俺たちに夏はない

カイトの冒険の中の人

文字の大きさ
8 / 10
第三章

虹までは何マイル?

しおりを挟む
 「見れるって、でも……」
 「虹は絶対にある。この向こう側に」

 そう断言すると、幸村は金網に手をかけて登りだした。

 「ちょ、ちょっと何やってるの?」
 「何って、虹を見に行くんだよ」
 「だって、ここは立ち入り禁止なんでしょ?」

 慌てて止めようとする沙苗に、幸村は五本の指を突き出すと、丁寧に一本ずつ折り曲げていった。

 「偽証罪、迷惑条例違反、窃盗に誘拐……不法侵入が一つ増えたところで、大して変わりはないだろ?」
 ひとつひとつ思い出すように罪状を読みあげていくと、他人事のように笑ってみせた。
 「コーイチ……」
 「来る来ないはお前の自由だ、どうする?」
 「……いくに決まってるでしょ!」

 少女は迷うこと無く即答すると、幸村の共犯になるべく金網を登り始めた。
 金網は何とか手をかける隙間があったので、比較的楽に登ることが出来た。

 「まさかこんな所でフリークライミングすることになるとは……そっちは大丈夫?」
 「何とか。スカートを履いてこなくって良かったわ」

 二人が金網の上の方に達した時に、不意に背中越しに声が聞こえた。

 「何をしてるんだ、お前ら!」

 二人は咄嗟に声の方を見る。
 声の主はどうやら発電所の関係者らしく、オレンジ色の作業着にヘルメットを被った中年の男だった。たまたま現場を歩いていて、敷地内に入ろうとしている二人の姿を発見したのだろう。
 男は急ぎ足で二人の方へやってくる。その距離は二十メートルと言ったところか。

 「やばい、急げ!」
 「やっぱりマズいんじゃない、これって」
 「マズかろうが何だろうが、もう後には戻れないんだ。賽は投げられたんだよ」

 先に金網の一番上に達した幸村が思い切って跳躍すると、金網の向こう側に降り立った。
 高さがあったせいか、さすがに着地した時には足元に痛みが走ったが、今はそんなことを言っている場合では無い。
 幸村はまだ金網にしがみついている沙苗の姿を見上げると、急ぐように促した。

 「何をしている、早く!」
 「そ、そんな無茶言わないでよ。これでも一応、女の子なんだから……」

 まだ金網の折り返し地点を過ぎたあたりでもたついている沙苗――すぐ近くにまで男が迫ってきていた。

 「お前ら、そこは立ち入り禁止なんだぞ。今すぐに戻ってこい!」

 男は金網までやってくると、手を伸ばして沙苗の足を捕まえようする。

 「捕まるぞ、今すぐ飛び降りろ!」
 「無理よッ、そんなの」
 「俺が絶対に受け止めてやる、だから飛び降りるんだ」
 「だって……」
 「いいから、俺を信じるんだ!」
 「コーイチ……」

 少女は覚悟を決めたようにこくりと頷く。 男の手が真っ白な足首を掴まえた。

 と、思ったその瞬間――

 沙苗は瞳を閉じて金網から跳躍していた。
 スローモーションのように落下する沙苗……幸村は両腕を伸ばすと、全神経を集中させて彼女の身体を受け止めた。
 ずしりと両腕に体重がかかりバランスを崩しそうになるが、両足で何とか踏ん張り堪えた。
 幸村の腕の中で固く目を閉じていた沙苗が、ゆっくりと目を開ける。

 「信じろって言ったろ?」
 「うん、ありがとう……」

 得意げに見下ろす幸村に感謝の瞳で応える。

 「凄い、お姫様だっこなんて生まれて初めて」
 「でも、ちょっとダイエットした方がいいかもな……」
 「失礼ね、こう見えても体重は平均以下よ!」

 地上に降ろしてもらったお姫様が唇を尖らかす。

 「重力補正がかかったから重く感じたのかな?」
 「王子様が軟弱すぎたのかも……」
 「オンラインRPGの世界では、かなりHP高いんだけどな……」

 二人の楽しげなやりとりを、ヘルメットの男は神妙な面持ちで見つめていた。
 その視線に幸村が気付く。

 「さ、急ごう……灯台はもうすぐそこだ」
 「うん」

 幸村は男に踵を返して駈け出す。 沙苗もそれに続こうとするが、ふと思い出したように立ち止まると金網の方を振り返る。

 「あの、私達急いでますので、これで失礼します。用が済んだらすぐに出ていきます……」

 金網の向こうにいる男にそう言うと礼儀正しく頭を下げる。

 「用って……この森の向こうには、一体何があるんだ?」

 少女は頭を上げ男の顔をまっすぐに見ると、静かな口調ではっきりと答えた。

 「希望です!」

 怪訝な表情を浮かべる男に微笑みを残すと、沙苗は幸村のあとを追いかけるように森の中へ消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...