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しおりを挟む広い駐車場に入り、サイドブレーキが引かれた場所は──以前ハイジ達と来た、あの問題の海岸に良く似ていた。
ザザーンッ、
堤防の壁に座り、振り返る形で海を見下ろす。と、吹き上げる冷たい潮風が襲い、僕の髪を乱す。
「……」
あの頃に戻れたら……何度そう願ったか解らない。
暑かった夏は過ぎ去り、季節はもうすぐ冬を迎えようとしているのに。もう二度と来ない、楽しかったあの日々が思い出されて……心が震える。
「寒いやろ」
売店横の自販機から戻ってきた凌が、ホットミルクティーのペットボトルを僕に差し出す。
「……」
「俺、冬の海って……めっちゃ好きやねん」
怖ず怖ずと受け取れば、そう言いながら足を海の方に投げ出し、僕の隣に座る。
「広い海見とると、悩んどった事が段々ちっぽけに思えてきて……全部、波が飲み込んでいってくれるんや」
「……」
「何に思い詰めとったかは知らんけど。きっと、さくらちゃんも海見てたら、……少しは楽になるんやないかな」
「……」
ザザザッ……
波の音につられて、再び振り返る。どうやって生まれるのか解らない波が、幾重にも押し寄せて……
広くて大きな海に、僕の全てが飲み込まれてしまいそうで──目が離せない。
「……凌、さん」
今なら、言えそうな気がする。
不安も後悔も、きっと波が連れ去ってくれる。
「僕、……ハルオの元から、逃げたいんです」
そう言い切ると、吐く息が細かく震える。
「最近のハルオは、おかしくて。
僕の行動を制限したり……身体を、求めてきたり……」
ゾクッと背筋が冷える。
一度口にしてしまえば──それまで鉄壁で守られてきた心が剥き出され、脆くて柔い感情が溢れてしまう。
「──はぁ、そういう事か」
溜め息混じりの声。それまで僕を見ていた凌が、天を仰ぐ。
「こんな可愛ぇ子と、ずっと一緒に住んどる訳やし。間違いを起こしそうんなるハルオの気持ち、わからんでもないけどな」
「……」
「……行き過ぎや」
憂いを帯びた、優しい眼。
凌の手のひらが、僕の頭にそっと置かれた。
「辛かったやろ」
「……」
「話してくれて、ありがとうな」
「──!」
ずっと、欲しかった言葉──
それまで冷えていた指先が、ホットミルクティーの熱で芯から温かくなり、胸の奥が柔らかく締め付けられる。
溢れてしまった涙を隠そうと目を伏せれば、風で乱れた僕の髪を大きな手が優しく撫でてくれた。
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