流刑島、運命の番

真田晃

文字の大きさ
上 下
14 / 26
3

4

しおりを挟む


首筋に刻まれた歯形。
……だけどこれは、番の証にはならなかった。


まだ、僕の身体がΩへと変換している途中で、核心的な部分がまだ未発達なのかもしれないな……
なんて、祐輔が冗談ぽく言う。



「……覚えてるか?」

気怠い体。心地良い疲労感。
僕の傍らに横たわる祐輔が、静かに口を開く。

「昔……横峯が、お前の親父さんの話をした時の事」
「………うん」

汗で濡れ張り付いた前髪を、祐輔がそっと指先で剥がしてくれる。
甘くて、優しくて……心をゾクゾクと震わせる、愛しい黒瞳。

「俺や他の奴らは、横峯の言葉に賛同しただろ?」


……覚えてるよ……

診療所に島の子供達を全員集めて、横峯がこの島の歴史を話した、あの日──

『お前の親父って、凄ぇ奴だったんだな!』

隣で聞いてた祐輔が、目をキラキラさせて、僕にそう言ったんだよね。


「でも葵は、全然嬉しくなさそうでさ。俺は、肉親を亡くしたからだと勝手に思い込んでた。
そしたら葵、俺の予想を遙かに越えた事言ってきてさ。
潤んだ大きな瞳から、ぽろぽろ涙を零して『……狼さん達が、可哀想』って。

その時思ったんだ。
……あぁ、俺にはない感覚を、コイツは持ってるんだな……って」



窓から臨む、遠い海と月。

ベッドの中で、祐輔の腕が僕を優しく包み込む。

しおりを挟む

処理中です...