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キング編
442.
しおりを挟む僕の前髪に指を通し、親指で額を優しく撫でた後、丁寧に梳く。
その度にさらりと揺れる、金色の屋久の毛先。
「……」
『俺も』……って……
屋久の口から紡がれた言葉が、俄に信じがたい。
「どんな状況でも、傷つけた相手を思いやる慈悲深いお姫さまなら、……きっと解ってくれるよね。
俺がどんな思いで、ここまで上りつめてきたのか──」
………はぁ
壁に寄り掛かり、力無く溜め息をつく。
物心ついた頃には、既に地獄のドン底にいた。
両親は麻薬でイカれ、テーブルや床には、散乱したゴミや垂れ流された精液と糞尿。ツンと臭うそれを片付ける気力もない9歳の屋久は、僅かに開いた窓から入ってくる新鮮な空気を吸うために、ただ、天を仰ぐしかなかった。
人が人で無くなり……滅んだ肉の塊でしかないそれは、気付いた時には既に冷たくなっていた。
冷蔵庫は勿論、食糧保管庫の缶詰やレトルトは底をつき、電気ガス水道も既に止まっている。こんな肥溜めのような部屋の中で、こんなクソ両親の後を追うように死んでいくのかと思うと……この世に生まれてしまった事を呪いながら、そっと瞳を閉じる。
ドン、ドンッ……
その眠りを阻止するように、ドアを突き破るような、激しい音が。
「ぉえ″ぇっ、」
「………あ″ぁ、クソがッ!」
土足で上がり込んだ黒尽くめの男達が、鼻と口を手で押さえながら怒号を飛ばす。
「──ぅえっ、臭ぇッ、!」
「どうしますか……」
「どうするもこうするもねぇ。そこのガキでも捕まえとけ」
「………って、コイツ……尻から精液垂れ流してるぜ」
「ハッ、マジかよ。……あぁ臭ぇなぁ。こんのクソジャンキーがぁッッ!!!」
男の一人が屋久の痩せ細った腕を引っ張り上げれば、もう一人が既に屍と化した男の股間を思いっ切り蹴飛ばした。
「しっかし……狂ってるぜぇ。
幾らブツを隠す為とはいえ、実の息子のケツ穴にぶち込むなんてよぉ。
……それも、母親のいる前で犯しながらだぜ」
「……その母親も、目の前で何が起こってんのか解ってなかったんだろうなぁ」
「……」
運転席と助手席の男が、先程見た惨劇を懇々と語る。
汚れきった身体。限界を越えた精神。このまま朽ち果てたくはないと思いながらも、今更になって早く命を断ち切れば良かったと、移りゆく窓の外を眺めながらぼんやりと考えていた。
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