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黄色 いけにえ 枝
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小刻みに震える、悠の指先。
震えている、というよりも、ピクピクと大きく痙攣している、と言った方が正しいのかもしれない……
その指を、もう片方の手で握って押さえ込む。しかし一向に治まらず。一定のリズムを刻んでいる。
「……あぁ、くそっ!」
「悠、どうしたの……それ……」
「何でもねぇよ!!」
一蹴し、立ち上がった悠が部屋を出ていく。
床を綺麗にした後、散乱した服を拾い上げ、袖を通す。
シャワーを浴びる音。綺麗に畳んだ服を脱衣所に置く。冷めた紅茶。お湯を沸かして淹れ直せば、辺りに立ち込める、アールグレイの香り。
スッと鼻孔を通り抜け、肺の中でいっぱいになれば……不安で押し潰されそうだった僕の心が、柔らかく解されていく。
「……」
再び付けられてしまった、首筋の痕。そこに指を添えれば、身体に刻まれた行為が思い出されて……
歪む視界。
溢れた涙が、頬骨の上をツッと掠めながら落ち、縦に一筋の跡を残す。
「……双葉」
着替えた悠が、戻ってくる。
先程のトゲトゲしい雰囲気は消え、指の震えも止まっている。
だけど、纏う空気も声も表情も……何処か憂苦に沈んでいた。
「ごめん、俺……サイテーな事した」
「………」
何て答えたらいいか、解らない。
許すも許さないも……ない。
こんな事、そう簡単に割り切れるものじゃない。
──でも。
もしここで、僕が拒絶したら……悠が、壊れてしまいそうで……
「………シュークリーム、食べよ?」
眉尻を下げたまま、口角を少しだけ持ち上げて見せる。
「……双葉」
悠の驚いた顔。
テーブルの上にある紅茶から、微かに立ち上る湯気がくゆる。
肌寒い朝。
だけど、昼時になれば春らしい陽気になる為、薄手のシャツに春コートだけで充分だったりする。
「……で。何で侯爵が居んだよ!」
「んー、何でだろう?」
飄々と答えながら、大輝が屈託のない笑顔をして見せる。
『一緒に散歩したい』と言う悠の申し出に答え、二人でアパートを出た所、偶々大輝の姿があったのだ。
「……そういえばいたよね。ポチって名前の大型犬」
グラウンドが併設された、敷地の広い公園内。遊歩道の途中にあるベンチに、犬を連れた集団が集まって、井戸端会議をしていた。
「あー。大輝みたいな、ほぼ放し飼いの危険な犬だろ?」
「……へぇ。悠くんて、そういう事言うんだぁ」
不適な笑みを浮かべた大輝が、横目で意地悪く悠を睨む。
「おまっ。……いつも俺をいけにえにして、さっさと学校行ってただろ!」
「……はは、そうだっけ」
小学校が一緒だった二人は、僕の知らない頃の話で盛り上がる。こういう時の僕は、いつも蚊帳の外。
公園内を見渡せば、いつの間にか梅の蕾が綻んでいた。細い枝に付く、小さな黄色い花。柔らかな朝日を浴び、朝露に濡れたそれがきらきらと煌めく。
一度風が吹けば、その花香が辺りに漂う。
「双葉。何か飲み物買ってきてよ」
梅の花を見上げていた僕に、大輝が声を掛ける。
震えている、というよりも、ピクピクと大きく痙攣している、と言った方が正しいのかもしれない……
その指を、もう片方の手で握って押さえ込む。しかし一向に治まらず。一定のリズムを刻んでいる。
「……あぁ、くそっ!」
「悠、どうしたの……それ……」
「何でもねぇよ!!」
一蹴し、立ち上がった悠が部屋を出ていく。
床を綺麗にした後、散乱した服を拾い上げ、袖を通す。
シャワーを浴びる音。綺麗に畳んだ服を脱衣所に置く。冷めた紅茶。お湯を沸かして淹れ直せば、辺りに立ち込める、アールグレイの香り。
スッと鼻孔を通り抜け、肺の中でいっぱいになれば……不安で押し潰されそうだった僕の心が、柔らかく解されていく。
「……」
再び付けられてしまった、首筋の痕。そこに指を添えれば、身体に刻まれた行為が思い出されて……
歪む視界。
溢れた涙が、頬骨の上をツッと掠めながら落ち、縦に一筋の跡を残す。
「……双葉」
着替えた悠が、戻ってくる。
先程のトゲトゲしい雰囲気は消え、指の震えも止まっている。
だけど、纏う空気も声も表情も……何処か憂苦に沈んでいた。
「ごめん、俺……サイテーな事した」
「………」
何て答えたらいいか、解らない。
許すも許さないも……ない。
こんな事、そう簡単に割り切れるものじゃない。
──でも。
もしここで、僕が拒絶したら……悠が、壊れてしまいそうで……
「………シュークリーム、食べよ?」
眉尻を下げたまま、口角を少しだけ持ち上げて見せる。
「……双葉」
悠の驚いた顔。
テーブルの上にある紅茶から、微かに立ち上る湯気がくゆる。
肌寒い朝。
だけど、昼時になれば春らしい陽気になる為、薄手のシャツに春コートだけで充分だったりする。
「……で。何で侯爵が居んだよ!」
「んー、何でだろう?」
飄々と答えながら、大輝が屈託のない笑顔をして見せる。
『一緒に散歩したい』と言う悠の申し出に答え、二人でアパートを出た所、偶々大輝の姿があったのだ。
「……そういえばいたよね。ポチって名前の大型犬」
グラウンドが併設された、敷地の広い公園内。遊歩道の途中にあるベンチに、犬を連れた集団が集まって、井戸端会議をしていた。
「あー。大輝みたいな、ほぼ放し飼いの危険な犬だろ?」
「……へぇ。悠くんて、そういう事言うんだぁ」
不適な笑みを浮かべた大輝が、横目で意地悪く悠を睨む。
「おまっ。……いつも俺をいけにえにして、さっさと学校行ってただろ!」
「……はは、そうだっけ」
小学校が一緒だった二人は、僕の知らない頃の話で盛り上がる。こういう時の僕は、いつも蚊帳の外。
公園内を見渡せば、いつの間にか梅の蕾が綻んでいた。細い枝に付く、小さな黄色い花。柔らかな朝日を浴び、朝露に濡れたそれがきらきらと煌めく。
一度風が吹けば、その花香が辺りに漂う。
「双葉。何か飲み物買ってきてよ」
梅の花を見上げていた僕に、大輝が声を掛ける。
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