12 / 62
残業 布地 菜の花
しおりを挟む「すみません、遅くなってしまって。──其方は?」
真っ直ぐ此方に向かって来る誠が、爽やかな笑顔を向ける。
しかし、それは初めて見る表情で。一見優しそうでありながら、ガラス玉の様な黒瞳の奥に、その一切が感じられない。
「……渡瀬、さ……」
掴んだ布地から手を離し、一歩後退りながら繋がれた手を離そうと引く。
……けど、それを許す筈も無くて──
「……誰だよ、お前」
振り返った悠が、剥き出しにした敵意を誠に向ける。威嚇した低い声で。
それに臆する事無く、誠は柔らかな物腰ながら、僕とそう変わらない背丈の悠に近付き、笑顔で見下ろす。
「誰でも、良いじゃありませんか。
……それより、公の場で随分と大胆な事をされるのですね。
僕や周りにいる方から見れば……貴方は明らかに不審者です。
……どうされますか?
彼、随分と嫌がってますが……まだこのまま続けます?」
「……!」
誠の言葉に突き動かされ、悠が辺りを見渡す。
何事かと、行き交う人々の好奇な目、目、目──
悠の手が、緩む。
するりと滑り落ち……ぶらんとぶら下がる。
その悠の指先が、大きく震え出す。
「行きましょうか」
「……」
じん、と痺れた僕の手を、誠の大きな手がそっと拾う。
驚いて顔を上げれば、そこには僕の知ってる優しい笑顔に戻っていて……
「……」
誠にエスコートされながら、振り返る。
しかし、先程までそこにいた悠の姿はもう無く。
残ったのは──指間に食い込んだ、マリッジリングの痛みだけ……
「……すみません」
隣から降ってくる、憂いを帯びた柔らかな声。
「仕事が長引いてしまったせいで……嫌な目に遭わせてしまいました」
申し訳無さそうに眉尻を下げ、僕から視線を逸らしながら、気まずそうに瞬きを数回する。
綺麗に整った、その横顔から感じるのは哀愁だけで……先程の緊迫した雰囲気は、もう何処にも見当たらない。
「………いえ、」
答えながら、僕も俯く。
光沢のある白いフロア。視界の下部から見え隠れする、自身のスニーカー。その光景を、ぼんやりと眺める。
「……」
まだ、指先が痺れてる。
悠の時とは違った感情が、重なった手のひらから流れ込んでくるようで──熱い。
※改稿に伴い、菜の花がどうしても入りませんでした。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい
マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。
しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。
社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。
新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で……
あの夏の日々が蘇る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる