シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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キング編

460.

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「………君は、何処までも優しいんだね」


軽い溜め息をついた後、掬ったシチューを静かに口に含む。
先程までとは違い、何処か突っぱねたような冷たい態度。その緊迫した空気に、思わず息を飲む。

「でも……それじゃあこの世界では、生きていけないよ」

淡々と語りながら、千切ったパンを今度は何も付けずに口に入れる。


「姫。この世の正しさ──正義とは何か、解るかな?」
「……」

両腕をテーブルに置き、屋久が静かに僕を見据える。
突き刺すような、真っ直ぐ芯の通った視線。

「………少し、質問を変えようか。
正義の理念は、一体誰が決めたと思う? 天の神様か? 神が宿った人間か?」
「……」
「では何故、正義を掲げる者同士が戦わなければならない。何故……この世から紛争は絶えないと思う?」
「……」

突然、哲学的なものから世界情勢にまで話が及んでしまい、その意図が解らず脳内が混乱する。
そんな僕の表情を汲み取った蒼眼が、ふと緩む。

「この世に産み落とされた瞬間から、人の優劣は決まる。支配者がこの世の秩序やルールを作り、従者はそれに従う。純粋無垢な赤ん坊にそれとなく植え付けられた『正義』は、支配者の思想そのものなんだよ。
国が変われば、思想は変わる。……当然、正義の概念そのものもね」
「……」
「それぞれの人間が持つ、本能的な思考や自我の芽は、早期に摘み取られ、支配者にとって都合の良い従者が作られていくんだ。正に軍隊だよ」
「……」
「『人を傷つけてはいけません』『みんなと仲良くしましょう』──幼い頃、大人達に言われた其れ等の言葉は、究極の理想論でしかない。純粋無垢の子供達は、世界が美しいもので溢れていると信じて疑わないだろう。だけど、成長していくにつれ……この世は想像以上に複雑で、ある種では腐敗し、決してそうではない事に気付かされる。
……だから人は、その汚れに適応し、生き抜く為の術──心の穢し方を学んでいくんだよ」

「……」


───心の、穢し方……?


「従者は、支配者が作った秩序とルールの下で、時に互いを騙し合い、傷つけ合う。……自身の中で新たに芽生えた、正義や思想、信念を守る為にね」
「……」
「その当たり前な事が、姫はまだ出来ていない──上手く、成長できていないんだよ」


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