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第三章 虚ろいの秋雨
守りたかったもの
しおりを挟む「………昨日。あの後、彼──今井くんにもう一度会って、言われたんだ。
『半端に優しくするだけなら、もう二度と会うな。実雨の全てを引き受ける覚悟があるなら、迎えに行け』……って」
───え……
胸の奥が、ズクンと痛む。
鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなり、目の縁に溜まった涙がぽろっ、と零れ落ちる。
「……初めて会った時から、……いや、その前から、実雨を可愛いと思っていた。──だけど、君は大空が好きで、僕は只の聞き役でしかなかったから……この気持ちは不浄なもので、封印しなくてはいけないと思ってた」
「……」
「大人として。実雨の未来を考えれば……離れる事が、最善な道だと思った。
その時は苦しくても、きっと僕の事なんてすぐに忘れる。……僕も、いつかきっと、君を思い出にする事ができる。……そう、思った。
だから、恋人が出来たというメッセージが送られてきた時、これで良かったんだと納得したよ。でもその反面──想像以上に、ショックだった」
目を伏せた樹さんの表情に憂いが帯び、辛そうに歪む。
「──学生時代の時とは違う。
諦めて、忘れて、無かったものには出来なかった。
……この手が、この身体が………実雨の温もりを覚えてしまったから」
「………」
あの日──初めて樹さんと会った時の光景が思い出される。
動機は不純なものだったけど……初めての僕に、優しくしてくれて……
その優しさが、あの時の僕を支えてくれて──
「返事を出すか、凄く迷ったよ。
もし、再び繫がりを持ってしまったら……また僕は、聞き役に徹する事になるから。
自分を押し殺し、それに耐えられる自信が………持てなかったんだ」
「……」
「そのうち、唯一の繫がりであるコミュニティが消えているのに気付いて……酷く後悔した。
君を避ける事で、本当に守ろうとしていたものは、一体何だったのか………酷く思い知らされたよ。
何もかもを失ってから気付いたって……もう遅いんだ、って……」
一歩ずつ……樹さんが、僕との距離を詰めていく。
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