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Ep.1
しおりを挟む曇天の空がある。
陰鬱とした気持ちを抱え、僕は家路に付く。
梅雨は終わる見込みもなく雨は朝からシトシトと降り続いていた。
右手に持つ黒い傘を握り締め、誰とも顔を合わせないように深く傘を下げながら足早に歩いた。
一人暮らしをしてからもう何年も経った。
僕のアパートの近くには、簡素な公園がある。
簡易的な滑り台にブランコ。小さな砂場とベンチが幾つかあった。この公園へ入るとアパートまでの近道になる。
けれど僕は公園が嫌いだ。
公園と言うよりも、そこに集まる人と言う集団が嫌いだった。
奇声を発してけらけらと笑う子供も、噂話に気を取られ子供を無視する母親も。
世界で一番辛いのは自分だと言わんばかりのサラリーマンがちらほらと居て、見掛ける度に腹立たしくなった。
本当に吐き気がする程嫌いだった。感情の昂りに従ったらそれこそ一人残らず殺せる程。顔の判別が付かなくなる程壊せる程。
何がそこまで嫌なのかは自分でも分からなかった。
今日は生憎の雨。それが少しの支えだった。
こんな雨の中で、外出する人なんて居ないだろう。
目を背けたくなる自分の汚さや醜さ。人が居なければ何も思わない。何も沸き上がらない。
少しの覚悟を決めて僕はゆっくり公園へ入り、誰も居ないことを確認しようと辺りを見渡す。
「………?」
水溜まりが広がる砂場の手前にある二つのブランコ。
そこに誰かが座っていた。
犬や猫とは違うシルエット。多分人間だろう。
もしかしたら幽霊かも知れないけれど。そこに誰が座ってても興味はなかった。
軽く溜め息を吐いて公園を抜けようとした時、更に雨足が強くなる。バケツを引っくり返したような猛烈な粒。
ふとブランコに視線を向ける。この雨にも微動だにしない。
今度は深く溜め息を吐いて、ブランコへ近寄る。
「ねえ、生きてる?」
遠目からは分からなかったが、華奢な女性だった。
真っ赤なワンピースを纏っていた。真っ黒な髪が濡れて額にぴたりと張り付いている。
「何やってんの?家出?」
女性は何も話そうとはしないが、瞳だけは僕を直視していた。
気味が悪い。幽霊のように覇気がない。
本当に幽霊なのか。一瞬そんな馬鹿な考えが頭を過った。
真っ白な肌、ブラウン掛かった瞳。薄桃色の唇。漆黒の髪。
細い腕には無数の傷跡。あぁ、
「リストカット?」
思わず口に出してしまった。ぴくりと女性の肩が揺れる。震えているのか。泣き出しそうだった。
何に怯えているんだろう。何かが怖いのだろうか。
何とも言えない泣き出しそうな表情がとても綺麗で、何故か震える位興奮した。
「お願いがあります……」
囁くように紡がれる言葉。
僕は傘を少し女性の方へ傾け、耳を澄ます。
「暫く…匿って頂けませんか…。」
匿う、とは。何かに追われているのか。面倒な事は好きじゃない。ましてや人間なんてもっと好きじゃない。
なのに口を突いたのは自分でも信じられない言葉だった。
「いいよ。」
有難う御座います、細く呟いた女性の表情はやはり美しかった。
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