌よ」

 二人は再び笑いだす。何かのツボに入ったようにしばらく間、くだらない言葉のラリーで笑いを分かち合った。
 そして、ひとしきり笑い終わった後、幸村はふと思い出したように提案した。

 「虹、見に行こうか?」
 「え?」

 唐突に切り出された沙苗がキョトンと目を見開く。

 「虹だよ、虹……空にかかる七色の架け橋」
 「それくらい知ってるよ」
 「この近くに虹が見える秘密の場所があるんだ」
 「本当?」
 「ああ、子供の頃によく行った。落ち込んだ時とか、学校で嫌なことがあった時とか……」
 「好きな女の子にフラれた時とか?」
 「もちろんそれもある……灯台のあった場所、知ってる?」
 「うん、行ったこと無いけど……」
 「そこに行くと本当に綺麗な虹が見えるんだ」

 幸村が得意げに笑みを浮かべてみせた。

 「見てみたい……」
 「じゃあ決まりだ! 運が良ければ凄く大きな虹が見れるし、もっと運が良ければ……」
 「良ければ?」
 「それは行ってからのお楽しみ」

 期待の目で見る沙苗に片目を瞑って見せると、幸村は自転車の方へ歩いて行った。

 「ずるーい……」

 少女は拗ねたようにそう言うと、幸村の背中を追いかけた。
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