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薬 指先 八重歯
しおりを挟む笑った時にチラリと見える、悠の八重歯。
僕はそれさえも、愛しく感じていた。
高校を卒業して半年ぐらい経った頃。
仕事帰りに携帯を確認すると、悠からの『死にそう、助けて』というメッセージが入っている事に気付いた。
慌てて悠のアパートに駆けつければ、悠は玄関を上がった所で倒れていた。
熱い身体。苦しそうな呼吸。
脱力しきって重たい悠を布団まで運び、水道水で濡らして絞ったタオルを悠の額に当てる。
少しは和らいだのか……悠の息遣いが穏やかなものへと変わり、ホッと胸を撫で下ろす。
「……悠。風邪薬買ってくるから、ちょっと待っててね」
耳元で囁き、立ち上がろうする。と、悠の手が、僕の手首を強く掴んだ。
「……行く、な……」
熱い、手。
柔く瞼を持ち上げ、虚ろ気ながら黒瞳はしっかりと僕を捕らえ……
苦しいんだろう。その瞳は潤んで光り、下瞼の縁が少し赤い。
「……ずっと、傍にいろよ……」
「……」
「俺から、離れるな」
「………うん」
答えながら悠の顔を覗き込めば、安心したように息を吐き、瞼が閉じられる。
僕の手首を掴む、悠の手。それが次第に緩んでいく。その手を拾い上げ、両手できゅっと包んだ後、掛け布団の中にそっと仕舞った。
ブラウンベージュの柔らかな髪。
ベビーフェイスながら、意志の強い太眉。
奥二重のつり目。少し厚めの唇。
格好いいのに、時々可愛くて。
悠の寝顔を見ながら、愛おしさが込み上げてくる。
熱を吸い取って、温かくなってしまった額のタオル。
それを取り外そうとした時、悠の手が僕に伸ばされ──僅かに開かれた瞳。僕の顎先に指が掛けられ、親指の腹が、下唇に当てられる。
「……ゆ、う……」
「双葉……気付いてる? 俺の名前を呼ぶ度、唇がキスの形になってんの……」
柔くなぞる指。
熱のせいか。潤んだ瞳に熱情の色が一瞬見えたような気がした。
急に恥ずかしくなり、悠の手から逃れて視線を外す。次第に熱くなっていく、頬──
「……双葉、可愛い」
そう言ってゆっくりと瞬きをし、揶揄うように口角を持ち上げた悠は……僕に、愛しい八重歯を見せてくれた。
「……」
あの頃は、まさか突然終わりがくるなんて……
想像もしていなかった──
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