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第三章 虚ろいの秋雨
好き
しおりを挟む「だけど、昨日──実雨が僕を見つけて、声を掛けてくれた時は、本当に驚いた。
実雨が天使のように見えて……夢でも見ているのかと思ったよ」
「……」
……それは……僕も、だよ……
喫茶店のガラス越しに、樹さんの姿を見かけた時は、信じられなくて。
奇跡が起きたとしか、思えなくて。
「君をこの手で抱き締めた時、堪らなく愛おしさが込み上げてきて……
不思議と、運命みたいなものを感じたんだ」
「──!」
ドクンッ……
樹さんが、僕の目の前に立つ。
その表情は、先程まであった憂いがすっかり消え──優しさの中に、熱く滾る二つの瞳が、真っ直ぐ僕を捕らえて離さない。
溢れる涙をそのままに、真っ直ぐ樹さんを見上げれば……彼の長い指が、スッと寄せられ……
「何より君が、変わらず僕を慕ってくれていた事が……嬉しかった」
涙で濡れた僕の頬に、そっと触れる。
……優しくて……温かい手──
「好きだよ、実雨」
樹さんの──穏やかで、甘く……蕩けてしまいそうな声。
光が射したように、目の前がぱぁっと明るくなり、樹さんの全てがキラキラと輝いて見えて。
………樹、さん……
昂った感情が身体中を駆け巡り、熱い涙となって次々と零れ……樹さんの綺麗な瞳に映り込む。
その涙を、指先でそっと絡め取り、優しく僕に微笑んでくれる。
大空に、良く似た表情で……
あの日、大空に言えなかった言葉──嘘をつき、本音を隠してしまった後悔が思い出され、胸がキュッと締め付けられる。
もう……あんな思いはしたくない。
ちゃんと、言葉で伝えたい──
「………僕も、す………」
ふわっ……
意を決し、口を開いた途端──樹さんが僕を優しく抱き締める。
その瞬間に包まれる、樹さんの匂い。
樹さんの、温もり。
手のひらが僕の後頭部を抱え、樹さんの肩口へと押し込められる。
「──もう、逃げたりしない。
ずっと、傍にいるよ」
「……うん」
身体が、心が、声が………震える。
夢ならどうか、このまま醒めないで………
誰もいない教室──
降りしきる雨の見える、窓際の片隅で。
想いを確かめ合うように、抱き合った後……
隠れるように
そっと、唇を重ねた。
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